今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・本谷山(上越)

2009年08月20日 | 山登りの記録 2009
平成21年8月16日(日)
 三十倉山1,296.8m、小穂口ノ頭1,820m、本谷山1,866m

 梅雨が明けたというのが7月中旬。しかし、7月下旬からとても梅雨が明けたとは思えない天気が続き、8月上旬になっても雨と曇りの日ばかりだった。お盆になって、やっと夏らしい日が戻ってきた。しかし、休みの都合が付かない。お盆休みも特にないし、大体お盆休みの時に山に行っても、行きも帰りも山の中も人だらけでは行く気もしない。南アルプスの計画が頓挫したままだが…。お盆休みでも、人なんかいない山はどこだろう?

 暑くてこの時期は敬遠される山。上越方面かな。でも、谷川岳周辺や越後三山なんかは人も多いだろう。それらに近いが、本谷山なら人も居なそうだ。昔、丹後山から眺めて憧れた越後沢山や下津川山・小沢岳などの上越国境の静かな山々。『本谷山』という名前は、実は最近知ったばかりだ。越後沢山と下津川山の間にある、遠目にはあまり目立たない山で、5万図には山名記載が無い(最近の2万5千図には山名は記載されているが標高の記載は無い)。
重鎮さんが随分前に登っていたのも最近記録を見て知った(それを見て登ったノラさんと山部さんの記録も読んだ)。ぼくは、『中尾ツルネ』と呼ばれる三国川十字峡から本谷山に突き上げている急峻な尾根に道があることさえ、最近知ったのだった。それを知り、これでこの尾根を利用して越後沢山や小沢岳・下津川山に無雪期に登れるかもしれない、と俄然興味が涌いた。

 とはいえ、この暑い時期に越後沢山までのピストンは無理な話。本谷山から越後沢山までは、腰まで程度の笹藪漕ぎということだが、刈り払いは無く、普通の登山道とは違う。十字峡から本谷山まで、標高差で1,420mもあるから、アルプスピストン並の標高差に加えて、登り出しの標高が低いから、真夏は暑さとの戦いだろう。オマケに越後の夏山はアブ・ヌカカ等の猛烈な虫の襲来もある。不人気はこの辺にも理由があるのだろう。一応、越後沢山も含めた地図とGPSにデータも入れたが…。前夜早めに家を出た。

 一般道でも、上り線は既にお盆帰りの渋滞が始まっているようだったが、下りはすいすいで三国峠を越えて新潟に入る。六日町から三国川ダムを目指すが、ダムのお祭りとダム湖北側道路が崩壊通行止めとやらで、行ったり来たりでロスタイム。ダム湖南側道路を通ってトンネル出口の三国川に掛かる落合橋のたもとに着いた。

 ここから始まる林道は、落石崩壊の恐れがあるためとして足場用の亜鉛メッキ鋼管で頑丈なバリケードが作られて、『全面通行止め』の看板があり完全に封鎖されていた。林道入口の駐車スペースには車が4,5台停まっていたが人は居ないようだった。前日から山に入っているのか?多分、丹後山の避難小屋泊まりか、あるいは釣り人かもしれない。時刻は夜の10時、一応越後沢山も想定しているから、なるべく早立ちしたい。3時に起きることにして、少し暑い車内でシュラフに半分脚を入れて眠った。

 3時にアラームが鳴ったが、眠くて起きられない。ぐずぐずしていたら3時半になって支度を始める。パンを食べ、登山届けをポストに入れ、3時45分にヘッドランプを点灯して真っ暗な林道へ入った。

 三国川の水音だけが、ごうごうと闇の中で響いている。空は曇っているのか星は見えない。真っ暗な林道はランプが照射するわずかな範囲だけ見えるが、特に落石が散らばっているという状態でもない。歩いているうちに少しづつ明るくなってきて、4時半頃丹後山登山口を通過する。林道は雑草が生い茂るようになって、程なくランプが不要になったのでランプをしまう。生い茂る草と、上から流れ出してくる水でぐちゃぐちゃな林道をなおも進み、5時3分に薄れて読みにくくなった看板がある本谷山登山口に着いた。『本谷山登山道・充分な装備で入山下さい』と書かれているが、杭は無くなって看板だけ登山口に置いてあった。林道の反対側には『内膳落合』と書かれた標柱が立っていたが、これも朽ちかけてそのうちダメになりそう。

