澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

「身体を躾る政治~中国国民党の新生活運動」

2014年02月02日 10時57分56秒 | 
 「身体を躾る政治~中国国民党の新生活運動」(深町英夫著 岩波書店 2013年)を読む。
 本書については、著者自身の簡潔な紹介がある。詳しくはそれを読んでいただくとして、若干感じたことを記そうと思う。



 1934年から1949年まで、中国国民党の国民政府支配下にある地域において、「新生活運動」なる社会運動が展開された。具体的には、つぎのような95ヵ条からなる「新生活須知」によって示された。

(「新生活須知」 本書p.5より引用))

 この「新生活須知」には、高邁なスローガンが掲げられている訳ではなく、むしろ日常生活の基本がどうあるべきか示されている。一読して分かるように、早寝早起き、身だしなみ、礼儀作法、社会生活の基本などが具体的に示されている。蒋介石がこの運動を提唱したのは、日本留学時代の実体験に基づくとされる。すなわち、日本がいち早く近代化に成功したのは、「新生活須知」に掲げられているような社会規範を身につけた「国民」を日本が創出できたからだと理解したからに他ならない。そこで、「賢人支配の善政主義」(横山宏章)に基づき、無知で遅れた大衆にこのような規範を示したのだった。

 「…創造されるべき近代的国民の原型たることに、支配の正統性原理を求めていた国民党は、さながら自身に似せて人間を創造した神のごとく、国民の創出という責務を抛擲することはできなかった。なかんずく蒋介石は、中国の独立と統一脅かしつつあった日本に対抗するため、まさにその日本で”身体の躾”を受けた自身を模範として、中国人民を勤勉かつ健康な近代的国民に改造することを企図する。…中国では国民皆兵・国民教育の制度が非常に遅れていたため、上からの大衆運動という方法で、”身体の躾”が試みられなばならず、それゆえ新生活運動が発動・推進されることになったのである。」(本書p.324)

 中国に旅行すると実感するのだが、「新生活須知」に書かれている「駅で切符を買うときは一人ずつ順番に進むこと」「乗物に乗り降りするときは、女性・子供・老人・弱者を助けること」などは、現在の中国大陸でも全く守られていない。公衆道徳の欠如という観点から見れば、それは中共がもたらした暴政(大躍進、文化大革命など)に大きな責任があるのだろう。

 1968年、中国大陸に文革の嵐が吹き荒れる中、中華民国=台湾では、「国民生活須知」99項目が公布・施行されたという。それは、半世紀前の「新生活須知」と酷似したものだったという。それだから、というつもりは全くないが、そう言えば、台湾の公衆道徳は見事なものだと思う。

 最近の中国研究の動向として、国民政府時代に関心が高まっているという。中共(=中国共産党)研究への幻滅、あるいは左翼史観の呪縛から解き放されたからなのだろうか。本書も、その流れを汲む研究として、極めて興味深く読んだ。