うらくつれづれ

折に触れて考えたこと ごまめの歯軋りですが

年金改革私案

2007-08-28 14:42:34 | 政治・行政
2007/1/29(月) 午後 7:53

安部総理の政策表明で、もっともお粗末とされるのが、年金政策です。なにせ、従来の政府見解そのままの踏襲ですから。厚生労働省のパンフレットを読んだほうがましでしょう。

少子高齢化が進むなかで、従来の年金制度が維持できない可能性は、極めて高い。これに加え、現行制度は、増築を繰り返した温泉旅館のように、迷路と言っていい。三号保険者、遺族年金、障害者年金、年金分割など、一体自分の受給資格・受給金額がどうなっているのか、さっぱりわからない。新聞紙面を社会保険労務士の年金クイズが飾るようでは、到底、国民の立場に立った制度とはいえないでしょう。国民の不信に輪をかけたのが、労組を含む年金組織の腐敗でした。

政府は、年金の一元化など、当面の小手先対応でお茶を濁そうとしています。これは、年金制度自体が、危機に瀕しているのにも拘わらず、一元化による財政調整で危機を先延ばそうとしています。すでに、基礎年金の通算制度で、国民年金の破綻を厚生年金で尻拭いして糊塗してますが、これをさらに大々的にしようとするものです。年金の迷路はさらに深くなるでしょう。年金一元化は、破綻年金の救済に利用されてきた議論であり、官僚のおもちゃです。これに、官民格差という絶好のお題目が加わり、メディアは、政府のお手伝いをしている図式ですね。

問題は、現在の年金制度が賦課方式に基づいていることに、起因しています。「年金は世代間の助け合い」というのが賦課方式の理念ですが、この制度は、世代間バランスが安定していることが前提です。将来を見通して、世代間バランスが安定的に推移するという想定はもはや成り立たないという前提に立つ必要があるでしょう。

そういう認識にたてば、年金を維持可能とするためにとるべき方向は、一つ。賦課方式から、自分の年金は自分が積み立てる積み立て方式に転換することです。さらに、最低生活の補償は国の役割ですから、その部分である基礎年金は、全額税負担でああるべきでしょう。世代間助け合いは、基礎年金だけにとどめ、積み立て部分は、自己責任の民営確定拠出型年金とするのです。

さらに、この基礎年金相当の給付は、失業保険、生活保護制度と統合し、無収入者全体をカバーする制度とすることが適当でしょう。現在の制度では、生活保護の実施責任は自治体にあり、年金不払い者が、国民年金より高額な生活保護を受ける(さらに医療費無料)という驚くべき不公平がまかり通っているのが実態です。そのため、生活保護者数はどんどん増え、いまや100万人以上。逆に、働く能力があると認定され生活保護も受けられずに困窮する若年者もいます。失業保険も2年までで、非正規労働しかしたことがない人は対象外です。

シームレスで漏れのないセーフティー・ネットとしての基礎的社会保障制度を実施しているのが、オーストラリアです。オーストラリアでは、新着移民を含めて所得がない人間はすべからく政府の給付金支給対象となります。そのレベルは、住居費を除いて生活がまかなえる程度でした(筆者の在豪時代)。

所得移転である社会保障は、そもそも自治体事務とすることに無理があります。いわゆる革新首長(そして、ある程度保守首長も)は、選挙での人気とりのため、ばら撒き福祉を連発しました。しかし、所得税を財源としない地方で、所得再分配を実施するのは自殺行為でしょう(インフラとしての福祉施設整備は別)。地方ではなく国が、社会福祉について直接責任を持つべきです。

オーストラリア類似の失業保険、生活保護を統合した基礎給付制度により、現在の年金徴収組織や計算組織はまったく不要になります。支給管理組織は必要ですが、これはすでに提案されているように国税庁で行えばいいでしょう。不正受給を見抜く情報も国税には既に集積されてます。

基礎給付の財源は、必要額連動消費税とする。あらかじめ、税率を定めるのではなくその年に必要な額に相当する消費税を課し、財務省の裁量の余地のないものとする。これにより、消費税の使途が厳しく限定され、国民に対する説得力が増すことになる。

