平成21年7月12日(日)
小河内山2,075.5m、水無峠山2,080m、三ノ沢山2,107m、青枯山2,160m、青笹山2,208.9m
6月の初めに山に行ってからは、梅雨時でもあり、なかなかお天気が味方してくれない。家事や子供の用事・仕事等が重なり山に行けない日々が続く。計画は山ほどあるが、気がついてみれば既に梅雨明けも間近かの夏山シーズンに入ろうとしている。土曜は次男の部活の送迎、でも日曜はフリーで、晴れ間がでるという予報になった。やったー。
夏山のアルプス方面に行く前に、予定していた幾つかの山のうち、白峰南嶺の青笹山に向かうことにした。白峰南嶺と深南部は当面の課題であるので、楽しみながら少しづつ足跡を残していきたいと思っている。集中して登ってしまっては、お楽しみが長く続かない。
青笹山は山伏(やんぶし)の登山口でもある大笹峠からピストンすることにした。大笹峠の標高が1800mを越えているから、標高差だけ見れば大したことはない。しかし、日帰りピストンとすると結構な距離だ。アップダウンはそれ程でもないが、青笹山周辺は笹も深くてルートファインディングも必要なようだ。今回は、山頂渉猟さんが数年前の晩秋に登った記録を参考にさせていただいた。今回歩いてきた感想では、山頂渉猟さんの記録と違ってルートの笹の刈り払いはしばらくしていないようだったから、全域で笹はかなり深かった。でも、この笹は身の丈を没する程ではなく、簡単に漕いでいける笹だから、藪山的な難易度は低い。ただし、平坦地も多くて縦横に延びるシカ道も交錯し、ルートファインディングはそれなりに必要だった。お天気が悪い時には奨められないコースだと思う。
土曜の夜に家を出た。行き先は山梨と静岡の県境で250㌔は走らなくてはならない。家を出発するのが遅くなってしまい、8時を回ってしまった。秩父から雁坂トンネルを抜けて山梨に入り、甲府から身延へR52を南下して早川町に入る。ここから笊ヶ岳に登った時以来の雨畑ダム湖を経由して雨畑川に沿って県境に向かう。この林道井川雨畑線は、通行止めの事が多くてなかなか通り抜けて静岡に出ることはできない。大抵は山梨側が通れないのだが、今回は幸い通行可能だった。しかし、静岡側は工事中で通行止めだったから、やはり静岡には抜けられないのだった。
雨畑ダム畔にある宿泊施設『ヴィラ雨畑』(笊ヶ岳の時に入浴)を過ぎ、延々と狭い山峡の道を行く。ゲートのある林道入り口からは雨畑川から離れてジグザグに山の斜面を上っていく。完全舗装された林道は上に行くほど路面の状態も良いが、落石や折れた木々が路面に散らばっている箇所も多い。2時近くなって、ようやく大笹峠に着いた。山伏の登山口標識が立っている。峠には他に車もなく、幅広の舗装路なので、山伏の反対側に車を停めた。
雲間から月が見え隠れしている。山梨側よりも静岡方面の方が晴れているようだ。明日は長丁場なので早起きしなくてはならない。アラームを4時にセットした。たった2時間しか眠れないが、前日の昼間にお昼寝したから、なんとかなるか…なあ。
4時にアラームが鳴って目が覚めた。外はまだ薄暗い。夜明けの時間は少しづつ遅くなっているようだ。眠いのでもう少しと、シュラフを被った。4時半に起きてシュラフから出た。大分明るくなってきた。高曇りだが、晴れて行くような気配だ。静岡方面は眺めが良く、峠の切り通しの向こうまで行くと、正面におととし登った大無間山と隣の大根沢山が青くシルエットになっていた。大無間山はここから見ても登り甲斐がある山という印象だ。手前の聳え立った小無間山と鋸歯の切れ込んだピーク、田代の集落からの急峻な尾根等を見ると、良くもあんな山を日帰りで登ったなあと思う。
