うらくつれづれ

折に触れて考えたこと ごまめの歯軋りですが

M&Aと日本的経営

2007-08-28 14:44:15 | 経済
2007/2/23(金) 午後 10:17

M&Aが頻繁に行われるようになった。会社の売り買いである。その理由は、資本市場の効率性の確保にあるという。会社資産の非効率な利用しかしていない経営を効率的なものに替え、資本の収益性を増すのである。

表面的には、きれいな説明です。しかし、その実態はどうか。株価が資産以下の会社を買い、資産を切り売りして会社を解体する。PBR一倍以下の会社は、確実に儲かる格好のターゲットです。さらに、何らかの理由によりM&Aにより不都合が生じる会社に高額転売をもくろむグリーンメーラーも暗躍する。資本市場を利用した公然脅迫に近い。

日本型資本主義では、会社は従業員のものという感覚が強く、M&Aはこれまで稀であった。会社の名前に○○組とあるのにもわかるように、人間の集合が会社であった。しかし、この前提が急速にくずれ、それに日本人は適応できていないようだ。

日本では、終身雇用の慣行がいまなお根強い。これは現時点における会社への貢献で賃金をきめるのではなく、生涯にわたる貢献で昇進と生涯賃金を決定する仕組みです。新規雇用者は、人生をその会社に投資するといってもいい。当然、将来の地位を確立するために、身を粉にして働く。これが世界の珍現象たるホワイトカラーの長時間労働の原因です。長時間労働に適応してしまったため、人生を楽しむ方法もわからなくなっている。労働には喜びの側面がありますが、1日14時間労働が喜びとなるのは、マゾヒストという他はない。

終身雇用がくずれたのにあいも変わらず長時間労働が続いているのはなぜなのか。従来の惰性があるが、外部労働市場の未整備も原因でしょう。小生、たまたま多国籍外資に買収された会社に奉職しましたが、外人さんは世界でこんな労働をしているのは日本だけと絶句してました。チャイナでさえ超勤は原則ないという。経団連はホワイトカラーイグゼンプションを導入したいらしいが、超勤代ゼロ制度というのはあながち見当はずれではないだろう。

外部労働市場が未整備なのは、学校教育にも原因があります。日本では、文科系大学で学んだことで仕事で直接役立つものはゼロに近い。米国の大学が専門化した高度な職業教育をしているのと大変な差です。未熟練労働者を大量に供給する日本の文科系学部は、日本の事務労働者の低生産性の元凶ともいえるでしょう。労働時間意識をかえるのは、相当時間がかかるのかもしれない。

M&Aが起きると、会社内での支配・被支配関係が変わります。外資であれば、当然外国にある本社の経営方針が貫徹します。外国本社の意向を反映できる人間が指揮命令することになります。内資であっても、買収企業の企業文化を体現した人間が指揮します。終身雇用を前提に人生を投資してきたのに、突如はしごをはずされることになった日本型職員は反乱するのが普通だと思いますが、なぜか唯々諾々。そのうえ従来どうり長時間労働。あわれをさそいます。買収された管理・共通層も無傷ではありません。単純にいえば、管理・共通層は2社が1社になっても総数は一定でいいですから、普通リストラされることになります。M&Aが日本型経営と相容れない所以でしょう。

経営層にとっても、M&Aは困難をもたらします。レバレッジド・バイアウトという手法があります。買収先の会社の資産を担保に借り入れを起こし、そのお金で買収します。無借金企業がある日突然買収され、借り入れを起こした買収企業と合併する。一夜にして、無借金企業が、過剰債務の重荷を背負うことになります。合併せずにSPC(特定目的会社)を使うこともありますが、SPCの利払いが被買収企業の経営圧力になることは変わりません。むかし、商法の時間に「見せ金」という違法概念を習いました。会社の資本金の借り入れによる偽装でしたが、借り入れ利用がここまで進んだ現在から見ると隔世の感があります。

高度金融資本主義下では、構想力と借金力と決断力がありさえすれば、お金がなくても、会社が簡単に買え、かつその従業員を支配できる、ということです。従業員が健全な労働者意識をもっていればいいですが、日本のような身分意識の残滓があれば、悲惨な事態がおきるのでしょう。M&Aをお膳立てするコンサルタント、弁護士、会計士、金融機関は,わんさといます。村上ファンドやホリエモンは、そのテクニックにおぼれてしまった。もっとも、違法手段に訴えさえしていなければ、時代の寵児としての評価はいまも変わらなかったでしょう。

M&Aの問題は何か。端的に、資本の論理と日本型労働との相克です。グローバル化の滔々とした流れは止められないでしょう。とすれば、日本の労働者の意識を変える必要があります。化石化したマルクス経済学者は地質学科に移籍してほしい。ファイナンス理論と資本市場論、またそれがもたらす社会変動についての研究・教育すべきです。そして、そのなかで、職業人生をどう生きるかを考える必要があるでしょう。また、教育制度や労働制度などの整備も欠かせません。外国株式交換による3角合併の導入に制約をもとめる経団連の主張は妥当と思われます。


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