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生存権訴訟:老齢加算廃止、生存権侵害せず 原告12人の請求棄却--東京地裁

2008-06-28 01:43:15 | 憲法裁判
 生存権訴訟:老齢加算廃止、生存権侵害せず 原告12人の請求棄却--東京地裁

 70歳以上の生活保護受給者に上乗せ支給されていた老齢加算を廃止したのは生存権を保障した憲法に違反するとして、東京都内の高齢者12人が居住する3市7区に廃止処分の取り消しを求めた訴訟で、東京地裁は26日、請求を棄却した。全国8地裁に起こされた同種訴訟で初の判決。原告側は控訴する方針。【銭場裕司、夫彰子】

 大門匡(たすく)裁判長(岩井伸晃裁判長が代読)は「生活保護費に付加して給付されている老齢加算を廃止しても、現実の生活水準を無視した著しく低い基準になるとは言えない」と述べた。食費を切り詰めたり、葬儀列席を控えている原告の生活については「不自由を感じる場面が少なくなく、廃止を問題視するのは無理からぬことだ」と理解を示しつつ「憲法25条が保障する『健康で文化的な最低限度の生活』を満たしていないとは言えない」と判断した。

 廃止の理由として厚生労働省は「低所得層の単身世帯では70歳以上の支出が60代を下回り、老齢加算に見合った『特別な需要』はない」としてきたが、判決は「合理的な根拠があり、裁量権の逸脱・乱用はない」と追認した。

 老齢加算は、高齢者には消化に良い食べ物や暖房が必要で、墓参りなど社会的費用もかかるとして1960年に創設された。対象者は約30万人。各原告は月額1万7930円を受給していたが、04年度9670円、05年度3760円と段階的に引き下げられ、06年度に全廃された。

 ◇小泉改革で決定、母子加算も全廃
 老齢加算は「小泉改革」で社会保障費の抑制論が強まる03年末、厚生労働省の生活保護に関する検討会の提言がきっかけで廃止が決まった。その流れで一人親や両親不在の世帯を対象にした母子加算も、05年度から段階的な減額が始まり、来年度には全廃される。

 両加算の撤廃は「(生活保護を受けない)低所得世帯の方が受給世帯に比べ消費支出額が少ない」との検討会の提言が根拠。今回の判決は、家計調査をもとに生活保護世帯を「低所得層より豊か」と位置付け「生活の最低基準」までも相対比較で切り下げる厚労省の方針に沿った内容になった。厚労省の江利川毅事務次官は26日の会見で「生活実態に合うよう制度設計をしてきた政府の方針が基本的に認められたと考える」と判決を評価した。

 ◇「早く死んでくれと言わんばかり」 79歳、年20万円以上カットされ--原告団長
 「予想を裏切られた。国は金のない年寄りに早く死んでくれと言わんばかりです」

 原告団長の横井邦雄さん(79)は判決後の会見で悔しさをにじませた。

 横井さんの毎月の収入は生活保護費の約7万5000円のみ。老齢加算の廃止で年20万円以上がカットされ、おかずを2、3回に分けて食費を切り詰める生活が続く。「結局は食費を削って寿命を縮めている。見舞いや葬式も不義理にしてしまい、心に痛みが残ります」と語った。

 慢性のバセドー病を患う長女(56)と2人で暮らす原告の八木明(めい)さん(82)は「自分がいなくなった後、長女の生活はどうなるのか。このままだと切り捨てられる一方になる」との思いで裁判に加わった。会見では「勝訴しか考えていなかったので、涙がぽろぽろこぼれて止まらなかった。生活が苦しい人たちを裏切っていいのか」と唇をかみしめた。

 原告代理人の新井章弁護士は「全く時代感覚に欠けた判決。高裁に適正な判断を仰ぎたい」と批判した。

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 ■解説

 ◇生活実態調査、判決も「強く要請」
 東京地裁判決は憲法が保障する生存権の侵害は否定したが、生活保護を受ける高齢者の不自由さも指摘した。財政難を理由に社会保障費を安易に削る行政の動きにお墨付きを与えたわけではなく、厚生労働省には生活保護の理念と生活実態に即したきめ細かい制度運用が求められる。

 生存権が争点になった大型訴訟は、1960年の1審判決で低すぎる生活保護基準が違法とされた「朝日訴訟」以来。2審で逆転敗訴したが、基準はその後向上した。しかし、緊縮財政が続く中で老齢加算が廃止され、再び生存権の問題が浮上した。

 全日本民主医療機関連合会によると、老齢加算の廃止後、5割超の世帯が食費を切り詰め、約4割が洋服を全く買っていない。聞き取り調査をした社会福祉士らは「付き合いを控えて孤独感が強まり、惨めな思いをしている」と口をそろえる。

 判決も「原告は余裕に乏しく、非常につましい生活を送り、あらゆる場面で節約を強いられ、不自由を感じる場面が少なくない」と認めた。生活保護に詳しい森川清弁護士は「まず緊縮財政方針ありきで、厚労省が生活実態調査に基づいて廃止を決めたかは疑問だ」と指摘している。

 生活保護を巡っては、09年度での母子加算廃止のほか、基準を更に引き下げる動きもある。判決は「本体と言える生活保護費の減額が問題とされるのであれば、生活実態にかかる調査が極めて強く要請される」と言及しており、正確な実態調査なしに安易な削減をすることは許されない。【銭場裕司】

(出所:毎日新聞 2008年6月27日 東京朝刊)

 生存権訴訟:「底辺の声」聞いて 原告・横井さん訴え 老齢加算廃止巡りあす判決

 70歳以上の生活保護受給者に上乗せ支給されていた老齢加算を廃止したのは、生存権を保障した憲法に違反するとして、東京都内の高齢者12人が、居住する3市7区に廃止処分の取り消しを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁(大門匡裁判長)で言い渡される。全国8地裁で係争中の同種訴訟では初の判決になる。

 「生活が苦しくなると削るのは食費。肉などは2、3回に分けて食べるようになったよ」。原告団長の横井邦雄さん(79)は1人暮らしの都営住宅で苦笑いした。がんを患い、緑内障で左目の視力を失いながらも、裁判を闘い続けてきた。

 横井さんは活版印刷の元職人。バブル経済の崩壊で雇い先がなくなり、96年から生活保護を受けている。現在の収入は生活保護の月約7万5000円のみ。2年前、老齢加算制度が「特別な需要はない」との理由で完全廃止された。約1万8000円を減額され、「年間20万円以上のカットはきつすぎる」と嘆いた。

 生活はぎりぎりの状態で、香典を出せず、弔電で済ます。京都の姉の見舞いも年1回に減らし、「自宅のお風呂もやめて、区が配布した月4回の入浴券でしのいでいる」と言う。

 高齢者には消化のよい食べ物や暖房などが必要で、墓参りなど社会的費用もかかるとして、1960年に老齢加算制度ができた。裁判で横井さんらは、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」が損なわれていると強調してきた。

 「判決に期待したい。我々の裁判は年寄りだけの問題じゃなくて、底辺の声なんです」。ワーキングプアの問題にも心を痛める横井さんは力を込めて語った。【銭場裕司】

(出所:毎日新聞 2008年6月25日 東京夕刊)

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