ウープたちが、牧草地でザジェリクの若芽を食み始めると、ボクは弟と連れ立って岩礁にのぼる。
肩掛けカバンからラジオを取り出してスイッチを入れる。
アンテナを伸ばし、さらにラジオを頭上高く掲げて、電波を探す。
雑音の嵐の中から、エウロパの放送を見つけ出す。
やった。
アナウンサーがニュースを読み上げている。
共和国軍の将軍がエウロパの首都サンチェスカの大部分の公共施設を掌握・・・
先月首都を占拠していた連合国軍は撤退、拠点を西へ・・・
エウロパは解放、サンチェスカは市民の歓喜に包まれ・・・
ニュースが終わるとDJが昔のポップロックを紹介する。
澄んだ空気を明るい旋律が満たしていく。
ウープたちがザジェリクを咀嚼しながら、不思議そうに顔をあげる。
お調子者の弟は、曲に合わせてクネクネ踊りを始める。岩の上で飛んだり跳ねたりして。可笑しいったらない。バカみたいだ。バカみたいだけど、ボクは愛おしくってしかたがない。
曲が終わると弟は、息を弾ませながらしゃがみこむ。
「おまえ、わかってんの?共和国軍のロックかかってる意味」
弟が首を振る。
「戦争が終わるんだよ!父さんが帰って来るんだよ!」
やっとわかったらしい。顔をクシャクシャにして、歯茎まで見せて、笑いながら泣きだす。
その顔が可笑しくってボクまで同じ顔になる。
ラジオが天気予報に変わる。
ボクの顔がひきつる。
サンチェスカは今日も雨が降っています。雨が降り続いています。市民の皆さん、外出をしないでください。
気象予報士の、感情を殺した声。
みんな知っている。
この時期、この地域で雨が降ることなんてありえないことを。
これは、サンチェスカが大変だっていうことを言うに言えない放送局の人たちの抵抗だってことを。
澄み渡った青空を弟が見渡す。
弟の目の中にも青空が見える。
春風にウープたちの長い毛がなびく。
ピオールが空高く舞い上がりさえずる。
父さんはまだ帰ってこないだろう。
いつか本当に、晴れ渡った青空を青空のままに放送できる日が来てほしい。
ボクはラジオを抱きしめる。
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子供のころ、図書館で夢中で読んだ
SF。
あの、カバー絵のリアルさ。
かっこいい装置や、見知らぬ星での
あたりまえな感じのライフスタイル。
好きだったなあ。
なんか、そういシリーズありましたよね。
背表紙にもSFの太文字がくっきり冠した本がズラリ。小学生のころってアレを夢中になって読んでたなぁ。SFが面白かったり、怪奇が好きだったり、あの頃と基本変わっちゃいないボクです。
のんびりとした風景なのに、ものすごい悲劇が想像されます。
そうか。これはSFなんですね。
なにかで、「サンチャゴに雨が降る」のエピソードを読んで感激し、酔った勢いで書きなぐったものです。
昨晩も酔ってて、勢いでアップしちゃったあ(笑)
映画のオープニングみたいで画が浮かんで
流れていきました。
わかんないので検索してみたら、
伊坂幸太郎さんの著作なのですね。
へ~
読んだことはないんですけど、映画化されたのから、
青春ミステリーものの人って印象でしたあ。
ちなみに『アヒルと鴨のコインロッカー』が好きです。