乱鳥の書きなぐり

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『身毒丸 』 折口信夫  22  彼は花の上にくづれ伏して、大きい声をあげて泣いた。すると、物音がしたので、ふつと仰むくと、窓は頭の上にあつた。

2024-09-09 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫

『身毒丸 』 折口信夫  22  彼は花の上にくづれ伏して、大きい声をあげて泣いた。すると、物音がしたので、ふつと仰むくと、窓は頭の上にあつた。

 

 





   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月


 一つの森に出た。

 確かに見覚えのある森である。

 

 この山口にかゝつた時に、おつかなびつくりであるいてゐたのは、此道であつた。

 けれども山だけが、依然として囲んでゐる。

 

 後戻りをするのだと思ひながら行くと、一つの土居に行きあたつた。

 其について廻ると、柴折門があつた。

 

 人懐しさに、無上に這入りたくなつて中に入り込んだ。

 庭には白い花が一ぱいに咲いてゐる。

 

 小菊とも思はれ、茨なんかの花のやうにも見えた。

 つひ目の前に見える櫛形の窓の処まで、いくら歩いても歩きつかない。

 

 半時もあるいたけれど、窓への距離は、もと通りで、後も前も、白い花で埋れて了うた様に見えた。

 

 は花の上にくづれ伏して、大きい声をあげて泣いた。

 すると、物音がしたので、ふつと仰むくと、窓は頭の上にあつた。

 

 さうして、其中から、くつきりと一つの顔が浮き出てゐた。



 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

『身毒丸 』 折口信夫  10  accident

『身毒丸 』 折口信夫  11  そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

『身毒丸 』 折口信夫  12  住吉の神の御田に、五月処女の笠の動く、五月の青空の下を、二十人あまりの菅笠に黒い腰衣を着けた姿が、ゆら/\と陽炎うて、一行は旅に上つた

『身毒丸 』 折口信夫  13  其処は、非御家人の隠れ里といつた富裕な郷であつた。瓜生野の一座は、その郷士の家で手あついもてなしを受けた。

『身毒丸 』 折口信夫  14  accident

『身毒丸 』 折口信夫  15  氷上で育てた弟子のうちにも、さういふ風に、房主になりたい/\言ひづめで、とゞのつまりが、蓮池へはまつて死んだ男があつたといふぜ。

『身毒丸 』 折口信夫  16  おまへらは、なんともないのかい、住吉へ還らんでも、かうしてゐても、おんなじ旅だもの。

「身毒丸」 折口信夫  17  田楽法師は、高足や刀玉見事に出来さいすりや、仏さまへの御奉公は十分に出来てるんぢや、と師匠が言はしつたぞ。

『身毒丸 』 折口信夫  18  頼んで来ても伝授さつしやらなんだ師匠が、われだけにや伝へられた揺拍子を持ち込みや、春日あたりでは大喜びで、一返に脇役者ぐらゐにや、とり立てゝくれるぢやろ。

『身毒丸 』 折口信夫  19  分別男や身毒の予期した語は、その脣からは洩れないで、劬る様な語が、身毒のさゝくれ立つた心持ちを和げた。

『身毒丸 』 折口信夫  20  あけの日は、東が白みかけると、あちらでもこちらでも蝉が鳴き立てた。昨日の暑さで、一晩のうちに生れたのだらう、と話しあうた。

『身毒丸 』 折口信夫  21  彼は耳もと迄来てゐる凄い沈黙から脱け出ようと唯むやみに音立てゝ笹の中をあるく。

『身毒丸 』 折口信夫  22  彼は花の上にくづれ伏して、大きい声をあげて泣いた。すると、物音がしたので、ふつと仰むくと、窓は頭の上にあつた。

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