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土木工学者「古市公威」~司馬遼太郎「この国のかたち」より

2016年07月01日 | 建築・たてもの部
<司馬遼太郎が注目した一人の土木工学者>
 東京大学の正門をくぐり左に曲がってすぐの所、殆どの学生が素通りし名前さえ余り知られていない人物の銅像がある。
司馬さんが明治の近代化の秘密を解く鍵とみなした人物、日本の土木工学のパイオニア・古市公威(1854~1934)。
司馬さんに古市について教えたのは、土木工学の世界的権威・東京大学名誉教授の高橋裕さんだ。

「明治の巨大な大人物といえば、やはり古市だろうと。明治の日本の近代化というのは、世界史の中でも特筆すべき。
一挙にね(近代化を)成し遂げられた。その先頭に立っていた一人が古市でしょうね」(高橋さん)
司馬さんは古市のどこに惹かれたのだろうか、東大工学部の図書館に古市の際立つ個性を伝える史料が残されている(留学時代に受けた授業の講義ノート)
 21歳でパリに留学した古市の手書きのノート。数学、物理、建築など新たな知識を溢れる好奇心で学んだ。
古市は自主的にヨーロッパ調査旅行にも出掛けた。「鉄道と海港においては、イギリスの技術はフランスに勝っている」「アムステルダム(オランダ)の運河は、他に類を見ない最も美しい工事である」など一つの国にとらわれることなく、様々な国の技術を柔軟に吸収していった。

その勉強ぶりに下宿の女主人があきれて“公威、体をこわしますよ”と忠告すると、
「私が1日休めば、日本は1日遅れるのです。」といったという。
いかにも明治初年の留学生らしい(「この国のかたち」より)

 フランスから帰国した古市は、国づくりの一翼を担った。力を注いだのは西洋の技術に独自の工夫を加えること。
当時インフラが未整備で、台風や大雨のたびに氾濫を繰り返した日本の河川。
狭くて急流の多い河川の特質に合わせ、堤防の基礎部分に改良を加え、遥かに強固なものにつくり変えた。

「土木技術というか土地に根差す技術というのは、その国の特性というものを踏まえて輸入しないと、単なるものまねに終わってしまう。
そうすると難しい問題がでてきたときに対応できないんです。
たぶん司馬さんもそういう点に強い関心があって、そういう人間的要素が近代化の要因としてあったんだろうと」(高橋さん)

 古市のような人たちが多くの日本人を感化し、西洋の文明を広めていった明治の近代化。司馬さんはそのことを、電気の分配する装置に例えてこう表現している。文明の配電盤。

古市公威は、配電盤そのものだった。帰朝した明治13年以来、内務省土木局に関係して現場設計などに従事する一方、同19年から工学部教授を兼ね、後進を育成した。いわばフランスで得た“電流”を学生たちにくばった。(「この国のかたち」より)

・古市が配った電流は、西洋の文明に強い憧れを持つ日本人に急速に広まっていった。こうして明治の日本はアジアに先駆けて産業革命を成し遂げ“奇跡”と呼ばれる近代化を実現したのだ。明治には、凄味がある。この国のひとびとが、むがむちゅうで産業革命に追っつき、ヨーロッパ風の近代国家を
つくりあげようとした。この国民を興奮させたのは、あたらしいものへの好奇心と、新国家へのロマンティシズムであった。
(「司馬遼太郎が考えたこと」より)

<「道なき道」を進んでいこうとする日本人の本質>
・晩年、日本人が無感動体質になることを危惧していた司馬遼太郎さん。町工場が集まるものづくりの町・東大阪に暮らし、日本人のことを考え続けた。
・東大阪にあるネジ専門の会社に司馬さんの言葉が残されていた。司馬遼太郎直筆の書「道なき道」。小さな町工場で道づくりを始めて80年というこの会社。熱い好奇心で新しい技術を柔軟に取り入れ、新商品の開発に挑み続けてきた。

日本人は技術が好きでした。そして、物が好きでした。一所懸命、道具をつくることに非常に長じた文化史を持ってきた民族です
(「昭和という国家」より)

・「道なき道」未来に何が待ち受けようと、新たな道はきっと切り開ける。
日本がもしなくても、ヨーロッパ史は成立し、アメリカ合衆国史も成立する。
しかしながら今後、日本のありようによっては、世界に日本が存在してよかったと思う時代がくるかもしれず、
その未来の世のひとたちの参考にために、書きとめておいた。
それが、「この国のかたち」とおもってくだされば、ありがたい。(「司馬遼太郎が考えたこと」より)












古市 公威(ふるいち きみたけ、嘉永7年閏7月12日(1854年9月4日) - 昭和9年(1934年)1月28日)は、日本の学者。工学博士。帝国大学工科大学初代学長。東京仏学校(法政大学の前身の一つ)初代校長。土木学会初代会長、日本工学会理事長(会長)
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