公務員の生活が第一のシロアリ党
会社員の厚生年金と公務員らの共済年金の統合問題で、格差の障壁になっていた共済独自の職域加算は結局、形を変えて残りそうだ。政府の有識者会議がまとめた報告書は、職域加算を新たな上乗せ年金に移行させるのが適当とした。格差是正が目的のはずの会議は衣替えしただけの公務員優遇を温存した。切り込み不足と言わざるを得ない。
共済年金を廃止し統合する法案は今国会で衆議院を通過した。だが2015年10月の統合後も共済年金の事務組織は残り運用はそれぞれの組織が行ういびつな仕組みになる。共済年金保険料は半分が税金であり、運用を誤ればさらなる税金が投入される。統合は名ばかりとの批判がぬぐえない。実施までに時間はある。同じ器にするなら厚生年金目線に立つ改革を行うべきではないか。
■退職給付差400万円■
法案は、共済年金の保険料率を厚生年金の最終的な保険料率と同一水準(18年に18・3%)にまで引き上げ、遺族年金を受給する配偶者が亡くなっても孫や父母らに引き継がれる共済年金だけの特例も廃止する。
このあたりは評価出来るが、官民格差はそれだけではない。人事院調査では、民間の退職金と企業年金を合わせた10年度平均が約2547万円に対し、国家公務員の退職金と職域加算を合わせた平均は2950万円。民間より約400万円多い。
有識者会議は400万円の解消を焦点に検討。統合の前月までに段階的引き下げを決めた。それにより退職金と年金上乗せ分の合計額で官民の水準を合わせるというが、問題は上乗せ年金保険料の半分が税金だということ。これが公務員優遇の温存といわれ民主党内にも批判が根強い。さすがに上乗せ分は現行の月平均2万円より下げる方向ではある。
■上乗せなくても同水準■
そもそも公務員だけなぜ上乗せ年金が必要かという問題がある。政府は民間の企業年金に相当と説明するが、企業年金があるのは6割ほど、しかも大企業中心。中小・零細は、あっても保険料負担に青息吐息だ。公務員は上乗せ年金がなくても民間の企業年金も含めた退職給付と同水準であり、国民は納得しない。
厚生年金に移行する共済年金の積立金額が妥当かどうかの疑問もある。共済年金の積立金48兆円のうち移行させるのは半分程度。残りは統合前から職域加算を受給しているOBへの支払いに回すという。
厚生年金は現在1人の受給者を現役2・4人で支えている。共済年金は1・5人とより厳しい。にもかかわらず、税金投入で厚生年金より給付が厚く有利になっている。公務員OBは統合後の厚生年金で支えることになる。厳しさを増す共済年金の財源を厚生年金財源で希釈すると勘繰られても仕方ない。共通財源になっても、積立金取り崩しの事後検証は明確にしておくべきだろう。
■国の「富」の総量増やせ■
今月、厚生・国民年金の積立金残高が11年度末で113兆6千億円と発表された。2年前より9兆円減。本年度も8兆9千億円の持ち出しが計画され、残高100兆円を割る恐れもある。積立金を給付に回すのは政府の既定方針だが、ここ3年の目減りペースは想定外の急ぎ足だ。サラリーマン賃金が下がり続け見込んだ保険料収入が得られていない。
全国576の厚生年金基金は積立金不足が1兆円を超え、政府は基金制度の廃止へ本格検討に入った。老後のよりどころ・厚生年金をめぐる動きが慌ただしい。見通し違いを批判するより、将来の給付を減らさないため国の「富」の総量を増やす努力が必要との専門家の指摘がある。
野田佳彦首相は「社会保障制度を安定させ将来不安をなくすことで過剰な貯蓄が消費に回る経済効果がある」と一体改革の意義を説くが、将来不安は急速な少子高齢化と生産年齢人口の減少に有効な手を打てなかった失政のツケでもある。
先の専門家の指摘はつまり経済成長である。物価と賃金が下がり続けるデフレこそ「老後の安心」をむしばむ元凶。国は今こそ本腰を入れ、将来を見据えた政策に踏み込まなければならない。 (大塚 潤三)
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