支度をし、パンを食べて5時8分に峠の山梨側検地ブロック積みの法面脇にある『山火事注意』や『水源涵養保安林』の看板の所から笹を分けて上る。しっかりとした踏跡があって、道型ができているが、笹が覆い被さっている。笹もほぼ乾いているから、濡れる心配はないようだ。一登りして稜線に出ると、そこもしっかりと踏跡が付いている。『山伏←→笊ヶ岳』のブリキ標識が時々現れる。ルートには点々と赤テープが付いているから、笹こそ深いものの、迷うような心配はない。進む稜線のあちこちでザワザワと笹をかき分ける音がすると、鹿の姿が見られた。
静岡側に笹原の広がった小平地が時々あって、そこから静岡側の眺めが良い。大無間山や大根沢山・笹山等が見えている。山梨側は木々に邪魔をされてなかなか見晴らしが利くところは少ないが、七面山・八紘嶺の山並みの上に富士山が見えていた。幾つかの小山を上下して、三つ並んだピークが見えてくる。これが小河内山で、手前のピークが一番高いが、中央のピークに三等三角点と山頂標識があった。この山の上下がこの日一番のアップダウンだった。一番奥のピークにあったブリキ標識に小河内山Ⅲ峰の手書き文字があった。
小河内山の肩まで登ると、山梨側の景色が良く見える所がある、県境稜線がやや東に湾曲した山稜はほぼ一列になって全山黒木に覆われた重厚な山々が連なっている。一番奥に高く2つピークを見せる笊ヶ岳、次いで手前にここからだと一際そそり立って見える布引山、その手前やや西に偏心して稲又山と崩壊薙ぎが顕著な大きな青薙山、一番手前がこれから向かう青笹山だ。南アルプスの南部特有のびっしりと黒木に覆われた地味な山並みだが、人を寄せ付けない秘境の雰囲気に満ちている。それでもこの辺りの山は、点在する笹原とあちこちに見られるフォッサマグナ特有の崩壊薙ぎがアクセントだろう。
膝丈程の笹に薄い踏跡のトレースと、注意してみると点々と赤テープが付いているので、小河内山までは比較的簡単な登りだった。6時59分に小河内山三角点峰に着いた。藪に囲まれて眺めは良くないが、山頂の少し先で稜線間際まで崩壊した薙ぎが迫って、そこから山梨側静岡側ともに眺めが広がる。足元は恐ろしい程急峻に薙ぎ落ちた崩壊斜面で、余り縁に寄らないように注意が必要だ。
小河内山三角点峰で小休止の後、7時18分に先に進む。だらだらした笹尾根で眺めが良く、曇りがちな山梨側は雲海に浮かぶ七面山がシルエットになり素晴らしい光景。静岡側は真正面に小無間山と大無間山が深南部の雄と呼ぶにふさわしい見事な山容で目を楽しませる。この稜線はとても眺めが良い。笹原にシラビソが点在した景観は奥秩父の雁坂峠辺りを彷彿させる。間もなく大した登りもなく小河内Ⅲ峰を通過して、ここから100㍍くらい急な下りを下りきる。小河内山までは人も少しは入るようで、それなりにトレースもしっかりしていたが、この辺りから踏跡は薄くなり、交錯するシカ道を拾いながら時々現れる赤テープ頼りになった。
最低鞍部から水無峠山への登りは深くなる笹をかき分け、平坦で分かりづらい山頂部はGPSで時々位置を確かめながら進むようになる。笹自体は深くても胸くらいで、身体でかき分けられる程度だが、うっかりすると目印の赤テープもロストして何度も方角を間違えた。ここから青枯山辺りまでは二重三重になった山稜と、高低差の少ない広い尾根が続くのでルートファインディングが必要だ。至る処に小さな凹地があり、そこは笹も薄く南アルプス特有の原生林と林床の苔が深山の趣を増す。この付近は伐採されない原生林が深々とした森になっていた。凹地はシカのぬた場らしい所が多かった。
