障害者の進学:進むか 遅れる大学の対応 発達障害

2013-02-27 14:42:13 | 医療

障害者の進学:進むか 遅れる大学の対応、試験でのパソコン使用に壁
 
毎日新聞 2012年05月29日 東京朝刊


 大学や短大、高等専門学校に在籍する学生のうち、心身に障害のある人は1万236人で、05年の約2倍に増えた(11年5月時点、日本学生支援機構まとめ)。だが、学生全体に占める割合は0・32%で、約10%を占める米国に比べ少ない。昨年改正された障害者基本法は、障害者の社会参加を阻む制度や慣行など「社会的障壁」を除去するために「合理的な配慮がされなければならない」と条文に明記している。進学の機会を奪わないためにはどうすれば良いのか。【下桐実雅子】

 鳥取市の斉藤真拓さん(20)は小学1年生のころから集団生活になじめず、多動が激しかった。大学病院の小児神経科で、発達障害の一つであるアスペルガー症候群と診断された。

 本が好きで文章を読むのは得意だが、書くのは苦手で、ノートがとれなかった。不登校になり、小学5年生から特別支援学校に通い始めた。

 中学部からは授業でパソコンを使っている。パソコンのワープロ機能があれば、文章もすらすらと書けるためだ。しかし、漢字を書く力は、今も小学2年レベルだという。

 高等部の時、斉藤さんは先生に「数学の感性が素晴らしい」とほめられた。これをきっかけに「大学に進みたい」と思うようになったが、入試でパソコンの利用が認められなければ、筆記試験は厳しい。

 斉藤さんは受験勉強とともに、入試でパソコン使用などを認めてもらおうと準備を始めた。主治医からアスペルガー症候群や、文字を書くのに困難がある「書字障害」の診断書をもらい、志望する鳥取大の事前相談で、パソコンの利用や別室受験などの必要性を訴えた。

 昨年9月に大学側から、小論文の試験で大学のパソコンを使える決定通知が届いた。母親の里依さん(44)は「小論文の答案用紙のます目は小さくて、息子にはとても書けないと思ったけれど、入試でのパソコン使用は難しいと聞いていたので、認められるとは思わなかった」と振り返る。

 斉藤さんは大学のAO入試に挑戦した。小論文のテーマは「あなたの出身地で選挙の投票率を上げるためにはどうしたらいいか」。斉藤さんは「字数内に収めるのに苦労したが、スムーズに書けた」という。10月下旬、地域政策学科に合格。今春から大学生活を送っている。

 「もし不合格だったら、障害者のための作業所に通うつもりだった」と語る斉藤さんだが、大学の勉強について「楽しい。議論ができる友達がたくさんほしい」と意欲的だ。

 鳥取大入学センターの森川修准教授は「手書きができないからといって、能力のある学生を排除することはできない。代わりの措置を積極的に取っていくのは普通のことだ」と説明する。

 しかし、障害者への対応の仕方は、大学によってまちまちだ。障害者の進学を支援する団体「DO−IT Japan」の近藤武夫・東京大先端科学技術研究センター講師によると、入試でのパソコン使用は身体障害者で前例はあるが、発達障害の一つである書字障害で認められたのは、今回が初めてだ。

 今回の大学側の対応について、近藤さんは「画期的なことだが、善意に基づくもので、運が良ければ配慮を得られる、というのが現状です」と指摘する。特にパソコン使用は「漢字変換機能が入試で不正を生むのではないか」という慎重論も根強い。

    ◇   ◇

 東京都八王子市の小林春彦さん(25)は、これまで大学入試センター試験に5回挑戦したが、希望した配慮が受けられずに受験を断念。現在、試験のない通信制の放送大学に在学している。

 18歳の時に突然、路上で倒れた。脳梗塞(こうそく)だった。命は取り留めたが車いす生活に。リハビリで歩けるようになったが、左半身にまひが残り、脳機能の障害で、文字を読むのにハンディがある。

 普段の学習でパソコンの音声読み上げソフトを使っている小林さんは、センター試験で第三者に問題を代読してもらう特別措置を大学側に求めたが、認められたのは試験時間の延長と、解答用紙の拡大だけだった。

 小林さんは「入試では、論理的に考える力や発想力を問うてほしい。目で字を認識できなければ耳から情報を与えるなど、いろいろな試験の仕方があるべきだ」と訴える。

 日本LD(学習障害)学会理事長の上野一彦・東京学芸大名誉教授は「04年に発達障害者支援法ができて、小・中学校の支援態勢は整い始めているが、高等教育での対応は遅れている。どんな人も、その特性に合わせて能力を伸ばすことが重要だ。多様な学び方を理解し、育てていくことが就労にもつながる」と話す。

 ◇受験支援夏季講座、今年の参加者募集

 「DO−IT Japan」は毎年、障害や病気を抱える学生の受験を支援する夏季プログラムを東京で実施しており、今年の募集をしている。プログラムは3泊4日の合宿で、大学関係者や企業が協力し、IT機器の学習での活用法や入試で配慮を申請する際の考え方などを学ぶ。

 今年は8月1〜4日で、高校生・高卒者10人を募集。募集要項はホームページ(http://doit-japan.org/)からダウンロードでき、6月1日まで受け付ける。

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 ◇センター試験の特別措置

 各大学が障害者の受験への配慮を考えるとき、大学入試センター試験の特別措置に準じる場合が多い。センター試験では、翌年4月入学の入試について、特別措置の内容や申請書をまとめた受験案内(別冊)が例年9月に配布される。別冊には聴覚障害▽肢体不自由▽病弱−−など、障害別に配慮する内容が例示されている。11年度入試から、発達障害への配慮が新たに盛り込まれた。同センターによると、12年度入試で特別措置が認められた志願者は1472人で、増加傾向にある。



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