今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

氷室山、椀名条山

2006年12月17日 | 山登りの記録 2006
平成18年12月16日(土)
氷室山1,123m 宝生山1,154.2m 椀名条山1,051.6m

足尾山地はごく一部(根本山周辺)を除いて、家から最も近い山域にもかかわらず、余り登っていない。去年熊鷹山・丸岩岳に登り、今年の春に地蔵岳から大萱山のピストン、三境山と残馬山を登ったが、地味な薮山だから積極的に登ろうという程の山域ではない。しかし、稜線は笹の薄い下生えにミズナラの疎林が広がり、全体に明るく気持が洗われる様な雰囲気を持っている点は捨てがたくもある。

 それぞれの山は展望も少なく、個々の特徴は乏しいというのも共通している。群馬の山の先人木暮理太郎が、郷里に近いこれらの山々に愛着を持ち「東上州」という山域名で呼ぼうとしたということだが、この名称も定着しなかった。対する「西上州」と言えば、特徴のある岩峰を多く持っている事も幸いして、いつの間にかその名称が定着しているのとは対照的だ。
やはり、これらの山域は安蘇山塊とか足尾山地と呼ばれる方が通りがいいのだろう。とは言え、上州人としては安蘇も足尾も栃木県の名前だから、めぼしい多くの山が群馬にあることを思うと、心穏やかではないのも事実だ。

 日曜日は雨や雪の予報が出ている。土曜は特に予定もなかったから、家からごく近い山に出かけることにした。家で朝食を済ませ、釣り天狗の次男を釣り場に送ってからの遅い出発となった。
 足尾山塊(安蘇山塊)の登り残しの山というと、野峰とか白浜山とか岳山とか…、どれも相当にシブイ山だった。それらの中で、名前が面白いので気になっていた椀名条山と氷室山に黒坂石のキャンプ場から登ることにした。

R122号を旧東村(現みどり市東町)に向かう。草木ダムを過ぎ、黒坂石キャンプ場入口の標識を見て右折し、バンガローの並ぶキャンプ場に着いた。ここで林道椀名条線に入り、根本山方面に向かう作原沢入線を右に分け、山神社から少し先の待避帯に駐車して出発する。
時刻は既に10時半を回っている。随分と遅い出発だが、今日のコースは林道椀名条線途中から右手の沢を詰め、氷室山と十二山(根本山のすぐ隣)の鞍部付近で稜線に出て、氷室・椀名条を周回して黒坂石まで戻るという、せいぜい4~5時間程度のコースだから充分だろう。今のところ空は良く晴れているが、午後には曇ってくるようだ。

10時33分、山神社の100㍍程先から林道を奥に進む。路面の状態も良い林道だが、奥で工事中なので、ハンターの入山は遠慮するように書かれた看板が立てられていた。1㌔ばかり歩いてから、右に分岐する荒れた林道(作業道)に入る。沢はここで2分している。しばらく行くとパワーショベルが道の真ん中に放置されて、伐採された杉の丸太が散乱した地点で明瞭な道は消えた。尚も荒れた林道の道型に沿って行くが、間もなくそれも沢の水流に消え、左手は薄暗い桧の急斜面、右手はナラなどの雑木斜面になった。

そのまま沢を詰めて行くと、大きな岩場にぶつかり水流は小滝状で急峻なので、右手の急な斜面を稜線まで詰めることにした。後ろを振り返ると、袈裟丸の山並みが霞み、白くなった日光白根や皇海山が見えていた。落ち葉が厚く堆積した急斜面は、落ち葉に隠れた木の根や岩が邪魔して容易ではないが、台形の根本山が直ぐそこにシルエットになって見えてくると11時半に稜線に登り着いた。

しかし、登路に取った沢が南に寄り過ぎたのか?飛び出した稜線は、根本山と氷室山を繋ぐ主稜線ではなく、2万5000図にある1,066mピークを持つ南側の派生尾根だった。シカのフンがおびただしい稜線を西に辿り、幾つかの小ピークを越えて主稜線目がけて進む。途中椀名条林道に下る踏み跡らしいものが一筋下っていた。ナラの林に低い笹、この辺りに特徴的な稜線はどこでも歩ける。

12時を回り、ようやく主稜線に繋がる。お腹が空いたので、倒木に腰掛けておむすびを食べていると、根本山方面から人の声が聞こえた。誰も居ない、道もない所を登ってきたのだが、登山道に出れば地味なこの山域でも休みの日はやはりハイカーが居るようだ。ほんの20㍍程下に稜線を巻きながら付けられた道がある。今、そこを年配の単独ハイカーが、熊鈴をちんちん鳴らして根本山に向かって通り過ぎた。道を歩く人からすれば、道でないところにいるぼくには全く気づかなかったみたい…。
おむすび2つと、お菓子を少しつまんで水を飲むと落ち着いた。さっき岩場のトラヴァースで、ちょっと足を滑らして右足を捻ったようだ。登りは問題ないが、下りになると筋が痛くて少し足を引きずる感じ。今日はもう早く歩くことはできないみたい。

さて12時14分になって腰を上げ、右足をかばいながら今日初めての登山道を歩き出す。やはり道は歩きやすくてイージーな気分。西や北方面は雲が無く晴れているが、東や南には雲が押し寄せてどんよりした景色が霞んでいる。根本山方面は見えているが、足尾の地蔵岳は雲が低く被って見えなかった。

