Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

イチモンジセセリ

2006-08-16 08:07:02 | 自然から学ぶ
 セセリチョウ系のチョウというのは、なかなか素人には目に入りにくい。わたしもこんな具合にブログに昆虫や植物を載せているうちに、少しはいろいろな動植物を意識するようになった。そんなひとつにこのセセリチョウ系のチョウがある。広く一般に知られているチョウとしてイチモンジセセリがある。茶色くて、後翅に白い斑点がつらなって一文字模様を持つことからこう呼ばれる。都会の真ん中から高原に至るまで様々な環境で見られ、個体数も極めて多いという。色合いが地味ということで、しばしばガの仲間と間違われてるというように、わたしもあまりチョウとしての意識を持っていなかった。南方系のチョウで、夏から秋にかけて分布を北に広げる。西南日本でも晩夏から秋にかけて個体数が増えるという。幼虫はイネ科の植物を食べて育ち、秋になると急激に個体数が増え、集団をつくって南の方角に移動するようだ。移動するチョウとしてはアサギマダラが有名であるが、イチモンジセセリの移動生態については、アサギマダラに比較するとまだ解っていないという。

 実は何年も前になるが、長野県民俗の会総会で講演された近畿大学の野本寛一先生は、奈川村のソバ栽培とソバチョウについて触れられていた。『近畿民俗』13号に発表された「南安曇山地の民俗をさぐる」の中で、奈川村曽倉で聞いた話を次のように紹介している。

 「ソバの花が開くとソバチョーと呼ばれる蝶が群れをなしてやってきた。そして、九月半ば過ぎ、その蝶が群れをなして南に向かって飛んで行った。干し草刈りに行って寝ころがって休んでいた時、ソバッチョーが群れをなして南に飛んで行くのを見たが、その様は忘れられない。」

 というものである。

 ソバチョウ、あるいはカバンチョウ、トビッチョウなど呼び方は地域によって少し異なるようだ。このチョウがたくさんやってくると、ソバが豊作たどいう。地域ではそのソバチョウの正式名称を知らない。茶色で3センチ程度で三角のチョウで、蛾のようにも見えるという。野本氏はこのチョウの同定に力を入れたという。そして、それらしき蛾を示して地元の人たちに「このチョウだ」と確認してもらい、専門の方に同定してもらったという。その名はシロモンガヤという蛾だという。イチモンジセセリとなんら関わりないのだが、実はこの講演の際に、信州大学の井上直人先生が、そのチョウはイチモンジセセリではないかとコメントされた。そのことがわたしの脳裏に残っている。

 渡りの蛾がいるのかどう定かではない。しかし、地元での聞取りから推測すると、井上氏がいうイチモンジセセリに近いという印象が強い。一般的によく見られるチョウということで、しかも夏の終わりごろから増えて、しばらくすると南へ渡っていく、なんていうところはまさしくイチモンジセセリである。

 さて、群れをなしてやってきて、その音が印象深いというところからは、そのチョウはイチモンジセセリではないかもしれない。しかし、本当のところは、現物のソバチョウで確認してないから、野本氏の論文からも明確にはいえない。

 と、そんなことを思いながら、妻の実家の柿の木の下にやってきたイチモンジセセリを観察したのである。

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