なお、基礎給付レベルを住居費を除いたレベルとすると、まったく生活力に欠けた人は、路上生活者になるほかはない。これを避けるために、住居の現物給付を限定された形で提供する。具体的には、過疎地域においてシェルターとなる公的住宅を提供し、国土維持を兼ね農林業関連分野で付加的所得が得られる体制を整える。(併せて、現行の都市部における公営住宅制度を廃止し、全借家を対象とした公平な家賃補助制度に転換する。青山や広尾の都営住宅は、補助金投入の上、固定資産税支払いもなく2重に不公平。議員による入居利権配分も門題。なお、過疎地におけるシェルターの整備とあわせ、路上生活を犯罪として取締まるべきでしょう。)

所得比例部分は、現行確定拠出年金類似の制度とします。制度は国が定め税制優遇をしますが、個人責任です。自営業、主婦も現行個人年金と同様の制度とします。現在の厚生年金は、全体を一元的に国が運用してますが、膨大な資金の運用を官僚に任せるのは非効率かつ腐敗の温床となるでしょう。報酬比例年金の分割が離婚率を左右するにいたっては、もはや、お笑い種といってもいい。分割態様は、当事者の協議と判例に待つべきでしょう。どうして、年金制度が国民の結婚生活に介入するのか。改革後の運営主体は統合ではなく多様化であり、運用成績もばらつきがでてくることになります。この観点からも、年金の統合が無意味な試みであることが明らかでしょう。

税金による基礎年金と報酬比例の民営化の支持者は、学者にも多い。しかし、政府がこの抜本的改革に二の足を踏むのは、実は、700兆から800兆円ともいわれる年金の積み立て不足の処理が問題となるためである。現在の制度の適用を受ける人の徴収額は前世代に支払うので、自身には積み立てがない。これを埋め合わせる額が、前記の額である。この額におののき、誰も改革を言い出せないでいるのが現実です。

トヨタでは、いま「見える化」による経営改革が進んでいます。年金は、見えない問題です。しかし、現実の匂いは、隠すことはできません。年金問題は、ひとり社会保障の枠を超え、将来不安から生じる低消費性向を通じて、経済全体の問題となっています。単なる当面の支払い対策を講じても、将来不安は、見渡せる限り、消え去ることはないでしょう。日本経済に対する重しとなり、経済の足を今後数十年の長期にわたり引っ張るに相違ないでしょう。いまこそ、年金問題を勇気をもって「見える」化し、抜本改革に乗り出す時でしょう。

具体的には、年金改革基金を創設し、現行の約100兆積み立て額を編入するとともに、旧制度権利者の新制度への移行計画を策定する。加入期間に応じ移行一時金を支払うことになる。また、既存受給者に対しては、所得水準に応じ理解の得られるレベルでの給付減額を実施する。もともと、現在の受給者は、貰い過ぎであり、子孫のために生活レベルに応じ割戻しすべきでしょう。その制度の前提として、数十年にわたる移行期間全体に対して、財務シミュレーションを実施する。収支ギャップを現在価格で計算すれば、800兆円ですが、毎年の収支計画にすれば、いくらづつ必要になるか、計画上確定する。毎年の必要額は、増税でまかなう他はない。

増税というと、新たに取られる感があるかも知れない。しかし、実は、この相当額は、現行制度でも年金額切り下げなどの形で将来発生するはずのものである。上記提案は、これを「見える」化したものに過ぎない。漠然とした不安は、対処のしようがない。しかし、見える危機は対処は簡単です。

現在、国の財政は危機的状況で、やっとプライマリーバランスの回復が目標となっている段階である。この事態をさらに複雑化するすると怒る人もいるでしょう。しかし、社会保障改革なくして日本経済の復活はないでしょう。少なくとも、政府は、年金改革案の検討に際しては、積み立て制度への移行シミュレーションを選択肢の一つとして公表してほしい。そして、政治家には、選挙の争点にしてもらいたい。


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