今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

貉ヶ森山・日尊の倉山

2006年06月14日 | 山登りの記録 2006
平成18年6月11日(日)
(貉ヶ森山1314.9m 日尊の倉山1262.0m)むじながもりやま・ひそのくらやま

 一昨年、長いこと憧れていた奥会津・会越国境の名峰「御神楽岳」に登った。静かな山頂で360度の展望を楽しんだ。周囲の山は見慣れない山々だったが、一際目を惹いたのは、直ぐ西南にシマウマ模様の残雪を見せる貉ヶ森山だった。正確に言うと、手前の日尊の倉山と重なっていたのだが、日尊の倉は目立たない山容で奥にある貉ヶ森がゆったりと何とも言えない悠然とした佇まいで大層気に入った。その時は遠くに見える川内山塊の主峰、正真正銘の秘峰「矢筈岳」と共にぼくにとって憧れの山になったのだった。

 その後よく調べると、貉ヶ森山はかつて秘峰と呼ばれたが、今ではこの山と日尊の倉山の鞍部である塩ノ倉峠を峰越林道(林道本名・室谷線)が抜けており、林道を利用すれば1時間程度で容易に登頂できるという情報を得た。いつか、機会があったら登ってみたいと思った。

 ところが、峰越林道はほぼ不通の状態で利用することが難しいようだ。ぼくが御神楽に登った時も、途中の橋が落ちて林道は本名ダム入り口から4㌔程しか入れなかった。その後復旧し、昨年はどうにか開通したという情報も得ていた。
昨冬の豪雪で通行できるかの懸念材料もあったが、急に思い立って貉ヶ森に向かう事に決めた。当然登れないこともあり得るから、幾つか近辺の他の山の地図や案内も持参はしたが…。

 前夜発。会津は遠いが道はがらがらの上、ほとんど都市部を通らないので意外に時間は掛からない。二度目だから、峰越林道入り口の本名ダムまでは問題なし。林道に入ると、以前崩落した橋は立派に復旧していた。ところが御神楽岳登山口に繋がる三条林道には行けるが、案の定県境越えは昨冬の豪雪で林道が崩壊して不通になっている。本名・室谷線は三条林道分岐をわずかに上った所で通行止めだ。復旧工事中だという。
 残念だが、やはり諦められない…ここまで来たのだから、どうしても登りたい。林道の脇に車を停めて取りあえず仮眠した。

 4時半にアラームで目覚める。明るいがあまり良い天気ではない。予報では日中晴れ間が出るということだったが、どんよりと曇って黒い雲も見える。天気予報はまた空かしたようだ。ここから林道を歩くと塩ノ倉峠まで2時間、頂上まで3時間はかかる。早々に朝食を済ませ、支度をして出発する。

 5時に林道を上り始める。直ぐ上で、崩壊した路肩を復旧する工事中だったが、その上はかなり怪しいながら、どうにか車は走れそうだ。延々と林道を登り続ける。1時間程登った所で、林道の上に厚く固まった残雪が出てきた。どんなに無理をしても、もうここから上には車は行けない。その後はずたずたになった林道に、まだ数㍍もの雪が固まったところもあった。広々とした湿原(多分?雪に埋まっていたので、今は雪原だけど)状の所(2万5千図に沼が描かれている所)を過ぎて大きくカーブし、塩ノ倉峠への最後の登りになる。この辺りはブナの巨木が点々とある広々とした斜面だ。
 ここで、目の前にあのシマウマ模様の貉ヶ森山が姿を現した。何という悠然とした山容だろう。独特の残雪模様が懐かしかった。今回はどうあってもあの頂に立ちたい。日尊の倉山の下を大きく巻いて塩ノ倉峠に蛇行する林道は、雪渓状になった沢の小山の固い残雪の上を乗り越えて進む。融けた雪に露出した地面にはショウジョウバカマやキクザキイチゲが群落を作っていた。特にキクザキイチゲは青花と白花の両方があって可憐で高貴な雰囲気がある。白花の葉は緑だが、青花の葉は赤みがかかって作った花のような完成された美しさは目を惹く。雪が融けて流れ出した水流の際には大きめのフキノトウも沢山ある。

 残雪は益々厚くなり、仕舞いには雪渓そのままの道になった。時々ピッケルやアイゼンが欲しい所もあった(今日はストック1本だけ…)。塩ノ倉峠に繋がる最後の上りは、県境稜線沿いに出来た大きな雪庇がそのまま壁のように固まって登ることができない。登るには上れそうだが、下りは大変危険。アイゼンやピッケルが無くてはここは越えられない。まさか…こんなことになるとは。ここで断念じゃハナシにならない。ちょっと、どうしたものか考えてしまった。