どこが山頂か分からない水無峠山からあまり高低差もなく進み、一度開けた眺めの良い笹原を過ぎて、再び深い樹林になる。シラビソの幹の地上から1㍍程の部分が、大きく樹皮をはがれているものが目に付いた。雪に埋もれた冬場に、餌の無くなった鹿たちが、こうしてシラビソの樹皮を食べてしまうのだろう。それがために枯れてしまう木も少なくなさそうだ。凹地の直ぐ上にあった小山が三ノ沢山山頂らしかった。文字が消えてしまった木製標識がシラビソに打ち付けられて残っていた。9時に三ノ沢山を通過。
三ノ沢山を下り、眺めの良い笹原の向こうに行く手の青笹山が近づいて見える。青笹山の西には青薙山が大きく見え、その向こうに聖岳や上河内岳も見えてきた。
笹原を過ぎると、青枯山へはまた深い樹林になり、何度もルートを外れて深い笹漕ぎでロスタイム。良く見ると、目印の赤テープは点々とあるから慎重に確認しながら進めば問題ないのだろうが、充分慎重に探りながら進んでいるつもりでも、やはり時々ルートを外してしまうのだった。地形的に高低差は少ないものの、広い稜線は二重三重の山稜で大変分かりづらい。山梨側が急に落ち込んだ地形になっているから、できるだけ山梨側を歩いた方が分かり易いが、時とすると深い笹の窪にはまってしまう。静岡側を中心に青空が大きく広がって、その分日差しもあり暑くなってくる。それでも、朝から乾いた風が吹き続けているから、出る汗でびっしょりにはならない。
どこが山頂だか分からないまま青枯山を通過し、目の前に青笹山がいよいよ大きく迫る。小さなピークを下ると、なだらかな笹原の鞍部が広がる。静岡側に大きな崩壊薙ぎを見せる、雄大な光景。広々した笹の鞍部は薙ぎの縁以外は笹が深くて歩きづらい。ここもシカ道が縦横に走っている。その笹原のあちこちにシカの姿が見られた。笹の新葉を食べているのだろう。
一気に落ち込んでいる薙ぎに落ちないように気を付けながら、笹が薄くて歩きやすい薙ぎの縁を歩く。笹原の真ん中辺りで、余りに眺めが良いので写真撮影のため小休止をした。もう、直ぐ先の小山が青笹山の山頂だ。人に会うこともない手垢の付かない静寂境、道もなく訪れる人も疎らな深山の気が満ちて、目の前には南アルプス南部の重厚な山並みがくっきりとパノラマになっていた。こういう時間が、ヒトケの無い山を登る醍醐味だと思うのだ。ぼくの一番のストレス解消の瞬間…。
ずんぐりとして大きい青薙山の向こうに聖・上河内・茶臼・光の南アルプス主稜線が、広がった青空の下に並んでいた。二又で特徴のある信濃俣も良く見える。大無間山は随分遠くなった感じだ。ここが、この日一番の展望スポットだった。
充分展望を楽しんで、笹原から最後の登りになる。樹林に入り少し上ると、原生林の緩やかな地形になって、山頂と言うよりは広々としたシラビソの森だった。東にほんの少し高くなった小山が山頂らしい。そこに登り上げると、わずかな笹の切れ間に裸地があり、土中から頭が少し出た三角点があった。古びた木製山名標識が、赤文字で『青笹山』と書かれて枯木にくくりつけられていた。藪に囲まれて眺めがない小空間が青笹山の山頂だった。11時17分青笹山頂着。途中で休んだ時間を差し引いても、5時間半以上掛かった。遠かったな…。
南に少し進むと、窓のように開いた木々の切れ間から大無間山が遠く見えた。青笹山の山頂は静かに休む場所では無い。何となく閉鎖的な空間だから、儀式のように三角点を写真に納めると早々に小山を下って、山頂よりずっと雰囲気の良い一段下の森で倒木に腰掛けて休んだ。
カップそばを食べようと思ったら点火用のガスライターが無くて食べられなかった。自動点火の部分が壊れてしまったコンロ、新しいの買わなくては…。コロッケパンを食べて、揚げおかきをつまんだ。