 明るくなった沢沿いの道は、猛烈なアブの攻撃でうんざりするくらいだ。ちょっと立ち止まっただけで、数十匹のアブがわんわん襲ってくる。こんな時間なのに、空気はむっとしてもう汗をかいてしまう。暑いが、虫対策で長袖を着ているのでますます暑い。登山道はいきなりの急登ではじめから息が切れる。むっとして湿っぽい道を黙々と登る。既に汗でびっしょりで、先が思いやられる。

 登山口から30分くらい登ると、樹間から手前に三角形のネコブ山と左手に幾つも同じような高さのコブを並べた本谷山の稜線が見えてくるが、うんざりするくらい遠く高く見える。背後には中ノ岳が大きく突き立っている。

 汗をたっぷり絞られて、きつい登りをあえいで6時になった。行く手に越後沢山から本谷山の稜線が壁のように高く、手前の1269m三角点ピーク(三十倉山)もあきれるほど高く逆行にシルエットになり、聳え立つ姿で現れた。日が昇ってくる前から、あまりに暑いので既に首に巻いたタオルはびっしょり。登るペースは落ちてくるが、ゆっくりと休まずに登る。今日は水を3㍑持ってきたが、喉の渇きはなるべくレモンキャンデーで紛らわす。水を飲み過ぎると余計にバテてしまいそうだ。背後には中ノ岳に加えて八海山も姿を現した。

 きつかった登りが一段落し、傾斜がゆるんで平坦地に建つ雨量観測小屋を6時57分に通過。ちょっと休みたかったが、先の三十倉山まで頑張ることにする。そこからまた少し登り、眺めの良い三十倉山に7時12分に到着。何となく、汗をかきすぎて水を補給していないから脱水気味になっている。取りあえず、300ccくらい水を補給。バターピーナツとかき餅をつまんで塩分も補給する。

 この山頂には三等三角点がある。灌木が囲んでいるものの、突き立ったピークなので周囲の眺めはよい。登ってきた方角には越後三山が並び(八海山・越後駒・中ノ岳の順)、丹後山から越後沢山になだらかに繋がって、行く手には本谷山が屏風の様に立ちはだかる。まだ、随分高いこと…。西にはネコブ山と桑の木山が手が届く近さ、県境に繋がる所は下津川山が三角に尖っていた。樹林から出たここは、樹林の中に比べれば幾分蒸し暑さが和らぐが、風もほとんど無く、まだ太陽が越後沢山の背後からちょっと顔をのぞかせたばかりなのに暑い。

 落合橋を出てからもう3時間以上経過しているが、ここでまだ半分くらい。どのくらいで登れるのか、暑さでピッチが上がらない状態では先が読めない。越後沢山は、やっぱり無理かな。無理をしないで、汗が完全に収まるまで休んで7時43分に三十倉山を出発する。下り始めた所の若いブナの木に『三十倉山』のプラプレートが付いていた。ここから一度70㍍下ってから、いよいよ県境稜線に繋がる登りが600㍍ある。

 下りきった鞍部からまた樹林の中をきつい登りが始まる。この尾根を登りながら、ずっと甘い香りが漂っている。甘い香りの主は、白い花房を一杯に咲かせたリョウブの花だった。リョウブはどこでも見かける木だが、花がこんな芳香を漂わせるというのは初めて知った。だから、上りも下りもこの尾根の至る処に生えるリョウブの花の香りが満ちていた。

 相変わらず息が切れ、汗びっしょりで遅々とした登り。岩場にクサリが垂れた所があるが、登りでは特に必要もない。しかし、痩せた岩尾根で注意は必要だ。鞍部から1時間登って、やっと樹林限界を抜ける。不思議なことに、樹林限界を抜けて強い陽射しを受ける様になったが、風こそそよ風程度ながら、空気が乾燥してあまり暑さを感じなくなる。素晴らしい景色が周囲にずらりと広がったのも気分的に違うのか?水を飲む代わりにレモンキャンデーをなめる。ササの絨毯が広がる尾根は、やや広まって県境稜線に繋がっている。本谷山の西峰とも言えるジャンクションピーク(『小穂口ノ頭』というプレートが付いていた)がいよいよ近づいてくる。

