urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

加藤千恵『ハッピーアイスクリーム』中公文庫

2005年11月02日 | reading
ネタバレ…感想文中に作品を多く引用しています。注意。

桝野浩一が好きなので、彼が見出した歌人ってことでこの文庫本を買って、そして今頃読んだんだけど…

やばい。

凄くいい。正直桝野浩一よりキレてると思う。

この第一歌集を出した時、作者は女子高生で、表紙ピンクだし売り出し方もそれに見合ったものになってたんだと思う。でも「女子高生歌人」ってイメージに見合う瑞々しさはあるけど、なんだろ、思春期的な心情を詠んでも、ブレないっていうか、凛とした強さが一貫してある気がして、それがとても好ましいと思います。

《人混みも伸ばしっぱなしの前髪もあたしのことを許していない》

湿っぽくないんだよなー。不思議な感じに流れてもいないし。自分が言葉を使う人で、そしてその才能を持ってるってことが明確に自覚されてる。「甘酸っぱい」とか「女性的」とか、果ては思春期性が「エグい」とかいうレヴューを目にしたのですが、俺は逆にとても力強い表現だと思いました。筋が通ってる。そういう歌が好きで目に止まっただけかもしれないけど。

《雨に似た言葉を持った人だった 字を丁寧に書く人だった》

《水よりも透明なものを知っている あたしはあたしのままで生きてく》

最も才能を感じたのは、表紙にもなっている鮮やかなピンクの色彩感。「女子高生歌人」の歌集をピンクで装丁するってアコギだし、並んだ歌にそのイメージはない。でも、二編まさに「ピンク」の歌があって、ピンクに取り込まれるんじゃなくて、そのどぎつい色彩をうまく客観視して歌に詠み込んでる印象があって、その距離感がとても心地よい作品の色を作ってると思う。戦略としてわざとやってるならサブイボモノだし、天然なら…天才としか言いようがないね。

《まっピンクのペンで手紙を書くからさ 冗談みたく笑って読んで》

《まっピンクのカバンを持って走ってる 楽しい方があたしの道だ》

この二編は本当にキレてる。やばい。

あと、引用は控えますが、ジンジャーエールってのはなんでこうも見事にリリシズムのデバイスになるんだろうなあ、と思いました。

こんな味だったっけな。

さて、桝野の解説で近作が引かれているのですが、まったくキレが落ちていないのです。

《思い出が美しいのは過去だから どうぞよろしくお願いします》

これは早急に次作を読まねばなるまい、ということで、以前先輩が好きだと言ってたの思い出して借りる約束をさせていただきました。楽しみ☆

作品の評価はAプラス。

4122041953ハッピーアイスクリーム
加藤 千恵 枡野 浩一

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2 コメント

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評価だけで (chem)
2005-11-02 21:21:37
読みたいと思ったわ。

君がAプラスは良いんだろうな。



最近読書してないのでブックレビューがほとんど読めなくて残念です。評価だけチェックしとるけど。



あ、ハチクロよろしくです。
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文末に (urt)
2005-11-02 22:29:03
評価を持ってくると、ブックガイドにならぬのではと思わんでもないが、俺の評価を元に読む本決めてもらうほどの人間じゃないですしね。最後に評価があると締まるし。

コレ読みながらハチクロ観たらいーじゃん。
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