ワニなつノート

ボーイズクリニック(1)




『性的虐待を受けた少年たち 
   ボーイズクリニックの治療記録』

(アンディシュ・ニューマン 新評論)


このタイトルの本を手に取る人は、そんなには多くないと思います。
今まで、最も語られてこなかった子どもの苦しみの一つだと思います。

だからこそ、この本で出会う5才、6才の男の子たちの苦しみは、10才、11才の男の子たちの苦しみは、本当に苦しんでいる子どもを援助したいと願う人に、大切なことを教えてくれます。


☆   ☆   ☆   ☆


虐待を受けた子どもたちが、最終的に学ばねばならないことはたくさんある。

自分の人生を前向きに歩んでいくこと、
被害者意識の中で、身動きが取れないような状態に陥らないこと、
起こったことを受け入れて、それを過去のこととすること、
過去をつくりかえたり否定したりしようという考えを手放すこと、
正義を完全に貫かせることはできないという事実を受け入れることなどである。


無力な状態から逃れる方法についての私たちの信念は、受容と和解である。

ここにくる少年たちは、通常ではありえないような特異な経験をくぐりぬけてきた。

自分自身のことを平凡な普通の少年として受け入れることが
できるようになるためには、周囲の人々からの大いなるサポートが必要である。



性的虐待を受けた少年が、ほかの少年たちがするのと同じようなこと、
水泳をしたり、自転車に乗ったり、サッカーをしたりといったことができるようになることも重要である。

また、時計の読み方や靴ひもの結び方なども学ばねばならない。


当事者の少年だけでなく、少年の周囲にいる人々もまた、あらゆる問題の原因を、虐待に帰してしまう危険にさらされている。


虐待を言い訳にして、子どもの能力を奪うほどの過保護がまかり通っている。

そうした過保護は必ずしも必要ではないし、効果が期待できるわけでもない。

受容と和解は、虐待された子どもを援助しようとするすべての大人にとって必要である。

同時に困難なことでもある。


私たちは、ボーイズクリニックでごく普通に振る舞いながら、受容と和解のプロセスを明らかにしようと試みている。

たとえ少年が異常な恐ろしい行為の被害者であったとしても、そしてそのために私たちの治療を受けているのだとしても、彼自身が異常なわけでないし、自分を嫌悪する必要もない。

この事実を強調したいがために、私たちはミルクとクッキーを用意して少年たちを迎え、趣味や将来のことについて話をするのである。

…異常な経験をしたとしても、良い生活を送り、普通の少年としての感情をもつことができる。
こうした希望をもつことが重要なのだ。



☆   ☆   ☆   ☆


この文章の「虐待」という言葉を、「障害」に置き換えても、「いじめ」に置き換えても、家族を亡くした事件や事故に置き換えても、子どもに伝えたい大切なことは同じだと、私には思えます。

せめて10年前に、この本を読みたかったと思います。
コータやカズキやハルミに会う前に、このことを身に染みて知っていたら、私はもう少し、何か、できたことがあったかもしれないと、思います。

だから、せめて、「子どもの苦しみ」や、子どもの「自己否定」ということについて、ちゃんときちんと伝えることをしたいと思います。


一人よがりの大人の善意は、子どもの助けにはならないと伝えたいと思います。


「特別支援教育」は、子どものなかの「ふつうの少年」を奪うものであることは確かなことです。



コメント一覧

yo
Osamuさま
こちらこそ、大切なことを思い出せていただき、ありがとうございます。

タイトルに(1)とあるように、本当は続きを書きかけていました。でも「ここに何か大切なことが書いてある」とは感じても、どう表現していいか分からず、流してしまいました。

あれから10年…。その後「援助ホーム」を始めたこともあり、新たな出会いがありました。
改めて「つづき」を書いてみたいと思います。
osamu
2年前ぐらいに一度、この本を検索してたどり着きました。そして最近、またこの本について検索したところ同じようにブログに着きました。そして主さんの文章を読んで、少し理解できた部分があり、この本を読むことへの後押しにもなりました。当時はわからなかった意味が年を追うごとに主さんの言葉が響きました。ありがとうございます。
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