ワニなつノート

クリスマスのハクテン (4)



≪4≫ 12月12日


「イトせーん。あのね、いいことかんがえたよ」
久しぶりにカズキの明るい声を聞く。

「どうした。やっぱり、サンタさんに100点を頼んでみるか?」
「ううん。サンタさんはだめなんだ」
カズキがこたえる。

「そうか、だめかぁ。どうしてだろ」
「知ってるんでしょ。センセなんだから、それくらい」

それくらい? どれくらいだ? 
「…かなぁ」
適当にとぼけてみる。

「ちがうよ。
 サンタさんがみんなにハクテンをあげたら、
 せんせのしごとがなくなっちゃうでしょ」

「そうか、そりゃそうだよな。うん。そりゃぁ困るな」
真面目に答えているのだが、つい笑みがこぼれる。

「なにがそんなにおかしいの?」
カズキが不思議そうに聞く。

「いや、ほんとにそうだよな。
 先生の仕事がなくなったら困るもんな。
 カズキが頼まないでくれて助かったよ」

「きょねんは、たのんじゃったけどね…」

「えー、頼んじゃったの?」

「でも、きょねんはほかにもいっぱいたのんだから、
 ハクテンはだめだった」

「そうかあ、願いがかなってたら、先生はここにいないんだもんな」

「どうして?」
カズキがまた不思議そうな顔で聞く。

「だって、先生の仕事がなくなっちゃうんだろ」

「うん。でも、先生はここにいていいよ」
カズキがまじめな顔で答える。

「それにもう、ハクテンはたのまないからだいじょうぶだよ」
「そうか。ありがと」

カズキのまっすぐな表情を見ていると、
なぜか素直な気持ちになれる自分を感じる。

「それで、今年のお願いは決まったのか?」
そう聞くと、カズキがうれしそうに笑う。
「うん。いいこと」

「そっか。いいことか。秘密?」

「うん。ヒミツだけど。
 とくべつにおしえたげる。
 あのね、やっぱりハクテンは自分でがんばってとるんだ。
 それでね、サンタさんにプレゼントするんだよ」
カズキが目を輝かせて話す。

「サンタさんにプレゼント?」

「うん、代わりにね、お母さんのプレゼントをお願いするんだ。
 ね、いい考えでしょ」

「お母さんに? 
 カズキのおねしょがなおるように、とか」

「もお、そんなの、ぜんぜんいい考えじゃないよ。
 バッカだなぁ、イトセンはぁ」
カズキがほんとうに情けないという顔でため息をつく。

「そうかなぁ、けっこういい考えだと思うんだけどな…」

「おとさんだよ。おとさん。」
カズキは私が気づくのが待ちきれないで話し出す。

「おとさんを探してもらうんだよ。
 サンタさんは世界中に行けるから、お父さんに会うかもしれないでしょ。
 そしたら、おとさんに帰ってきてって伝えてもらうんだ。」

「そうか…」

カズキがハクテンを欲しがった理由がようやく分かった気がした。

「わかってるよ。サンタさんも忙しいってことくらい」
今日のカズキはいつもにまして、よくしゃべる。
「だから、ハクテンなんだよ」

ずっとずっとそのことを考えていたんだろう。

「ハクテン取ったら、おかさんもうれしいし、
 3年生になってもみんなといっしょにいられるでしょ。
 そしたら、お父さんもカズキがんばったなあって笑ってくれるかな」

そう言って、カズキはうれしそうに笑った。

クリスマスとハクテンがどうしてつながったのか、
考えてみれば他の子どもたちもクリスマスが近づくと、
「いい子」という言葉に弱くなる。
中には、通知表がサンタさんがくるかどうかの「通知」だと
思わせられている子どももいる。

「ハクテンっていいねぇ。
 かんがえただけで、こんなにうれしんだから、
 ほんとになったら、すてきだねー」

そう言うと、カズキは暗くなりかけた窓の外、遠くの空を見上げた。

「サンタさんといっしょだね。
 いちどもあったことないのに、ずっとワクワクして、たのしくて」

「そうだね…」
それだけ言うのがせいいっぱいだった。
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