ワニなつノート

癌と娘と就学相談会(その2)

癌と娘と就学相談会(その2)


特殊教育(特別支援教育)や医療職の人たちは、障害を「発見」することや、遅れを「取り戻す」こと、「できるを増やす」ことにとても熱心に取り組んできました。

でも、その子が「遅れ」や「未熟さ」「幼さ」をもったままの今の人生を豊かにする中身についての関心は強くありませんでした。


たとえば、小学校に入学する子どもが、ひらがなを読めないとき、その人たちは、「子どもの一番のニーズ」を「ひらがなの獲得」だと考えます。まず、自分の名前くらい読めるように。自分の名前くらいは書けるように。

そのためには、その子の言語発達の検査をし、その結果に合わせて、専門家と一対一でていねいに教えてあげることが必要だと考えます。
それは、ひらがなを覚えることが、この子の6歳の人生に必要なことだと信じているからです。


私が出会ってきたお母さんたちは、それとは違う6歳の暮らしを大事に思い、子どもに贈りたいと願いました。

たとえ、6歳のこの子がひらがなを読めなくても、自分の名前を書くことができなくても、一人でひらがなの勉強をする6歳の人生を生きるより、幼稚園からの友だちのいる30人のクラスメートが、この子の名前を呼んでくれる生活を暮らしたいと願うのです。

30人の友だちが、この子の名前を呼んでくれる。
ひらがなを読めないこの子に、げた箱やロッカーの名札を教えてくれる。
この子が友だちの名前を読めなくても、自分を呼んでくれる声や表情で、一人一人の友だちを覚えていく6歳の人生。

たとえ、この子が友だちの名前を発声できなくても、ただ「あー」とか「うー」というこの子の声の表情で、うれしいことや困ったことを聞き分けてくれる友だち。
「なぁに?」「どうしたの?」と、この子の顔をのぞきこんでくれる、そのつながりを生きること。そういう豊かな6歳の子どもの人生があることを、私は教えられてきました。

この子が、文字を読めなくても、ことばを話せなくても、他の子どもの6歳と比べるのでなく、この子がこの子の6歳の今の姿で、この子自身の人生を豊かに経験するチカラ(能力)があることを、その能力をこの子が確かなものとして感じられる場所と出会いを用意してあげたい。

この子に、読み書きの能力が必要ないと考えているのではありません。
それ以上に、この子の6歳の今の姿で、この子自身の人生を豊かに経験するチカラ(能力)があることを、この子自身に実感してほしい。自分の経験するチカラに自信をもってほしいと願うのです。

しかも、この子を読み書きの生活の場からも学ぶ場からも、遠ざける訳ではありません。
むしろ、30人の友だちに名前を呼ばれる数え切れない経験。
みんなが毎日勉強している国語や授業の時間の共有。
言葉や文字の獲得に一番必要なのは、それを必要とする「共有」の仲間と思いだと私は思います。

自分一人の名前だけじゃなく、30人の友だちの名前や呼び声や笑い声が飛び交う日々の生活を通して、この子が自分の力と意欲と希望に沿って獲得していく文字と言葉たち。
その豊かな中身、友だちとの生活を共有する言葉を大事にしたい。

たとえ、この先、6年生になって読める文字が友だち一人の名前だけだったとしても、それはこの子にとってかけがえのない豊かな人生の言葉だと思うから。

それはまた、一対一で大人から教えてもらう言葉とは、まったく別のものだと思います。

たくさんの友だちとの毎日の生活のなかで、日々生まれる無数の声とことば、みんなと
共有する声とことば、そこから生まれるこの子の声とことばに、私は出会いたい。

それは日本語とか、ひらがな、というものを超えて、6歳のこの子と仲間との間で共有されるかけがえのない世界のことばであり、この子にとって豊かなことばの世界の始まりになるのだと思います。

コメント一覧

にしやまゆいか
はじめまして。
たこの木クラブの新スタッフにしやまです。
遅くなりましたが、私の拙い記事を紹介していただいて
、感想まで書いていただいてあり
がとうございます。

ちょうどこの春に、普通学級から特別支援学級に分けら
れそうになっていた発達障害の小
学5年生と接する機会がありました。
最初は普通の子なのになぁと思ったけど、何度も会うう
ちに、落ち着きのないその子に対
して「分けたくなる先生の気持ちも分かるな…」と思っ
てしまったのが本音です。
そんな時に「寄る辺なさ」の記事を読みました。
あれを読んで、「分ける」という発想自体が完全に大人
目線での考えで、その子の気持ち
はこれっぽっちも考えてなかった自分に気付きました。

自分から「私は計算が全く出来ないからみんなと離れて
少人数の学級に行きたいなぁ」な
んて考える子供なんていないですものね^^;;

あの記事を読んで、「普通学級に行くことが当たり前」
ということが自分の中で腑に落ち
てから、その子を見る目も多少変わったというか。「そ
りゃ分けられそうになってたら不
安で混乱しちゃうよなぁ~大変だったねぇ」と割と大ら
かな目で見れるようになったとい
うか…まぁそれでも行動が理解できなくてイラっとする
こともあるんですけどね^^;;
だけど上手く言えませんが、なんだか前よりは心に余裕
を持ってその子に接することが出
来るようになった感じがします。


長々とすみません。とにかくあの記事がけっこう自分の
中で革命的だったので通信に感想
書かせてもらいました!

体調崩されていたようですね><
退院おめでとうございます。これからもブログ楽しみに
してます^^
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