充分休んで、12時5分に青笹山を下る。鞍部の笹原に降りたら、南アルプスの峰々は雲の帽子を被ってしまった。ガスが下の方から這い上り始めている。お天気が崩れることは無さそうだが、少しづつ眺めは悪くなっていくようだ。すぐ目の前の笹から若いメス鹿が飛び出して逃げていった。会うのは鹿ばかり。
帰りも、笹深い二重三重の広い山稜は何度もルートを外して修正しながら歩く。水無峠山を下って、上り返しがきつい小河内山の登りになり、ようやくルートファインディングもイージーモードになった。しかし、長いピストンで小河内山から大笹峠まではアップダウンが多くて疲れた。かなりへとへとになって4時53分にやっと大笹峠に降り立った。帰りも5時間近く掛かってしまった。少しブランクがあったから身体がなまってしまったようだ。
延々と林道を下り、雨畑湖を過ぎて早川の集落に降りた。草塩温泉という山間の湯治場みたいな温泉の日帰り温泉施設に立ち寄る。日帰り温泉というより共同浴場で、地元の人しか来ないような雰囲気。露天風呂は無く、銭湯のような内風呂だけだ。ぼくが入った時に入れ替わりに出て行ったおじいさんと、ぼくが出る間際に入れ替わりに入ってきたおじいさんがいました。お客さんは少ないようだ。弱食塩泉ということだが、ゆっくり暖まり気分は上々。
入浴後、250㌔の道のりを一般道で帰る。11時頃やっと家に着いた。
小河内山2,075.5m、水無峠山2,080m、三ノ沢山2,107m、青枯山2,160m、青笹山2,208.9m
6月の初めに山に行ってからは、梅雨時でもあり、なかなかお天気が味方してくれない。家事や子供の用事・仕事等が重なり山に行けない日々が続く。計画は山ほどあるが、気がついてみれば既に梅雨明けも間近かの夏山シーズンに入ろうとしている。土曜は次男の部活の送迎、でも日曜はフリーで、晴れ間がでるという予報になった。やったー。
夏山のアルプス方面に行く前に、予定していた幾つかの山のうち、白峰南嶺の青笹山に向かうことにした。白峰南嶺と深南部は当面の課題であるので、楽しみながら少しづつ足跡を残していきたいと思っている。集中して登ってしまっては、お楽しみが長く続かない。
青笹山は山伏(やんぶし)の登山口でもある大笹峠からピストンすることにした。大笹峠の標高が1800mを越えているから、標高差だけ見れば大したことはない。しかし、日帰りピストンとすると結構な距離だ。アップダウンはそれ程でもないが、青笹山周辺は笹も深くてルートファインディングも必要なようだ。今回は、山頂渉猟さんが数年前の晩秋に登った記録を参考にさせていただいた。今回歩いてきた感想では、山頂渉猟さんの記録と違ってルートの笹の刈り払いはしばらくしていないようだったから、全域で笹はかなり深かった。でも、この笹は身の丈を没する程ではなく、簡単に漕いでいける笹だから、藪山的な難易度は低い。ただし、平坦地も多くて縦横に延びるシカ道も交錯し、ルートファインディングはそれなりに必要だった。お天気が悪い時には奨められないコースだと思う。
土曜の夜に家を出た。行き先は山梨と静岡の県境で250㌔は走らなくてはならない。家を出発するのが遅くなってしまい、8時を回ってしまった。秩父から雁坂トンネルを抜けて山梨に入り、甲府から身延へR52を南下して早川町に入る。ここから笊ヶ岳に登った時以来の雨畑ダム湖を経由して雨畑川に沿って県境に向かう。この林道井川雨畑線は、通行止めの事が多くてなかなか通り抜けて静岡に出ることはできない。大抵は山梨側が通れないのだが、今回は幸い通行可能だった。しかし、静岡側は工事中で通行止めだったから、やはり静岡には抜けられないのだった。