 見上げると、直ぐ上に雪庇から繋がる雪渓の上に雨量観測所のアンテナが見えている。そこは稜線だから、とにかくそこに上れば良いわけだ。幸い雪が融けてネマガリダケが露出した斜面が一部雪渓に繋がっているから、ここを登れば良いだろう。ネマガリダケに掴まって強引に斜面を登り、雪渓に出た。斜度は余りないから、後はアンテナの所までは容易に辿り着けた。ところが、真新しい自動雨量観測施設の周囲こそ刈り払われているが、後は笹と灌木のひどい薮でルートは良くわからない。

 稜線伝いに薮を漕ぐと、赤テープが見つかり踏み跡が見つかった。踏み跡は極めて薄いもので、薮はかなりひどかった。点々とある赤テープを拾いながら進むが、ほとんど泳ぐような感じ。林道はここ数年ほぼ不通であったから、峠からのこのルートを辿る人も大変少ないのだろう。ルートは薮に埋まっている。頂上は指呼の間だが、一つコブを越した所からはますます薮がひどいので、福島県側に雪庇が堰堤の様になっている所を進むことにした。

 残雪の上はスノーブリッジという感じで頂上の直ぐ近くまで続いているから、ここを行く方がずっと楽だ。背後に日尊の倉山が横たわり、その向こうに前ヶ岳と本名御神楽を前衛に御神楽岳が見えた。どんよりと曇っているが、高曇りの状態なので周囲の山はどうにか見えていた。貉ヶ森山手前のピークには先週大高山に登った時に花盛りだったムラサキヤシオが少し咲いていた。雪庇と融けて露出したネマガリダケの斜面の間にはショウジョウバカマや、この時期にカタクリが群生して花を付けていた。イワカガミも少し見られるが、この方はまだ咲き始めといったところ。

 雪庇は笹藪で終わり、最後はまた薮を漕いで灌木の中わずかに地面が露出した山頂に7時26分に辿り着いた。案外早く登れてしまった。一等三角点と「大切にしましょう三角点、基本測量」と書かれた白いポールが一本立っているだけの狭い山頂だった。ヨウラクツツジ等の灌木が囲み、ネットで見た報告に書かれていたほど展望は良くなかった。やや高くなっている所を探して周囲の景色を見たが、途中の雪庇の上よりも眺めは無い。川内山塊の山々はうっすらと見えているが、一番見たかった矢筈岳は本当にうっすら見えただけ。でも、川内山塊の山の方が、目の前の御神楽岳より残雪がまだべったりと言う感じだ。

 晴れていればもう少しいい眺めがあるのだろうが、見えないよりはマシ。とにかく、ここに立てただけで満足。虫対策ですっぽり被っていたネットをはずし、三角点の頭をなでて腰を下ろした。

 カッコウの鳴き声以外は何の音もしない。会津方面は下からも上からも雲が湧き上がり、だんだん天気は悪くなっていく気配だ。こちら側には目立つ山も無く、確認できたのは高森山と志津倉山だけだった。西に少し薮をかき分けて進んだが、直ぐそこの雲河曽根山が見えただけで、やはり霞んで良く見えなかった。
 パンを食べて、チョコレートを囓り、水を飲んだ。憧れの山は、やはりどこまでも静かで、人の気配もしないのだった。日曜日なのに…。

 7時50分に頂上を下り、また雪庇の上を伝って手前のピークまで進む。ここから薮にもぐり、赤テープを目印にガサゴソやっているうちに、行きのルートとは違う方向に下り始めた。新潟県側の林道に下る近道らしい。薮を漕ぐのがおっくうなので、まあこっちに降りてもいいやと、そのまま下って新潟県側の林道に降り立った。林道からこのルートに入る入り口には何の目印もなく、薮に埋まっているのでいきなりここを登るのは不可能だろう。

 新潟県側の林道は、福島県側よりも更にひどく路面がえぐれ、車の通行は到底不可能。まだ厚く残雪がのしかかって居るところも多く、雪解けの水が林道の上を川になって更に道をえぐっていた。この状態では、福島県側で復旧工事をしているとしても、今シーズンは通行不能だ。やはり、ここは不通の林道なのだった。

