【命の授業 放課後】《下》
家族「巣箱のような存在」
山田泉さん死去から一年
2009/11/30西日本新聞朝刊
1年は長く感じた。
「母のことをいろいろ考えていたから」
と山田泉さんの長男一貴さん(24)は言う。
四十九日、初盆…。
法要のたびに母との時間を反すうした。
同志社大4年の一貴さんは、
京都から豊後高田市の実家に帰ると、
山田さんの本棚の前に立つ回数が増えた。
気になる作家の本が並んでいる。
被差別部落の問題を描いた住井すゑ氏の「橋のない川」、
在日朝鮮人作家高史明氏の「夜がときの歩みを暗くするとき」
など人権について考えさせる本が多い。
交流があった松下竜一氏や
沖縄戦を伝える本もあった。
折り目の付いたページや文中に線の引かれた所を見つけた。
巻末には購入日や、「土谷泉」と旧姓が書かれていた。
「20代のころ、これらの本を読み、何を思ったのか」
◇ ◇ ◇
古いアルバムにも発見があった。
広島で撮ったとみられる反核を訴える市民運動家の小田実氏、
日出生台演習場で反戦の拳を上げる人々などの写真が
張り付けられていた。
今まで知らなかった母の一面が見えてきた。
「命の授業」が報道されるようになった
3年ほど前から一貴さんには戸惑いがある。
がん体験を基に授業する養護教諭‐。
山田さんの表面的な活動だけを見た人には、
母が「神様みたいな存在」に映っていると感じる。
一貴さんは「最初から命の授業があったわけじゃない」
と確信する。
人権や平和の問題と真剣に向き合った
若いころからの蓄積が、
山田さんにとって結果的に
命の授業をさせたのではないかと。
◇ ◇ ◇
自宅の壁や棚に、山田さんの写真や
教え子の寄せ書きがそのまま残る。
夫の真一さん(53)は朝晩、山田さんの霊前に話し掛ける。
「行ってきます」と告げて家を出、
帰ればその日の出来事を話す。
もっとたくさん話をしたかった。
「思い出すとまだ駄目ですね」。
涙がこぼれることもある。
「真ちゃん」。
山田さんは、亡くなる前に遺言をテープに吹き込んでいた。
感謝の言葉の後に「仕事、生き生きやって」と励ましが続く。
真一さんの支えになっている。
テープには「鳥が巣箱に帰るように安心して帰れる、
そういう家の空間にして」と
真一さんに子どもたちを託した言葉がある。
「教え子やがん患者仲間、そして家族にとって、
妻自身が巣箱のような存在だったのでは」。
一周忌に合わせて全国から届いた花々を見て、
真一さんはそう思う。
一貴さんは来春、テレビのディレクターとして社会に出る。
知らない分野の人たちとの出会いが楽しみだ。
そこから何かを得て、
「見ている人が豊かになるものをつくりたい」との夢がある。
今、本棚で対面する母と自分の年齢が重なる。
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