雨畑ダム畔にある宿泊施設『ヴィラ雨畑』(笊ヶ岳の時に入浴)を過ぎ、延々と狭い山峡の道を行く。ゲートのある林道入り口からは雨畑川から離れてジグザグに山の斜面を上っていく。完全舗装された林道は上に行くほど路面の状態も良いが、落石や折れた木々が路面に散らばっている箇所も多い。2時近くなって、ようやく大笹峠に着いた。山伏の登山口標識が立っている。峠には他に車もなく、幅広の舗装路なので、山伏の反対側に車を停めた。
雲間から月が見え隠れしている。山梨側よりも静岡方面の方が晴れているようだ。明日は長丁場なので早起きしなくてはならない。アラームを4時にセットした。たった2時間しか眠れないが、前日の昼間にお昼寝したから、なんとかなるか…なあ。
4時にアラームが鳴って目が覚めた。外はまだ薄暗い。夜明けの時間は少しづつ遅くなっているようだ。眠いのでもう少しと、シュラフを被った。4時半に起きてシュラフから出た。大分明るくなってきた。高曇りだが、晴れて行くような気配だ。静岡方面は眺めが良く、峠の切り通しの向こうまで行くと、正面におととし登った大無間山と隣の大根沢山が青くシルエットになっていた。大無間山はここから見ても登り甲斐がある山という印象だ。手前の聳え立った小無間山と鋸歯の切れ込んだピーク、田代の集落からの急峻な尾根等を見ると、良くもあんな山を日帰りで登ったなあと思う。
支度をし、パンを食べて5時8分に峠の山梨側検地ブロック積みの法面脇にある『山火事注意』や『水源涵養保安林』の看板の所から笹を分けて上る。しっかりとした踏跡があって、道型ができているが、笹が覆い被さっている。笹もほぼ乾いているから、濡れる心配はないようだ。一登りして稜線に出ると、そこもしっかりと踏跡が付いている。『山伏←→笊ヶ岳』のブリキ標識が時々現れる。ルートには点々と赤テープが付いているから、笹こそ深いものの、迷うような心配はない。進む稜線のあちこちでザワザワと笹をかき分ける音がすると、鹿の姿が見られた。
静岡側に笹原の広がった小平地が時々あって、そこから静岡側の眺めが良い。大無間山や大根沢山・笹山等が見えている。山梨側は木々に邪魔をされてなかなか見晴らしが利くところは少ないが、七面山・八紘嶺の山並みの上に富士山が見えていた。幾つかの小山を上下して、三つ並んだピークが見えてくる。これが小河内山で、手前のピークが一番高いが、中央のピークに三等三角点と山頂標識があった。この山の上下がこの日一番のアップダウンだった。一番奥のピークにあったブリキ標識に小河内山Ⅲ峰の手書き文字があった。
小河内山の肩まで登ると、山梨側の景色が良く見える所がある、県境稜線がやや東に湾曲した山稜はほぼ一列になって全山黒木に覆われた重厚な山々が連なっている。一番奥に高く2つピークを見せる笊ヶ岳、次いで手前にここからだと一際そそり立って見える布引山、その手前やや西に偏心して稲又山と崩壊薙ぎが顕著な大きな青薙山、一番手前がこれから向かう青笹山だ。南アルプスの南部特有のびっしりと黒木に覆われた地味な山並みだが、人を寄せ付けない秘境の雰囲気に満ちている。それでもこの辺りの山は、点在する笹原とあちこちに見られるフォッサマグナ特有の崩壊薙ぎがアクセントだろう。
膝丈程の笹に薄い踏跡のトレースと、注意してみると点々と赤テープが付いているので、小河内山までは比較的簡単な登りだった。6時59分に小河内山三角点峰に着いた。藪に囲まれて眺めは良くないが、山頂の少し先で稜線間際まで崩壊した薙ぎが迫って、そこから山梨側静岡側ともに眺めが広がる。足元は恐ろしい程急峻に薙ぎ落ちた崩壊斜面で、余り縁に寄らないように注意が必要だ。