 右手の沢の源頭部草付き斜面で水が流れる音がする。今のところ、まだ水は2㍑残っているから大丈夫。帰りに汲んでいこう。(この水場の上り下りで、重鎮さんがかつて難儀したという記録を帰ってから読んで知った)ササの切り開きにマツムシソウの紫の花が揺れている。振り返ると、登ってきた尾根の下部はもう見えなくなり、向こうに並ぶ越後三山もこことさほど変わらない高さに見えてくる。小沢岳・下津川山が西に大きく聳え、ネコブ山・桑ノ木山はむしろ低いくらいに見える。ゆっくりゆっくりで、9時44分にようやく県境稜線の小穂口ノ頭のピークに着いた。朝のうちは曇りがちだったお天気も、すっかり快晴の空が広がり、ここに来て初めて利根水源の奥深い山々がパノラマだった。群馬・新潟県境を限る山並は、顕著な平ヶ岳・至仏山・景鶴山・燧ヶ岳・上州武尊などは直ぐに判る。夏としては比較的乾燥している晴天で、かなり遠くの山も見えていた。

 小穂口ノ頭からちょっと下った群馬県側はお花畑になっていた。やや花期は過ぎていたものの、マツムシソウ・ハクサンフウロ・ミヤマシシウド・タカネナデシコなどが咲き残っていた。幅が2㍍くらいしかない岩の塀の様な稜線を辿り、右手に小さな池塘を見て、最後の登りを上りきると、待望の本谷山山頂に10時21分に到着した。細い棒杭に『本谷山』と書かれた例のプラプレートと青いビニール紐が付いていた。

 暑さであえいだのと、ゆっくり休憩をしながらだったとはいえ、十字峡を出発してから6時間半も掛かった!休んだ時間を除くと5時間半くらいかな?しかし、到着したとたん、疲れと眠さから、へろへろになってそこに大の字になって寝てしまった。眠い、暑い、疲れた。20分くらいの間、本当に眠っていた様だ。顔が強い陽射しでジリジリする。

 起き上がって遮ることの無い景色を楽しむ。もう完全に越後沢山に行こうという気力は無かった。この時間だから、行こうと思えば行けない時間ではないが、少しその方面に進んで見る。腰までの笹藪には古い2万5千図に記載されている波線の道の跡形もない。脚でかき分けて行ける程度の笹藪で、見える越後沢山へのルートにはハイマツやシャクナゲの植生も伺えるが、困難な藪ではないだろう。

 湯を沸かしカップラーメンを食べるが、これが信じられないほどマズイ。疲れと脱水のせいか?食欲が無く、やっと流し込んだ。水を飲んで、また大の字になって寝転がった。暑い陽がじりじりする。笹藪の中でこの山頂の2㍍四方程のみ笹が踏まれて薄くなっている。

 気力が少しづつ蘇ってくる。汗でびっしょりになったシャツを脱いで乾かし、あらためて周囲の展望を楽しむ。この角度から利根水源の山を見るのは初めて。小沢岳・下津川山・越後沢山という憧れの山を間近に仰ぎ、いつの日かそれらの頂に立ちたいと言う気持ちが涌いてくる。それにしても、朝から全く誰にも会わない、お盆休みのこの時期にして全くの独り占めの山だ。キアゲハが沢山飛んでいるが、アブなどのイヤな虫はここには居ない。随分時間が経った。気がついたらもう間もなくお昼になる。1時間半以上も本谷山の山頂にいたことになる。でも、そのうち30分くらいは『倒れていた』のだけど…。

