うらくつれづれ

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一兆ドルコインの発行

2013-01-23 17:59:14 | 経済


アメリカで政府支出の上限規制を避ける方策として、一兆ドルコインの発行というアイデアがあるそうだ。コインの発行は、連邦政府の権限とされ、議会の承認がいらないという。コインをFRBに預金して、FRB資金を同額引き出す。

日本でも、政府通貨を発行し、日銀に預けるということがかのうだろうか。法律では、政府通貨を発行する場合には、同額の資産積み立てが必要ということになっているようだ。しかし、法律は変えればいい。

アメリカよりも日本で、政府通貨の発行は必要だろう。なにをする為か。政府の借金をチャラにするためである。

そもそも日銀券とは何か。これは、本来日銀の債務、言い換えれば借用証書だ。金本位制だったときには、日銀券自体が金価格を体現しており、日銀券を日銀に持ち込めば相当額の金に交換でき、日銀債務は解消される。

アメリカも金本位制だったが、ニクソンは金兌換を停止し、以降、ドルは政府の信用のみで流通することとなった。日本も同様で、固定相場の時は政府の信用を介してドル・金と間接的に連動していたが、変動性とともに、実物資産との関連は、制度上は完全にたたれた。ただし、日銀は、ある程度の金などの実物資産を所有し、日銀の信用力を補完している。しかし、これは、単なる気休めにすぎない。

通貨の価値あるいは「物と交換できる力」は、現在では、中央銀行の信用力のみに依存し、それが崩れれば、ただの紙切れにすぎない。ハイパー・インフレはこうして生まれる。中央銀行の使命が物価の安定イコール通貨価値の安定とされる所以だ。

ハイパー・インフレを停止するには、通貨の流通量を抑える必要がある。そのためには、応急処置としての預金封鎖、恒常処置としての財政バランス維持が必要だ。敗戦直後の日本が実際におこなったことだ。旧紙幣及び銀行預金は、紙くずとなった。

さて、現在の日本である。政府純債務は600兆円を超えている。しかし、残高よりも問題なのは毎年の新規財政赤字だ。大雑把に言って、90兆円の予算の内45兆円が国債発行だ。半分も税収でまかなっていない。毎年、国債残高が、その分増加する。これで、金利が上がれば、更なる財政再建は不可能だ。新規の赤字国債発行を解消することをプライマリーバランスの回復というが、これが待ったなしの状況だ。

民主党の野田総理は、財政再建のため3党合意により消費税増税法案を実現した。しかし、デフレ下で増税しても景気悪化で税収は上がらず、かつ国民には耐え難い負担を強いることになる。

そこで、登場したのがアベノミックスだ。日銀にインフレ目標を課し、金融緩和を進める。安部総理の不退転の意志に応じ、まず外為市場が反応し、ついで株式市場が反応した。株式市場の活性化は、資産効果で景気浮揚に役立つだろう。So far, so good だ。

ただし、課題は残る。それは、政府債務残高だ。現状では、とても制御できる見通しは、立たない。特に、デフレ克服のために金融政策をあわせ大幅な財政出動を計画しており、見通しは更に悪化した。

政府債務は、どうやって解消するのか。課税強化により税収の増やし債務を返済するというのが通常のやり方だ。国債は、将来世代に対する税負担によるしか解消できない。だから、「未来の収奪」と言われる。

将来世代は、ギリシャ国民の苦難を甘んじて受けなければならない。増税する。支出も切り詰める。公務員の給与は下がり年金を削減しなければならない。国に防衛もままならなくなるだろう。暴動も起きる。増税も消費税30%でも追いつかないかもしれない。

しかし、ここに奇策がある。政府が、政府通貨を発行し日銀に預金するのだ。そして、日銀保有の国債と相殺する。増税を行なわずに借金をチャラにする。

この方式の利点は、その時点では、通貨流通量が膨張しないことだ。既に発行された国債の償還だから、追加のインフレ要因にはならない。日銀は、国の特殊法人、つまり子会社と言っていい。親の借金を子が債権として持っている。一家が危急のときには、一心同体として、貸し借りをなかったことにすればいい。

これで、将来世代は、将来の増税による国債償還のくびきから解消される。ギリシャの悲劇は避けられるのだ。逆に、ギリシャは、ユーロという共通通貨を縛られているため、こういう手法が使えない。ここが、ギリシャと日本の違いだ。

ただし、この手法が使えるためには、条件がある。それは、これを何回も使うわけにはいかないことだ。たぶん、一世代に一回限り位には許されるくらいだろうか。何回もやるということは、まさに、財政の金融ファイナンスであり、確実にハイパー・インフレになる。

では、どのように行なえばいいのか。まず、日銀は国債購入規模を、可能な限り拡大させる。これは、相殺後の国の借金額を可能な限り減らし、相殺後の財政健全化を維持するためだ。さらに、財政のプライマリー・バランスの回復が欠かせない。借金をチャラにしても、また、新規に借金をしては、もとの木阿弥だ。さらに、前科があるのだから信用がない。これも、ハイパー・インフレへの道だろう。

この条件さえ満たせば、国債の政府貨幣発行による償還は、特に実態経済への実害はないように思われる。冒頭のべたように、現在の通貨は、単なる物の相対価格を決める符号にすぎない。絶対的な価値はないものだ。ただ、物差しではあるので、むやみにルールは変えられない。ただ、変えることが、必要な場合には躊躇すべきではないだろう。

ただし、ハードルは高い。プライマリー・バランスの回復だけでも、財政赤字拡大の元凶である社会福祉の大幅な見直しは不可欠だ。さらに、秘密裏の周到な実行準備が必要だ。金融行政の構造改革も必要だろう。しかし、将来世代を無意味な増税で苦しませるよりは、はるかにましだろう。

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