小河内山三角点峰で小休止の後、7時18分に先に進む。だらだらした笹尾根で眺めが良く、曇りがちな山梨側は雲海に浮かぶ七面山がシルエットになり素晴らしい光景。静岡側は真正面に小無間山と大無間山が深南部の雄と呼ぶにふさわしい見事な山容で目を楽しませる。この稜線はとても眺めが良い。笹原にシラビソが点在した景観は奥秩父の雁坂峠辺りを彷彿させる。間もなく大した登りもなく小河内Ⅲ峰を通過して、ここから100㍍くらい急な下りを下りきる。小河内山までは人も少しは入るようで、それなりにトレースもしっかりしていたが、この辺りから踏跡は薄くなり、交錯するシカ道を拾いながら時々現れる赤テープ頼りになった。
最低鞍部から水無峠山への登りは深くなる笹をかき分け、平坦で分かりづらい山頂部はGPSで時々位置を確かめながら進むようになる。笹自体は深くても胸くらいで、身体でかき分けられる程度だが、うっかりすると目印の赤テープもロストして何度も方角を間違えた。ここから青枯山辺りまでは二重三重になった山稜と、高低差の少ない広い尾根が続くのでルートファインディングが必要だ。至る処に小さな凹地があり、そこは笹も薄く南アルプス特有の原生林と林床の苔が深山の趣を増す。この付近は伐採されない原生林が深々とした森になっていた。凹地はシカのぬた場らしい所が多かった。
どこが山頂か分からない水無峠山からあまり高低差もなく進み、一度開けた眺めの良い笹原を過ぎて、再び深い樹林になる。シラビソの幹の地上から1㍍程の部分が、大きく樹皮をはがれているものが目に付いた。雪に埋もれた冬場に、餌の無くなった鹿たちが、こうしてシラビソの樹皮を食べてしまうのだろう。それがために枯れてしまう木も少なくなさそうだ。凹地の直ぐ上にあった小山が三ノ沢山山頂らしかった。文字が消えてしまった木製標識がシラビソに打ち付けられて残っていた。9時に三ノ沢山を通過。
三ノ沢山を下り、眺めの良い笹原の向こうに行く手の青笹山が近づいて見える。青笹山の西には青薙山が大きく見え、その向こうに聖岳や上河内岳も見えてきた。
笹原を過ぎると、青枯山へはまた深い樹林になり、何度もルートを外れて深い笹漕ぎでロスタイム。良く見ると、目印の赤テープは点々とあるから慎重に確認しながら進めば問題ないのだろうが、充分慎重に探りながら進んでいるつもりでも、やはり時々ルートを外してしまうのだった。地形的に高低差は少ないものの、広い稜線は二重三重の山稜で大変分かりづらい。山梨側が急に落ち込んだ地形になっているから、できるだけ山梨側を歩いた方が分かり易いが、時とすると深い笹の窪にはまってしまう。静岡側を中心に青空が大きく広がって、その分日差しもあり暑くなってくる。それでも、朝から乾いた風が吹き続けているから、出る汗でびっしょりにはならない。
どこが山頂だか分からないまま青枯山を通過し、目の前に青笹山がいよいよ大きく迫る。小さなピークを下ると、なだらかな笹原の鞍部が広がる。静岡側に大きな崩壊薙ぎを見せる、雄大な光景。広々した笹の鞍部は薙ぎの縁以外は笹が深くて歩きづらい。ここもシカ道が縦横に走っている。その笹原のあちこちにシカの姿が見られた。笹の新葉を食べているのだろう。
一気に落ち込んでいる薙ぎに落ちないように気を付けながら、笹が薄くて歩きやすい薙ぎの縁を歩く。笹原の真ん中辺りで、余りに眺めが良いので写真撮影のため小休止をした。もう、直ぐ先の小山が青笹山の山頂だ。人に会うこともない手垢の付かない静寂境、道もなく訪れる人も疎らな深山の気が満ちて、目の前には南アルプス南部の重厚な山並みがくっきりとパノラマになっていた。こういう時間が、ヒトケの無い山を登る醍醐味だと思うのだ。ぼくの一番のストレス解消の瞬間…。
