「就学猶予免除」とは何か? (その1)
この20年間、年に4,5回の就学相談会で、
就学前の子どもの親に出会い続けてきました。
猶予のことを質問されるのは10人に一人くらいだったでしょうか。
実際に猶予する人は年に一人いるかいないかでした。
「あと一年あれば、みんなに少しでも近づくんじゃないか…」
「そうすれば、学校生活に馴染みやすいんじゃないか…」
「戸惑う場面も減るんじゃないか…」
「ついていけるんじゃないか…」
そんな親の気持ちが分からないわけではありません。
「生まれてからずっと入院や治療ばかりだったから、
もう少し《遊びの時間》を経験させてあげたい…」
「ずっと家にいたから、学校に入る前に、
保育園での集団生活を経験させてあげたい…」
そんな言葉を聞くと、保育園、幼稚園で子どもたちが
楽しそうに遊ぶ姿が浮かび、
その時代の時間はかけがえのない時間だよね、と思います。
でも、そうした親の気持ちを感じながらも、
子どもの立場に立って考えてみたとき、
私には就学猶予が「子どものためになる」とは
どうしても思えずに、今日まできました。
ちょうど20年前に「猶予」したSさんは、
子どもが高校生になるころ、
「猶予はしてもしなくても変わらなかったと思う」
と話してくれました。
普通に入学した子どもたちと、猶予した子どもたちと、
小学校、中学校、高校…と見てきて、子どもの姿に、
猶予したかどうかの違いがあるとは思えないできました。
もし私が子どもの立場で、
「そういう事情なら猶予もありかな」と思える話を、
聞いたことがありません。
たとえば、子どもが十分に了解できる事情、
たとえば6歳から7歳の一年余り長期入院していて、
院内学級に通うこともできなくて、
それで一年遅れで地域の小学校に入学するために猶予したんだよ。
だから、クラスの子どもたちより1歳年上なんだよ」と、
子どもが入院し病気と闘っていた期間のがんばりと苦しみと
未来への希望を、十分に認めてあげる「文脈」で話ができるなら、
私は何が何でも「猶予」反対というのではありません。
でも、28日の朝日新聞の記事は、
あまりにつじつまが合わない印象がしました。
まずはその記事を紹介します。
□ □ □
きょういく特報部
成長遅い子ども 「就学猶予」見守ってあげて
2010年3月28日 (朝日新聞)
医療の進歩で救われる命が増えた一方で、同じ年に生まれた子どもより成長や発達が遅れる子もいる。そんな子どもたちのために、小学校に通う年齢になっても、発達の程度によって学校に通わないことを認める「就学猶予」という制度がある。ただ、制度を知る人はわずかで、適用例もまだ少ない。
■「1年待てば体力つく」
「猶予を認めることになりました」
茨城県日立市に住む40代の母親に1月中旬、市教育委員会から電話があった。長男(6)は予定日より3カ月早く、440グラムで生まれた。小さく、握ると折れるのではないかと心配になるほど指が細かった。半年間、新生児集中治療室(NICU)で過ごし、2600グラムに成長し退院した。
同い年の子より、体が小さく、胃と直接つなげた管で鼻から栄養剤を取っている。注入回数は次第に減り、今では家にいる間の1日3回だけ。幼稚園では管をほおにはわせてテープで止め、昼食に卵焼きを食べたり牛乳を飲んだりできるようになった。ただ、身長100センチ、体重14キロと体格は4歳半程度だ。
小学校入学が近づいたが、「体力不足で何をやっても周りについていけず、心まで不健康にしたくない。まだ学校には行けない」と思った。
就学猶予という制度を知り、市教委に相談すると、当初、「原則、やっていない」と後ろ向きだった。だが、親の強い希望や医師の意見もあり、受け入れられた。母親は「親だけでなく制度を知らない自治体の担当者も少なくない。一人ひとりの子に合った教育を選べるよう、周知が進めばいい」と話した。
就学猶予の中心はかつて、身体・知的障害や経済的な事情で学校に通えない子だった。戦後まもない1948年度には、本来なら小学校に通う年齢の猶予者が2万6372人いた。次第に養護学校などが整備され、89年度に475人と底を打った。
一方で近年、発達の遅れや障害を伴う子は増えている。日本小児科学会の調査では、体重1千グラム未満の超低出生体重児の死亡率は1985年に42.7%だったが、医療の進歩で2005年は17.0%に改善。彼らは成長が遅れがちで、障害が残るリスクもある。猶予者数は89年度から増加に転じ、08年度は1095人に達した。
就学猶予を望む親を支援してきた三科潤・東京女子医大元准教授は「500グラム未満の特に小さな子の就学問題は、ここ5年ほどで新たに出てきた」と話す。「1年待てばかなり体力がつく。子の将来を誰より思う親の希望を重んじ、教委や学校は猶予を認めてほしい」と言う。
■過度の期待は慎んで
子どもの成長に過度な期待をかけることを戒める識者もいる。未熟児の発達に詳しい横浜市中部地域療育センターの原仁所長は「いつも周りと比較してつらい立場に子どもを置くより、例えば特別支援学校などに進む方が良いケースもある。保護者は教委と相談し、子どものことを一番に考えて猶予を検討してほしい」とアドバイスする。
東京都内の母親(58)は制度を活用し、次女(21)の就学を1年遅らせた経験がある。本来一つ下の学年のはずだが、4カ月早く675グラムで生まれた。右手を中心に先天性のマヒがあり、猶予を見越して私立幼稚園に1年遅れで入れてもらった。
5歳で何とか歩けたし、話もしっかりできた。養護学校(当時)も考えたが、「1年待って普通学校に行かせ、周りについていけるか様子を見たい」と猶予を申請し、認められた。
入学までに一人で着替えられるようになった。進学先の公立小学校には洋式トイレを一つ設けてもらったが、在学中、母親が同行したのは低学年の遠足とプールの授業くらい。あとは周囲の支えで過ごせた。
私立中高一貫校に進み、今、私立大3年生だ。ただ、身体障害者手帳1級で右手は不自由、身長140センチ弱と小柄だ。
「同学年の子と同水準まで体が発達することはなかった」と母親は話す。「普通学校でもまれて打たれ強くなった半面、つらい思いもした。猶予したことに悔いはないけど、養護学校なら同じ痛みの分かる友達もできたかもしれない」とも思っている。
埼玉県川口市立医療センターの奥起久子・新生児集中治療科部長は「猶予を勧めても、1年の遅れが将来足かせになると考え、無理に普通学校に入れる親もいる。本来の学年より早く生まれ、発達も遅い子は二重に不利なのに、結果的に子どものためにはならない」と話した。
(吉野慶祐)
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