弁護士辻孝司オフィシャルブログ

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ゆれる死刑~アメリカと日本~ 小倉孝保(岩波書店)

2012-07-22 22:32:10 | 本と雑誌

   

京都弁護士会の副会長を終えてしばらく、仕事に関わるような本を読む気になれず、

小説ばかり読んでいたのですが、知り合いの弁護士に薦められて読んでみました。

いい本です。 ぜひ、お薦めします。

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 著者は毎日新聞の記者さんで、現在は外信部の副部長。ニューヨーク支局長時代に、アメリカの死刑制度について調査し、日本の死刑制度と比較して本書をまとめられたようです。

 アメリカでは1972年に連邦最高裁が死刑制度を違憲とする判断がなされ、いったん死刑制度は完全に廃止されました。しかし、その後、ジョージア州で死刑を科す場合の陪審員の裁量権を制限する方向で司法制度を変更したところ、1976年に連邦最高裁が合憲と判断。それを受けて、他の州でも法改正がなされて、死刑が再開されています。
 しかし、その後、現実に死刑判決を受けたり、執行されたりする者がほとんどいない州も多く、現在では、多くの州で死刑制度が廃止されており、今も、いくつかの州で死刑廃止への動きがあります。

 そうしたアメリカで、筆者は、死刑制度に関わる人たち、冤罪で死刑判決を受けた人たち、犯罪被害者遺族など様々な人へのインタビューをされたほか、死刑の執行現場に立ち会い、現実の執行を見てこられたそうです。

 また、日本でも、被害者遺族や冤罪で死刑判決を受けた人、執行に立ち会った元検察官、宗教教誨師など、様々な人にインタビューをしておられます。

 昨年、大阪此花区のパチンコ店放火殺人事件の裁判員裁判で、絞首刑が残虐な刑罰ではないのかという点が争点となりました。
 アメリカでは、19世紀に絞首刑は残虐であるとして廃止され、電気殺や銃殺、薬殺に執行方法が変わったそうです。そのころ、日本は幕末~明治初期、ちょうど太政官布告で死刑の執行方法が絞首刑とされています。
 アメリカからは、150年、議論が遅れています。

 先進国のなかで二つだけ残された死刑存置国であるアメリカと日本の決定的な違いは、情報公開であるということです。

 アメリカでは死刑の執行は一ヶ月前に明らかにされ、本人や家族、弁護人、被害者遺族、ジャーナリストは執行に立ち会うこともできます。
 執行現場を目の当たりにするからこそ、19世紀に絞首刑が残虐だとされ、執行方法を巡る議論も盛んになっているそうです。

 他方、日本では、執行は事後にしか明らかにされず、刑務官、検察官、医師など限られた人が職務として立ち会うことしか認められていません。
 密室で死刑は執行されています。
 そのため、日本では、死刑の問題は、ほとんどの市民にとってはどこか遠い世界の話、理論的・観念的な話、他人事にしかならず、およそ議論になることがありません。
 残虐な事件の裁判の時に、死刑になるか?なぜ死刑にならないんだ!という形で話題になるばかりです。

  

以下は、帯に記載された筆者後書きの抜粋です。

「取材している間、死刑に賛成か、反対かと何度も問われた。自分自身、逡巡しながらの取材だった。無実の罪を着せられた人たちから取材すると、『反対』の気持ちは強くなり、被害者遺族から苦しい胸のうちを聞くと、簡単に死刑反対を口にできなくなる。人に会うたび心は揺れた。(略)一方、取材を進めるにつれ、日本の死刑のあり方への疑問は深まった。執行があまりにも閉鎖的なため、死刑について正しく議論する材料がない。(略)問題を数え上げればきりがない。今後、こうした問題について議論が深まることを期待している。」

詳しくは、http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0254140/top.html 

私も頑張らないと。


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