稜線の真下をほぼ水平に付けられた鉢巻き道が先に延びている。この辺りは、低い笹にミズナラ類の明るい林が緩く平坦な稜線に広がり、作られた公園の様な佇まいだった。風もなく今日は気温も気持高めなのか、穏やかで冬を思わせない陽気だ。しばらくはこの気分の良いお散歩道を歩き、緩い上下で幾つかの小ピークを巻いていくが、なかなか氷室山に着かない。

登山道は良く踏まれて相当程度の登山者がいるようだった。昔は地味でローカルな山域だから、地元の人以外は登らなかったのだろうが、エアリアマップにも一般登山道(ハイキングコース)として紹介されている赤い実線の道は、その通りの歩き良さだ。
笹の小広い鞍部に下り、北西の展望が広がった。袈裟丸連峰から皇海山・日光白根までの山並が目の前、文字通り真っ白な白根が特に目を惹いた。ここから良い道が下に下っている。ちゃんと道標もあり、黒坂石へ下る「中ノ沢コース」と書いてあった(椀名条林道に出るコース)。

尚も緩い稜線を辿るが、「氷室山・宝生山→」の看板があるばかりで、その氷室山はなかなか遠かった。踏み跡が向かう小山に登ると小さな祠があってそれが宝生山らしかった。また道に戻り先に進む。西側に展望がある小鞍部から椀名条山の山並みが低く見えた。その直ぐ先、栃木県側の薄暗い桧の平坦地に氷室山神社の祠と社殿跡があった。祠にはお供え物が沢山あったから、未だに信仰されているのだろう。
社殿跡の上のピークに登ると、氷室山の山名板がいくつもぶら下がっていた。氷室山というのは、本来特定のピークを指す名称ではなく、神社があったこの辺りの総称らしい。13時丁度に「氷室山」の標識があるピーク着。

氷室山から更に北に進むが、道は薮がちで大分頼りなくなってきた。祠のある分岐のピークから「椀名条山→」の標識に従って下りになる。ここは、みどり市東町在住者の私有林らしく、「山菜を盗掘しないよう…」という貼り紙が沢山あった。

人の山に入って何でも盗ってくる人の無神経さにも呆れるが(そもそも他人の土地とか他人の所有物という観念が無いようだ、立派に窃盗なんだけど…)、許し難いとは言え「罰金2万円以上(貴方が私的に取り締まって罰金取るのですか?)」と書く、この所有者にも共感を持てない。モラル無き者にモラルは要らないか…。まあ、この山を歩かせてもらっているだけで、ぼくとしてはありがたいのですけど。

もうすっかり曇り空になり、時間の割には薄暗くなってきた。緩い上下で幾つか小山を越すと、西側斜面が皆伐された所に出た。すっかり裸になった山の斜面との境に、延々と網が張り巡らされて入れないようにしてある。殺風景な光景だが、その分見晴らしは良い。氷室山から根本山に至る山々と、更に三境山や残馬山がシルエットになっていた。台形の根本山とピラミダルな三境山は特に目立つ。

下の椀名条林道を工事しているパワーショベルの音が山間に響き渡っている。林道は間もなく県境稜線に迫ろうという勢いで、上に向かって掘削中だった。皆伐斜面の下の方からはチェーンソウの音も響いていた。時折こだまする、ぱーんという鉄砲の音も加わり、山奥は人が発する余り歓迎しない音が満ちていた。それらの音に混じり、シカの遠音が少し遠慮がちにここでは聞こえた。伐採するときに切り出した木材を運ぶ鋼索ケーブルの残骸が、ここでも放置され醜い姿を曝している。赤松に巻き付けたままのワイヤーが樹皮にくい込んだまま、切り残されたこの松も、いずれこのワイヤーの為に枯れて倒れるのだろう。

更に下り、少し登り返した林の中が椀名条山の山頂だった。椀名条山に14時03分着。中央に三等三角点があり、周囲の木にかすれて読めなくなった「椀名条山」の山名プレートがいくつかぶら下がっている。懐かしいM大ワンゲルの青プレートが文字も消えて残っていた。小広い休み場だが、枝を透かしてもほとんど展望はなかった。黒坂石川を挟んで向かい合う大萱山に繋がる山並みは霞み、地蔵岳は雲の中。手前の尾根を横断する高圧鉄塔が赤白だんだらで妙に異質な雰囲気。

14時19分に椀名条山頂を下り始める。雑木や杉の植林をどんどん下って、犬が吠えている最奥の民家の手前に広がる、ひとけのない黒坂石キャンプ場に降り立った。キャンプ場の真ん前が椀名条山の登山口だった。2台の車が停めてあったから、ぼくとは反対のコースで歩いた人のものだろう。1台は、上にいるぼくに気づかず通り過ぎていった単独ハイカーさんのだろうか?

林道椀名条線を2㌔歩いて15時30分に車に戻ってきた。10時半に出発しても3時半には歩き終わる軽いハイキングだった。ナラ林が作る稜線の美しさの反面、林道工事や伐採の状況とその音、ハンターの撃つ鉄砲の音、山菜盗掘を戒める貼り紙など、世俗に近い山の卑近な印象もまたぬぐえない、複雑な気分の残る山行だった。

水沼温泉センターの湯に浸かって家路についた。

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