ワニなつノート

ほんとうのこと (子どもがないている)



ほんとうのこと (子どもがないている)




子どもが
泣いている
たすけてという声は
きこえない
まだことばは
しらない

たすけてとのばす手は
ない
まだたすけてくれるひとを
しらない

だれかが助けを
もとめてる
どうして、わたしはそう
おもったのか
まだ出会ったことのない子が
たすけてと
よんでいる

その声はきこえない
その姿はみえない
ことばはここに
とどかない

なのに、どうしてわたしは
たすけにいこうと
おもったのか

さいしょにきいた泣き声は
だれの声だったか
さいしょのことばは
だれのきもちだったか


           ◇


康司を助けたいと
おもった
だけど、どうしていいのかわからないまま
長い年月がすぎ
わたしと彼は
出会った

わたしはたすけた
つもりで
いた
たべること
あるくこと
トイレにいくこと
おふろにはいること
学校にいく日
学校にいかないきもち
いっしょに旅をする日
そうしてわたしはたすけた
つもりで
いた


たすける相手がいなくなって十五年
わたしはもうかれを
たすけることが
できない

なのに、今日もわたしは
かれにたすけられて
いる

そのことが、いま
わかる

さいしょにきいた泣き声は
じぶんのこえだった

さいしょにきいたたすけては
じぶんのこえだった

8さいのあの日の
じぶんのこえだった


だからたすけなきゃと
心がずっと願ってる
8さいのあの日から

だれかが泣いている
たすけてと願ってる
だから
いかなくちゃ
はやくたすけに
いかなくちゃ


それが生きる動機になった
8さいのあの日から
ガンになる日まで
そう、8さいからさいごまで
それが生きる意味になった

     ☆

まってろよ
いまいくから
あきらめるな
ぜったいに助けるから

そういってくりかえした
失敗の日々
なぜなら遭難しているのは
わたしだったから

おびただしい数の失敗をくりかえし
そのおかげで
わたしは数え切れないくらい
助けられてきた


だからこんどこそ

こんなことで泣かせない
泣きたいことは他にいくらでもあるから

六才の子どもががっこうに
いく

これは
泣かなくていいことだから

これは
笑っていいことだから

だから、あたりまえにもらおう
入学通知





(2015・9・11 かれがいなくなって15年目の日に)
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