 12時15分に重い腰を上げる。快晴の素晴らしい展望を眺めながら、すっかり気力も回復して快調に引き返す。お花畑で少し時間を取り、咲いている花の確認をして写真を撮った。小穂口ノ頭を下り、群馬県側の眺めに別れを告げ、沢の源頭部にある行きに確認した水場まで草付きをトラヴァースする。見た目と違って、足場は雪崩に磨かれた岩場が草の下に隠れていて容易ではない。滑り落ちないように気を遣う。滑り落ちたら結構なダメージか?10分ほどへつって草に覆われた岩の割れ目から流れ出している水場に降りる。水場の周囲にはヤマトリカブトの紫の花と黄色いアキノキリンソウがお花畑を作っていた。水はまだ1リットル残っていたが、捨ててペットボトル2本を満たした。降りたときより更に難しい草付きの登りをして登山道に戻る。

 見下ろす尾根の2段下にぽつんと小さく雨量観測小屋の建物が見えている。樹林帯に入るとやはり蒸し暑く、下りなのにまた汗でびっしょりになる。上り返した三十倉山に2時17分に到着。オーヴァーヒートのため、ここで少し休む。見上げる本谷山はまた屏風のように高くなった。2時29分に三十倉山を下り、長い長い下りを汗だくになって下り続ける。

 背後の群馬県方面は相変わらず快晴の空だが、ネコブ山方面から暗雲が被ってきて向かいの中ノ岳の上にも雲が降りてくる。そのうち少しぱらぱら降り出して、雷鳴もするようになった。幸い木の傘の下なので雨には濡れないが、雷は少し心配だ。林道が見下ろせるくらいまで下ってきたら本降りになった。でも、直ぐに止んで、林道に降り立った時はもう雲も切れ始めた。林道登山口に4時14分着。

 林道は行きの時以上のアブの襲来で、猛烈。はらってもはらっても、襲ってくるのには閉口。あちこち刺されてしまった。少し早足で歩くとアブは付いてこない。そんな訳で、疲れていたけど早足で林道を戻る。丹後山登山口を通過したら、その先でそこから下ってきたらしい4,5人の集団が蛇を見つけて騒いでいた。5時8分にようやく車に戻った。一夏分も汗をかいた様な山登りだった。アブの襲撃もすさまじかったし…静かで最高の展望の山だったのは、これら困難を耐えたご褒美だったろう。

 帰りは、三国川ダムから六日町に出る途中にある『五十沢温泉ゆもとかん』で入浴。男女別の内風呂は狭く平凡だが、貸し切り状態になってのんびり浸かる。直ぐ側を川が流れ、田園風景が窓の外に広がる。ここは巨大な混浴岩風呂が売りだが、小さい内風呂から出たら、もうそこに入る気がしなくなり退館してしまった。でも、後で後悔。やっぱり、後学のために入っておけば良かったかなあ。六日町で早い夕飯を食べ家路についた。一般道はお盆休み明けの上り渋滞もなくすいすい帰れた。

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2 コメント

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お疲れ様 (重鎮)
2009-08-21 05:48:36
あさぎまだらさん、こんにちは。
本谷山、お疲れ様でした。
同じような体験をしましたね。
アブと暑さは本当に参ってしまいます。
あの山域のアブは特別で、虫除けスプレーなんて効きません。
あれだけ発生するのだから、アブの餌も多いんでしょうね。

本谷山は2回登りましたが、いずれも暑さでダウンです。
私もラーメンを持って行きましたが、水が無くなり作れませんでした。
まあ、作っても食べる気力が無かったでしょう。
あの池塘の水を真剣に飲もうと考えましたから、水に飢えていました。

ところで、あそこに登ると次の計画が浮かぶでしょう。
「今度、どこ登ろうかな?」ってネ


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奥利根 (あさぎまだら)
2009-08-21 10:15:43
重鎮さんしばらくです。馬蹄形も軽々で、相変わらずの健脚ぶりですね。
暑いのは苦手です。元々。なので、夏はあまりきつい所はパスしてます。涼しいアルプスは別ですけど…。
奥利根は、意識的に余り登らないで先の楽しみにしています。随分昔に道がある山はあらかた登っていますから、道が無いところばかりですけど。越後沢山は丹後山方面から本谷周回なんて楽しそうです。小沢岳・下津川山はやっぱりここ登ってピストンですかねえ、夏以外ですね。
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