 林道をしばらく辿って8時42分に塩ノ倉峠に着いた。車が越えられなくなった峠には林道開通の記念碑も何となく虚しい。峠の広場には林道開通記念碑と越後山脈森林生物遺伝資源林の看板と「本名・室谷」への里程の標柱、その傍らに石祠が一つぽつんとあった。
 
 日尊の倉山へのルートが見つかるか心配だったが、入り口には赤テープが下がり、貉ヶ森山へのルートより意外なことにはっきりとした踏み跡があった。直ぐに踏み跡を辿る。しばらくは道と言って良い程の歩きやすさだった。鬱蒼としたブナの原生林が続いていた。ここのブナ林はこの方面でも有数のものだという。日尊の倉山の新潟県側には広大なブナの原生林が残っている。見事な巨木ばかりだった。

 緩く登ってから一度急な登りになり、いくつかのコブを越えて薮は次第に濃くなってきた。背後に貉ヶ森山が少し遠くなって見えていた。福島県側は崖になっている頂稜に出たが、頂上がどこなんだか良くわからない。ネマガリダケを漕いで福島県側の崖の縁に出ると、残雪の急斜面が下の霧来沢になだれ込んでいた。目の前に大きく御神楽岳が正面だ。ここは御神楽岳を望むいい展望台だった。

 踏み跡に戻り、ハッキリしなくなったルートを右往左往して山頂の三角点を探した。東にしばらく薮を漕いで行ったら下りになってしまった。引き返し、一番高い所と思われる薮の中をあちこち10分以上探したが「見つからないからいいや」と、さっき御神楽岳を望んだ地点にまた戻ろうとして薮をかき分けたら、そこにぽつんと三等三角点があった。御神楽岳を望んだ地点からほんの数㍍の所だった。9時43分に日尊の倉山山頂着。

 薮こぎで汗をたっぷりかいてしまった。腰を下ろそうとしたら、虫の大群がやってきてとても休めた所ではない。暑いのと、視界が悪いのと、薮こぎの邪魔になるので虫除けネットは貉ヶ森山の頂上で取ってしまった。また再び被るのも暑くてイヤだから、おむすびだけ虫を払いながら食べて山頂を辞した。

 塩ノ倉峠に戻り、虫がいないここで小休止。10時半に峠を下る。雪庇を降りて、林道でキクザキイチゲの写真を撮っていたら、2人の登山者が登ってきた。これから登るらしい。もう、貉ヶ森山の頂上部にはガスが垂れ込めて天気が悪くなり始めている。林道の残雪に注意しながら、たんたんと下り12時に車に戻ってきた。通行止めの林道には他県ナンバーの車が何台も入り込んで、山菜採りの様だった。

 帰りは御神楽岳に登った時に寄った金山町の玉梨温泉「せせらぎの湯」という古びた日帰り温泉施設で入浴した。赤錆色の鉄さびの臭いが強い温泉は熱くて心地よかった。
 空いた会津の道路はすいすい走って、山王峠を越えて栃木に出て、雨にけぶる鬼怒川や日光を走り、5時には家に着いてしまった。

 憧れの貉ヶ森山は林道が崩壊してまた秘峰に戻り、静かに会越国境に聳えている。しみじみと、深い山の余韻に浸る想いの山行だった。

画像のページへ
http://photo.www.infoseek.co.jp/AlbumPage.asp?m=0&key=1590925&un=118647


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
狢が森 (しぼれ)
2006-06-15 21:32:00
初めて投稿させていただきます。

デジカメになる前ですから、2000年以前でしょう。峰越え林道を辿り、新潟県側に下って左側少しの地点に赤テープがありました。

7月の暑い日でとてもやぶを漕ぐ気がせずに撤退、狢が森の名は忘れていました。この頃は登山道のあるお山しか眼中にありませんでした。

青い空にまだらの山肌、思い出しました。ぜひ登ってみたいお山の一つです。
返信する
いつもHP拝見しています (あさぎまだら)
2006-06-15 23:28:00
いつもしぼれさんのHP拝見しています。

ご夫婦で登られているのが羨ましい限りです。奥様も大変なご健脚!ですね。脱帽です。



ぼくは、決して家から近いとはいえない会津の山がトテモ好きです。高くもないし、あか抜けても居ないし…でも、素朴で手つかずの懐かしさがあって、何より人が少ないという魅力があります。豪雪地独特の景観もイイです。

狢ヶ森山は林道開通直後は容易な山になったようですが、また奥深い秘峰に戻りつつあることが、何となく嬉しかったぼくでした。

本当に残雪模様も優美な山ですね。
返信する

コメントを投稿