ずんぐりとして大きい青薙山の向こうに聖・上河内・茶臼・光の南アルプス主稜線が、広がった青空の下に並んでいた。二又で特徴のある信濃俣も良く見える。大無間山は随分遠くなった感じだ。ここが、この日一番の展望スポットだった。
充分展望を楽しんで、笹原から最後の登りになる。樹林に入り少し上ると、原生林の緩やかな地形になって、山頂と言うよりは広々としたシラビソの森だった。東にほんの少し高くなった小山が山頂らしい。そこに登り上げると、わずかな笹の切れ間に裸地があり、土中から頭が少し出た三角点があった。古びた木製山名標識が、赤文字で『青笹山』と書かれて枯木にくくりつけられていた。藪に囲まれて眺めがない小空間が青笹山の山頂だった。11時17分青笹山頂着。途中で休んだ時間を差し引いても、5時間半以上掛かった。遠かったな…。
南に少し進むと、窓のように開いた木々の切れ間から大無間山が遠く見えた。青笹山の山頂は静かに休む場所では無い。何となく閉鎖的な空間だから、儀式のように三角点を写真に納めると早々に小山を下って、山頂よりずっと雰囲気の良い一段下の森で倒木に腰掛けて休んだ。
カップそばを食べようと思ったら点火用のガスライターが無くて食べられなかった。自動点火の部分が壊れてしまったコンロ、新しいの買わなくては…。コロッケパンを食べて、揚げおかきをつまんだ。
充分休んで、12時5分に青笹山を下る。鞍部の笹原に降りたら、南アルプスの峰々は雲の帽子を被ってしまった。ガスが下の方から這い上り始めている。お天気が崩れることは無さそうだが、少しづつ眺めは悪くなっていくようだ。すぐ目の前の笹から若いメス鹿が飛び出して逃げていった。会うのは鹿ばかり。
帰りも、笹深い二重三重の広い山稜は何度もルートを外して修正しながら歩く。水無峠山を下って、上り返しがきつい小河内山の登りになり、ようやくルートファインディングもイージーモードになった。しかし、長いピストンで小河内山から大笹峠まではアップダウンが多くて疲れた。かなりへとへとになって4時53分にやっと大笹峠に降り立った。帰りも5時間近く掛かってしまった。少しブランクがあったから身体がなまってしまったようだ。
延々と林道を下り、雨畑湖を過ぎて早川の集落に降りた。草塩温泉という山間の湯治場みたいな温泉の日帰り温泉施設に立ち寄る。日帰り温泉というより共同浴場で、地元の人しか来ないような雰囲気。露天風呂は無く、銭湯のような内風呂だけだ。ぼくが入った時に入れ替わりに出て行ったおじいさんと、ぼくが出る間際に入れ替わりに入ってきたおじいさんがいました。お客さんは少ないようだ。弱食塩泉ということだが、ゆっくり暖まり気分は上々。
入浴後、250㌔の道のりを一般道で帰る。11時頃やっと家に着いた。
深南部じゃなくて、直ぐ近いですがここは白峰南嶺です。
向かいの大無間山付近は深南部ですけどね。
どっちにしても、あまり華やかな雰囲気のある山域ではなくて
しぶーい山です。ぼく的には気に入っています。なにより、ヒトケの無いという好みにぴったりですから。
自分でRFしながら山を登る、ノラさんも同じでしょうが、それが既製品の?山登りとは違う感覚なんですよね。
そうですね、宿堂坊・三俣・黒桧周回と雰囲気は似てますね。
よりヒトケが無いという感じです。
次は南アルプス(主稜線)です。
の周回ルートを思い出させる長丁場。読み終わってふーっとため息が出ました。そのほかに往復500kmの車の運転と大変ですね。でも深山の雰囲気はいっぱい味わえるんですね。南アの深南部ってこういう雰囲気なんだとよくわかりました。