循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

前原誠司はパンドラの匣を開けたのか

2009年10月15日 | その他
◆熱血知事のパフォーマンス
 自民党が野党に転落し、自分の出番もなくて欲求不満を溜め込んでいた森田健作(完全無所属)知事が久しぶりに吠えた。
 前原誠司国土交通大臣(この大臣という呼び名、できるだけ早い時期に廃止した方がいい)の仰天発言に噛みつくため、“潜伏的自民党支持者”みのもんたの早朝番組に出演したのである(遠隔会議方式だったが)。
 しかし橋下徹・大阪府知事ほどの知能犯でもなく、論理の筋道を構成する訓練もしてこなかった森田熱血知事は、「何で前もって相談してくれなかった」と声を裏返し、額にタテ皺を浮かべて絶叫した。三文役者むき出しの臭い演技をするしかなかったようだ。
 前原発言とはいうまでもなく「羽田を日本のハブ空港(24時間国際拠点空港)にする」という宣言である。来年10月に羽田の第4滑走路が完成する。それを契機にハブ化を目指したいという。
 これまで首都圏では「国内線=羽田、国際線=成田」という暗黙の棲み分けができていた。国交省もその解釈から一歩も踏み込んでいない。だが誰の目にも成田が国際拠点空港の名に値しないことは明らかだが、そういい切ることはタブーだった。成田空港誕生までに支払われた犠牲の、あまりの大きさからである。そのタブーを前原があっさり破った。

◆ハブ空港と東京の過密
 一方、森田はみのもんたの挑発を受けて「この(前原)暴言に千葉県民すべてが怒っている」と悲憤慷慨してみせた。だが小生も千葉県民だが、怒る筋合いなどまったくない。それが当たり前の成り行きだからで、余計なお世話というものだ。
 ハブ空港というなら国内線と国際線がドッキングし、乗り換えに不自由がないことが最低限必要である。それは成田ではなく、今後国際線の増発が確実に見込める羽田以外にはない。
 だが以上はあくまで一般論だ。羽田をハブ化することで東京へのあくなき過密をさらに加速するという意味で決して好ましい話ではない。この点について触れる人はあまりいないが、「大都市圏への過度の集中とリスク分散」の見地から空港問題を捉え直すべきではないか。その間、ハブ空港は仁川にまかせればいい。ちなみに仁川は世界のトップ空港に4年間も選ばれている。
 ハブ空港の条件は何といっても着陸料が安いことと24時間体制になっていることだ。成田の着陸料は仁川の1.5倍だといわれ、ジャンボ機がドンと滑走路に下りると100万円ぐらいかかってしまうという。しかも真夜中、成田はシャッターを閉めてしまう。前述のように羽田には近く4本目の滑走路ができるが、それでもやっと年間離着陸が約41万回。ちなみに仁川の利用率は約100万回である。

◆何を「会談」したのか
翌14日には森田が国土交通省に前原を訪ねた。だが森田・前原会談とやらで到達した結論は「成田と羽田の合理的棲み分け」だという。だがこれではすでに触れた現状追認でしかない。また前原は「成田の地位を脅かすことはない」と発言している。森田の相好は崩れっぱなしだった。だがこんな予定調和みたいな結論でよく怒りが治まったものだ。これを機会にそのまんま東なみにテレビ露出度を増やしたかっただけといわれても仕方がない。経歴詐称疑惑でミソをつけた千葉県民へのアピールなのか。
 前原との会談終了後、「やー前原さんの考えは僕とまったく同じでしたよ」と取材陣を前にはしゃいでいた。千葉県民は国際路線があることに誇りを持てともいう。よくよく恩着せが好きな男だ。これでは石原慎太郎も顔負けである。だがこの男がそんなキレイごとをいえる立場か。
 彼は98年から03年にかけて羽田空港を抱える東京都大田区(当時東京4区)選出の衆議院議員で、自民党都連とともに「羽田国際空港化」の旗を振っていたのである。
一方、相手の前原は「両空港の一体化」ともいったらしい。リップサービスである。日本の国益と利用者の便益を一体のものと考えて運営するというのだが、具体的に何をどうするかは明らかではない。
 余談だが森田健作が過去の日本に残した唯一の文化的功績がある。それは「さらば涙と言おう」(阿久悠作詞・鈴木邦彦作編曲)という歌謡曲だ。これは72年のドラマ「おれは男だ」の主題歌だが、中々の名曲である。「さよならは誰に言う、さよならは悲しみに、 雨の降る日を待って、さらば涙と言おう」。
これについてTBSラジオの番組が早速揶揄していた。「頭きた さらばナリタと 言わせない」(荒川教啓「ディキャッチ」10月14日)。

