冨田敬士の翻訳ノート

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パソコンの日本語入力と親指シフトキーボード

2010-11-29 21:13:05 | 情報
2009年5月19日の投稿記事のなかで、日本語は一つの仮名を一回の打鍵で入力するのが望ましいと書いたが、最近必要があってローマ字入力を試みて、ますますその思いが強くなった。以下、ローマ字入力の問題点と、そしてどんなキーボードが日本語入力にふさわしいかを体験的に略記したい。

実務や技術の文書にはとにかくやたらに英語の外来語が多い。外来語の片仮名表記は読む人にはわかりやすいだろうが、入力は面倒だ。ローマ字入力で打ち込むと、例えばschoolはsuku-ru、machineはmashinn、bookはbukku、licenseはlaisensu、leaseはli-su、actionはakushonといった具合に、原語のスペルとは似ても似つかない摩訶不思議なスペルに慣れなければならない。やりすぎると同じ語なのに2種類のスペルが頭の中で構築されてしまいそうだ。特に、英文と日本語文の両方を作成するという人にとっては、笑い事ではない。以前、ネット上で見たある翻訳者の投稿に、ローマ字で入力していると自分が英文を書いているのか日本語を書いているのかわからなくなるという意見があったが、それはおそらく本当だろう。

ローマ字入力は英語学習上の障害になることも予想される。語尾が破裂音で終わる英単語、例えばfont、brand、cut、milk、top、standなどの語は、ネイティブの発音では語尾の音はほとんど聞こえない。ところが日本語は最後の音を母音で締めないと座りが悪いので、かなり慣れた人でも思わずfonto、brando、cuto、milkuといった発音になって、外国人には奇妙な音に聞こえ、日本人の英語が通じにくい一因になっている。ネイティブのような発音をする必要はないけれど、最低限のacceptableな基準というのはある。日常的にローマ字でtoppu、brando、katto、milukuなどと入力していると、日本語のアクセントをわざわざ英語の発音に持ち込み、塗り固めることにならないだろうか。

以上のような問題や煩わしさは、一つの仮名を一回の打鍵で入力することで解決するのではないか。筆者は10年以上前からWindows XPのマシンに親指シフトキーボードをつないで使っているが、すべての仮名が一回の打鍵で済むので入力が早いだけでなく、日本語と英語間の干渉や混同を経験したこともない。英語の入力にも通常はこれを使っている。ただ、このキーボードを使うにはJapanistという専用の日本語入力ソフトが必要になる。比較的安価で、何台のパソコンにも搭載できるのだが、最近の64ビットマシンには対応していない。

親指シフトキーボードは世間的に知られているとは言い難いが、英語キーボードのように軽快で、日本語の文章を書くのが楽しくなるという人もいて、一部で根強い人気がある。最近、メーカーの富士通からWindows 7に対応した携帯型の親指シフトキーボードが発売され、利用範囲が広がった。重量が軽いせいもあって、キータッチはノート型パソコンに近い。最近、Dellの一部パソコンに採用された新型のキーボードはB割れといって、Bキーの中央位置で変換キーとスペースキーが分断されているため、親指シフトキーボードとしても使用できる仕組みになっている。ただ、担当者に聞いたところ、このキーボードは単体では販売しないとのことであった。いずれにしても、一つの仮名を一回の打鍵で正確に入力できる方式はほかには見あたらない。
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