機会あって、昨年の暮れ、評判の割烹料理屋で会食した。
店長は某テレビ局で料理コーナーを担当するほどの有名な料理人で、朴訥な人柄でファンも多かった。
旬の食材を使って手間隙惜しまず仕込んだ料理の数々は、なるほど評判だけのことはある。
十二分に堪能し店を出るとき店長と奥さん自ら見送りに出て、ボクたち一人ひとりにカレンダーを配った。
テレビで見かけたとおりの腰の低い夫婦だった。
一同、手渡されたカレンダーの豪華さに驚いた。
キャンバスでも収めてそうな差込箱、それも畳のように大きく、タクシーに乗るときにつっかえたほど。
自宅に戻って箱から出すと、著名なカメラマン撮影による『世界の絶景カレンダー』だった。
マッターホルンやらエアーズロックやら。
近景から遠景まで全面に焦点が合成された、高解像度のパノラマ写真の壮大さに息をのんだ。
ただ、日付は写真下に一列に並んでいるだけで、カレンダー本来の機能は期待できない代物ではあったが。
高級な店でお値段はそれなりだったが、料理とカレンダーで十分元は取った気がした。
以来、わが家のリビングの壁に、絶景を見渡せる窓ができた。
七月のある日。
夕食後のひととき、コーヒーを片手にカレンダーの前に立った。
子どもの頃から憧れた、マッターホルン北壁の勇姿をしげしげ見つめていた。
え?
思わず声をあげて、写真に目を近づける。
マッターホルンを背景に、蟻のように小さく見える観光客の一群がバルコニーに集っている。
その客の中に、店長夫婦が寄り添って「はい、チーズ」。旅先の記念写真そのままのカメラ目線だ。
カレンダーをバサリバサリめくる。『ウォーリーをさがせ!』でもやってる気分になった。
はたして、毎月全部の写真に料理長夫婦の芥子粒大のツーショットを見つけた。
グランドキャニオンのスカイウォークにも、ナイアガラ瀑布のテーブルロックにも。
個人的な記念写真を著名な写真家に撮らせ、大判カレンダーに仕立てあげるセンスって?
それを何食わぬ顔で客に配る神経って?
「ずいぶん気に入ってるのね、そのカレンダー」
妻が声をかけた。
「美味しかったんでしょ。今度、連れてって」
「そうでもないよ」
半年間鎮座していたカレンダーを壁から無造作にひっぺがした。
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別に僻んでるわけじゃない。そうじゃないが
やり過ぎダロって思っちゃう。
さりげないも、いいかげんにしろってんだ!
と誰かも言ってました。?!
どこが旬のネタなんすかあ!
と、突っ込みつつ、
実は、先週、偶然にも今年のカレンダーを
出入りの業者のヒトがくれたんです。
もう半年も過ぎてるのに!
趣旨がわからなかったんですけど、
事務室に貼ってあります。
もちろん、6月までの半年分は、
もらってすぐにゴミ箱行き。
なんだったんだろうなあ。
まさか、矢菱さんの仕業じゃないですよね?!
・・・ってのはウソなんですけど、数年前に割烹料理屋でバカでかいカレンダーを貰ったのは実話です。
なんかそのセンスっていうのがボクの許容範囲を越えている感じでした。
マッターホルンと来れば、やっぱカレンダーくらいしか思い浮かばなくて・・・(笑!)
こんなカレンダーで描くと失笑ものなんですけど、謙虚さを売りにしてるけど底が浅いなぁって感じの人っているような気がして・・・ありゃボクもかな・・・なんつって~