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すっかり足腰の衰えてきた父母の入浴は、私の休日の昼間でした。
その日、母の入浴が終わり、父の入浴を介助して浴槽へ横たえた。
久し振りの入浴に(ごめんなさい父さん)満足気な笑顔が最期だった。
いつも2時間くらい風呂から出てこない父に、私は2階の自室でPCに向かっていた。
母の「じいちゃんが変?」の声にも「大丈夫」と取り合わなかった。
「じいちゃんが沈んでいる」の言葉に慌てて風呂場へ駆け込んだ。
浴槽に唇から下が湯に浸かっている。
口を半開きにして目を閉じた父の穏やかな表情に、
まだ切迫した状況が、うまく呑み込めなかった。
浴槽から引き上げ頬を打つ。
「じいちゃん、しっかりしろ!」
がっくり首を垂れて意識がない…唇も色を失っている。
まるで操り人形を抱き起こすような感触に、やっと切迫した事態を肌で感じた。
床のバスマットに横たえバスタオルを頭の下へ敷いて人工呼吸を試みた。
「じいちゃん、しっかりせぇ~」
力の限り胸を打ち、唇へ空気を送り込む。
懸命の人工呼吸を続けた。
「だめだ。だめだぁ~」反応がない。
電話へ飛びつき119番へ救急車を要請。
救急車の到着と同時に救急隊員がAEDをセットして蘇生にかかる。
やっぱり反応がない。
ストレッチャーに載せて救急車へ搬送。
私も救急車の助手席へ乗り込み救急病院へ向かう。
交差点突入、幾ら警告してもいつまでも救急車の前を横切り停止しようとしない
たくさんの人の痛みを理解しないドライバーたちに殺意さえ覚える。
当日の指定病院は笠置記念心臓血管病院だった。
病院へ搬送されて父を待つ時間が長かった。
どれぐらい待っただろう?やっと先生に呼ばれた。
靴を脱ぎスリッパに履き替え、処置室の重い扉を開いた。
手術着の医師が沈痛な顔で父の心肺停止を告げる。
一瞬、言葉が理解できなかった。
そして一気に溢れた。
もう抑えることができなかった。
止め処もなく涙が溢れ嗚咽(おえつ)がもれる。
世界が暗転して目の前が歪んで見えた。
「父さん~」
処置台に横たわる父の穏やかな表情が、せめてもの救いだった。
「さよなら父さん、助けられなくてごめんなさい。」
つい、ほんの数時間前までは、憎まれ口を言って困らせていた
あの温もりを持って確実に私の側に存在していたあなたが、
もう手の届かないところへ行ってしまうなんて、
あまりにも理不尽だ!
もう永遠に、あなたの温もりに触れられないなんて信じたくない。
「父さん、行かないで…」
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