打越正行の研究室 UCHIKOSHI Masayuki's laboratory

このブログでは、広島と沖縄で暴走族・ヤンキーの若者を対象とした参与観察調査をしてきた打越正行の研究を紹介しています。

外部における文化的再生産――沖縄のヤンキーの若者の空間感覚をもとに

2019年09月17日 22時52分18秒 | 口頭発表

 

■打越正行,2019年9月17日,「外部における文化的再生産――沖縄のヤンキーの若者の空間感覚をもとに」〈生活-文脈〉理解研究会シンポジウム(東海社会学会共催)『ヤンキーと教育――〈生活-文脈〉から考える』(愛知県立大学).

概要                    
 本報告は、沖縄のヤンキーの若者たちが建設作業員になる過程を対象とする文化的再生産論の試みである。
 ブルーカラー労働には、おもに製造業と建設業がある。しかし両者は、働き方やそこでの人間関係のつくり方など、はっきり異なる。
戦後の日本社会は、分厚いブルーカラー層、なかでも大手の製造業が先導する形で、日本的経営と日本型福祉の体制をとった。地方の農村から都市の工場へと人口は移動し、労働者は工場で訓練された。工場での訓練と学校における教育は、互いに親和的な営みであった。
 他方で沖縄の産業構造は、製造業の比率が小さい。また建設業は沖縄県の基幹産業であるにもかかわらず本土の大手ゼネコンの下請けである中小零細企業がその中心である。沖縄の建設業で働く人びとは、「復帰」した後も日本的経営や日本型福祉の外部にあった。学校の社会分配機能、家族や企業による福祉サービスなどを享受できない沖縄の人びとの生活を補完したのが、地元のしーじゃ[先輩]とうっとぅ[後輩]の社会関係だった。それは閉鎖的で、時に厳しい上下関係であった。本土の工場で受ける訓練は、沖縄の建設業ではしーじゃ-うっとぅ関係に「外部委託」された。このような構造や歴史の制約を受ける形で、建設業に就く若者たちは固有の社会関係のあり方やそこでの働き方を形成してきた。
この社会関係における空間感覚(集団にいるメンバーを把握し行動の指針とする感覚)は、学校や製造業で身につけるものとは明確に異なる。学校は特定の地域や関係性を超えようとすることを教え込む。また製造業の場合、工員はマニュアルに沿って作業手順は矯正され、また自己規律化されて振舞うようになる。また同僚や上司とのつながりは開かれており、また変容する。沖縄の建設業に就く人びとは、学校や工場で身につけるものとは異なる固有の空間感覚を身につける。そうすることが、建設業で一人前となることに適合的であった。他方で、それは特定の空間に制約を受けるものであった。本土のブルーカラー層とは異なる、沖縄の建設業における職業的再生産がある。それは日本的経営や日本型福祉の外部に生きる沖縄の建設作業員たちが作り上げた文化(空間感覚)によって可能となるものだ。なお本報告の基となる調査方法は、2007年から現在に至る参与観察と生活史インタビューである。

 

報告
 知念 渉(神田外語大学)
 打越 正行(社会理論・動態研究所)
コメンテーター
 樫村 愛子(愛知大学)
 宮内 洋(群馬県立女子大学)
司会

 松宮 朝(愛知県立大学)

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