美術の学芸ノート

中村彝などの美術を中心に近代日本美術、印象派などの西洋美術、美術の真贋問題、個人的なつぶやきやメモなどを記します。

中村彝の植物文様のモティーフ

2015-06-26 21:57:48 | 中村彝
 愛知県美術館にある彝の作品でモデルの俊子が座っている植物文様のモティーフは、俊子を描いたメナード美術館の作品や、さらにその他の作品にも何度か登場し、作品に独特の装飾的、色彩的効果を与えているから多くの人の印象に残っていよう。

  
 
 彝のアトリエにあった様々な遺品が寄贈された茨城県近代美術館であるが、残念ながらこのモティーフはなかった。私が同館で仕事をしていた時、遺品寄贈の話があったが、その時私が最初に思い浮かべたのは、このモティーフのことだった。が、その目録にこれらしきものは記されていなかったので、ちょっと寂しく思ったのを覚えている。このモティーフは、俊子を描いた作品で印象的だから、特に欲しかった。何か、彼女にゆかりのものが。

 このモティーフは、深紅の花びらやアネモネに似た切り込みの深い葉のフォルム、S字形に何度も屈曲する青灰色または灰緑色の茎のパターンが特徴的で、画面の装飾的な効果を非常に高めている。
 
 アネモネの葉のフォルムに似たモティーフは、花と同じ深紅の色であったり、明るいオークルの調子だったりする。アネモネは、バラと同様に彝にとっても、彼が敬愛するルノワールにとっても重要なモティーフだった。
  
 実は鈴木良三氏のもとにこのモティーフがあったはずである。昭和56年ごろはまだあった。それが部分的に写っている写真がある。その写真の拡大部分が下図である。



 これを見ると、色が褪せてしまったということもあるのかもしれないが、絵の中での色調とはだいぶ違っている。茎の色の青灰色も見られない。だが、深紅の花や、深紅または明るいオークルのアネモネ様の葉のフォルムは確認できる。屈曲する茎のフォルムの色は、彝が色彩を欲して自由に変えたのかもしれない。

 その他、彝の静物画見られるモティーフで重要なのは、やや反った緑色の「陶板」である。これは、何点かの静物画に出てくる。陶板の強いフォルムと鮮やかな緑が小さな作品の中で実に効果的だ。
 これが、陶板であることは、やはり鈴木良三氏から聞いたことがあるが、これも、遺品目録には入っていなかった。

 また、「カルピスの包み紙がある静物」の画面左上に出てくるモティーフが何であるかわからなくて、良三氏に尋ねたことがある。それは、帽子掛けのモティーフと氏は答えてくれた。それ以来私はそれを帽子掛けのモティーフと呼んでいる。だが、特徴的なこのモティーフも寄贈目録にはなかった。

 重要な革張りの椅子は、茨城県近代美術館に寄贈されたし、晩年期に髑髏やその他の静物画を描くときに使った、白い小卓などは残った。彝の中村屋時代に亀岡崇が座ったと思われる椅子もある。茨城県が持っている静物画に登場するちょっと複雑な形のテーブルもある。

 しかし、多くのものが失われているのも事実だ。
 時がたち、みな古くなって、どうしても処分せざるを得なかったのかもしれない・・・

 

 
コメント
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