毎度曜日の朝刊に掲載されていた水村美苗さんの「母の遺産」という小説が4月2日付けの掲載分で最終回を迎えた。
毎週、土曜日の朝は、この小説を読むために、楽しみにしていたと言えば、正直、嘘になるかもしれない。彼女の巧みな描写力で老女の,または中高年の女性たちの人生観や生活感を身近に感じ、そばに登場人物がいるような、多少、食傷気味というかリアルな体験に近い生々しさや焦燥感を覚えたので、さらっと目を通す程度にしていた。
そして挿絵画家が山口晃さん。この方のことは前にもチラッと書いたように、かなりユニークな画家だと思う。で、彼のユーモア感覚にあふれた、立体的で多層的な感覚、そして、古今東西自由自在なスタイル、そのおしゃれでスマートな挿絵が、なんとも重苦しいこの小説の世界のオアシスになっていた。
本当に小説家の水村さんには失礼な話だけれども、山口さんとのコラボというか組み合わせで、ひとつの作品として、私の記憶の中で定着してしまった。
で、最終回の感想なのだが、私としては、どことなくいきなり、畳み掛けるようなエンディングのような性急な感じがするのは、的外れであろうか?
まだまだ、これから楽しい展開が始まると思っていたので、少し拍子抜けした感じであるし、もしかすれば、続編ができるのかもしれない。
そしてもうひとつだけ、新聞に連載していることをリアルに痛感させるのは、今回の地震のことを小説の中に盛り込んでいる点。
果たして、これはどうなんだろう。地震が起きることはもちろん、専門家でも予測できないわけだから、地震のことを小説に盛り込んだのは、当然、3月11日以降になる。
で、小説のエンディングは掲載される日に合わせて、4月2日の記述がある。ということは、どういうことなんだろう。4月2日に終わることは予定されていたのだろうか?いや、待てよ。確か私の記憶では、3月12日の土曜日に、この小説は確か、掲載されていなかった。たぶん、もし、この季節で終わるとすれば、先週に終わるはず作品だったはずだ。
どういうことなんだろう。よくわからない。この小説はもっと続くはずだったのではなかろうか?中央公論社から単行本が刊行されるみたいだが、その際には、大いに加筆されるのだろうか?もしくは番外編や続編などがでるのであろうか?
とにかく、紙面に載せるスケジュールを考えれば、実質、2週間程しかなかったわけだけれど、この春で掲載終了の予定なら、とっくの昔に執筆は終わっていたはずだ。
ということは、やはり地震が起きて書き直した?もしくは掲載予定を大幅に短縮した?
うーん、気になってしかたない。
空前絶後の震災が起きたのだから、震災とともにこの作品を人々の記憶に定着させようという浅はかな魂胆ではありえないだろう。しかし、どうも、それをひとつのささいな伏線というか材料にしているような感じが否めないのである。
何が言いたいのか?つまりはもし、この度の震災がなければ、エンディングの震災の記述はなくなるわけだから、この小説はその場合、一体全体、どういう終わり方をしていたのか?ということだ。それを作者の水村さんにお尋ねしたいものである。
で、最終回はあっさりという感じで、言葉が過ぎるかもしれませんが、あっけない感じでした。単行本におおきに期待したいのですが、挿絵が白黒になるのなら、少し寂しいと思います。ぜひカラーで見たいものです。