◆リニア構想が浮上
 もうひとつ、森田はみのもんたの番組で「成田から羽田へのアクセスが悪いというならリニアモーターカーという手もある」と発言していた。これについては森永卓郎というノー天気な経済学者もテレビやラジオで「直ちにリニア導入」を力説している。
 いま東京から大阪まで、既定路線のようにリニア新幹線計画が進んでおり、13日にはJR東海が需要量や建設費の試算を発表した。所要時間は1時間14分、建設費8兆4,400億円というものだが、これにはかなりの利権が絡んでいるらしく、長野県が「直線ルートではなく南アルプスを迂回するルート」を要求している。この場合、建設費は9億900億円に跳ね上がる。
 ちなみにリニアモーターカーの原理は、①磁石のN極同士、S極同士の反発しあう力を利用して車体を浮かせ、②車体の下に強力な磁石を付けて、③ガイドウェイ(軌道)にコイルを並べる。列車が高速でコイルの上を通り抜けると電流が流れて電磁石になり、この電磁石と列車の磁石が反発して車体が疾走する。レールによる摩擦がないから時速500キロという途方もないスピードが出るのだ。これを成田ー羽田間に設置すると約15分で済むという。

◆メディアが報じない危険
 ところで10年前の金丸信時代に、リニア方式から生じる強力な電磁場が人体に与える影響が問題になっていたが、その後まったくといっていいほどメディアはこれを報じない。問題意識の欠如で記者の取材能力が劣化したのである。
 だがJRのある研究所が行った実験によると乗務員、車掌、売店従業員らの身体に加わる電磁場の数値が危険ラインからいまだに下がらないという。10年前、そこで働いていた研究員がガンになったが、労災の対象にはならなかった。
 日本のリニアは強力な浮上型である。これに対しドイツでは吸着型を採用しているという。電磁場ははるかに弱い。
 そのドイツですら高速鉄道事故を起こしている。すなわち1998年6月3日、14両編成のドイツ高速鉄道ICE-1が時速200km/hでミュンヘン~ハンブルク間を走行中,エシェデ駅の手前550mで脱線し,跨線橋の橋脚に激突して,101名の死者と105名の負傷者をもたらす大惨事となった。
 JR東海は2025年の開業を予定しているという。だが動き出したとしてもうひとつ問題になるのが沿線公害だ。JRは静磁場(直流)だから問題ないというが走り出したら変動磁場(交流)になる。WHOでは3~4ミリガウス以上が危ない、という。
 
◆ハブ化はJALの救済策?
 もうひとつ問題なのは、前原のハブ化構想は民主党のマニフェストにも載っていなかったし、鳩山首相や小沢幹事長にも了解をとっていなかったことだ。
 羽田ハブ化は前原が4年前の代表当時からの持論であった。だが日刊ゲンダイは「今度ばかりは官僚もソッポを向く」という。つまり「八ッ場ダムなど民主党がマニフェストに掲げた政策については民主党と世論を敵に廻したくないから官僚も仕方なく大臣に従っている。しかし羽田空港のハブ化は前原個人の政策なので“どうぞご勝手に”で、誰も協力はしないよ」と。前原はパンドラの匣を開けてしまったというわけだ。
そんなリスクを冒してまでなぜ前原は不規則発言をしたのか。ひとついえるのは羽田のハブ化が実現すれば最も助かるのがJALだという事実である。
 すでに前原は(09年)9月29日の閣議後の会見で、空港整備などのための特別会計を来年度から見直す方針を明らかにしていた。
 見直すのは、社会資本整備事業特別会計空港整備勘定(旧空港整備特別会計)。航空事業者が支払う空港使用料などが財源で、空港整備や維持管理などに充てられている。
 前原国交相は空港整備勘定について、「ともすれば採算の合わない空港というものも、この特別会計によって造られ続けてきた。航空会社には空港を造ったのだから飛ばすようにと要望が出て、結局は採算が合わない路線も飛ばさざるを得ないことになったことが日本航空の経営悪化の一つの要因になっている」と述べていた。
 閣議前に、藤井裕久財務相と仙谷由人行政刷新相に抜本的見直しの方針を伝え、了承を得たという。 前原の強気にはそれなりの根拠があったのだ。
 羽田ハブ空港化が問題発言かどうかはともかく、拡張工事に弾みがついたことは間違いない。その期待で15日、日本空港ビルデング、五洋建設工業、東亜建設工業などの株価が一斉に値上がりした。


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