Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

ムラ境の店

2007-02-09 08:15:37 | 農村環境


 写真の家は境屋商店という。その名の通り、「境」にあるからそう名前をつけたのだろう。上水内郡小川村と中条村のまさに境にある店である。虫倉山の麓の傾斜地に立地し、手前の小さな沢が小川村と中条村の境になる花尾沢という。横に走る道は県道でもなく、ただの村道であるから、集落同士を結ぶ小さな道である。向こう側が小川村、こちら側が中条村であるわけだが、手前側にも家が点在する。たまたまこの沢がムラ境となっているのだが、意識しなければどちらも同じムラと思う。向こう側の集落は、夏場になると周りが緑で覆われるから、はっきりと家の姿は確認できない。よーく見ると尾根の向こうに家の姿が見えるのだが、最初にわたしがここを訪れた時は、沢向こうが違うムラだとは言うものの、「境に一軒だけ向こうのムラの家があるんだ」と思ったものだ。加えてただの家ではなく、店を開いているというのだから、この沢を挟んだ両者のムラはどういう関係なんだ、なんて興味が湧いたのだ。

 自ら川端に生まれ育ち、境を意識して育ったためか、こんな立地を目にすると気になるのだ。店をしていなくとも、向こう側の集落が密集していなくて、こんな具合に一軒だけムラはずれに家があったりすると、なぜここに家を構えたんだろう、なんて思ったりするのだ。だから、特別このケースが珍しいわけでもなんでもないのだが、それぞれのケースごと、そのムラの、あるいは家の思いがあるんだろう、と思ったりするのだ。

 沢に架かる橋の名を「界橋」というらしい。橋の銘版にそう記されている。界橋なのだが、店は境屋なのだ。店に架かる二つの看板とも酒の銘柄があるから、その通り酒屋さんである。境屋さんという酒屋さんなのである。ぼーっとしていると、境も酒もおなじように見えてきたりする。道端に「塩」と「たばこ」という小さな看板もあって、昔ならスーパーみたいな店だったわけである。

 昔ながらのこんな単純な店の名が楽しい。飯田市千代野池に辻商店という店がある。まさに辻にある店で、山間の店だから今は他にはめぼしい店がない。姉妹店のような店がそこから上久堅へ向かう道の途中にもある。同じ「辻」商店という。あまりそんなことを意識する人はいないだろうが、ふたつの店が姻戚関係なんていうことは、地元の人しか知らない。昔よくあった「現金屋」とか「金玉屋」なんていうのも不思議とおかしい。まあそれはともかく、境らしくもない空間なのに、境を意識する店の名をつけているのが、また楽しい。「へー、ムラ境なんだ」と。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
« 福寿草が咲く | トップ | 食育の課題から »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
角屋 (ボッケニャンドリ)
2007-02-09 12:18:23
 角屋って名前の店は今まで住んだ所ではあちこちで1軒くらいはありましたね。

 それときんぎょく堂というのが神田は駿河台下にありましたね。画材屋さんだったかな。何故かその店の名前は話題にもならなかったなぁ。それと将棋で玉と金が並んでててもあまり話題になりませんね。TV将棋だと駒の「将」という文字は省略されてるんですけどね。
返信する
空間イメージ (trx_45)
2007-02-10 10:00:07
 いろいろ立地条件によって小さな店が残っているのは、すでに懐かしさを覚えるようになりました。いわゆる店に限らず、「屋号」というものがありますが、かつてのこうした店は「屋号」をつけることもよくあったようです。その後ただ苗字をとって●●商店なんていう名前が増えてきたのでしょうが、その店の姿をみて空間がイメージできるような店の名は、気分的には合いますね。
返信する

コメントを投稿

農村環境」カテゴリの最新記事