Sleeping in the fields of gold

小麦畑で眠りたい

秀雄はB型?

2010-03-11 | Books
あぁ、面白かった。(←庄野潤三風に)
時間つぶしに本屋に寄って、実はその日はなんだか頭も重くて体調が悪かったのであるが、何を血迷ったか、目に付いた小林秀雄と数学者の岡潔の本を買ってしまったのである。

秀雄、苦手じゃなかったっけ?
えぇ、えぇ。そうですとも。
苦手です。

先日そんな話を友人としたところ、友人のそのまた友人で秀雄好きな人がいたそうで、こんな話をしてくれた。「小林秀雄は本当に知識が豊富で、あまりにも膨大な知識量があるものだから、気持ちが先走ってしまうところがあるのだ」とその友人の友人は言っていたと。書いている文章が秀雄の気持ちに追いつかず、よって、読者にとってはなんだか『途中がすっとばされた』感が残るのだ」と。

それを聞いてワタクシは大笑いしてしまった。
なぜなら、それは実に的を射た言葉であったように思うから。

知の巨匠とも呼ばれ、今世紀名の知れた批評家であるが、その素晴らしさがワタクシにはさっぱり分からなかったのだ。今まで。数もそんなに読んでいないこともあるが、ワタクシのようなナメクジ頭の人間には、一見で文の構成があたまに入ってこないとさっぱり趣旨が分からないのである。頭の出来の良いひとは「一般人にも分かるだろう」と難しい物言いをしてしまいがちであるが、頭の回転が速くて、知識量も豊富な人ほど「難しいことをサルでも分かるように簡単に言う」ということが、とても大切なのだ。それができないようでは、ワタクシはその人が「本当に頭がいい」とは認めない。

仮にも文章に書いて出版するからには、学術系の専門書ならまだしも、専門のバックグラウンドがない人だって当然目にする機会があるわけである。そういう人が、一読で(できれば何度も読み返すことなしに)分かるように、書けなければ、筆者が本当に自分の書きたいことを分かっているとは言えない。

秀雄には完敗であった。
しかし、そうでありながらも、骨董好きとか、その見識の広さには惹かれるものもあり、自分で読んで「分からない」ということが心残りでもあった。そのために、つい、今回も手に取ってしまったのだろうなぁ。しかも、相手が稀代の数学者、岡潔。

今回はこの二人の対談なのであるが。
まー、奥さん。(←誰だよ)
面白いですよ、これ。

面白いんです(笑)。

対談なので、口調はかなり砕けた感じで。
冒頭一行目から、秀雄が「今日は大文字の送り火ですね」と岡さんに言う。どうやら8月のお盆の頃の対談であったようだ。時は、1950-60年代くらいに行なわれた対談なのかなぁ。

その問いへの岡さんの答えが絶品。
「私はそういう人為的なものは嫌いです。小林さん、山は焼くもんじゃないですよ」

冒頭からワタクシは爆笑でした。
どうよ、この話のとっかかりを一刀両断してしまう感じ(笑)。

ワタクシは無学なので、しかも数学のさの字も知らない人間なので(数学を通り越して、算数のさ)この岡さんという方を存じ上げなかったのであるが、数学界の天才なのね。京大を出た方で、数学の長年解けなかった命題を一人で解いてしまった方であると。そんなことを一つも知らずに読んだのだが、この岡さんが、素晴らしいのですよ、本当に。

秀雄は相変わらず、突っ走る。しかも、秀雄は自分も文学とか芸術には造詣が深いけれども、数学のことはさっぱり(でも物理学は結構好きみたいなのさ)。結構「とんでもない」質問を岡さんにぶつける。(ワタクシにはその気持ちもすごく分かるのだけど)数学の公式を解けとか説明しろ、とかではないのだが、「数学」という世界の常識、ものの考え方などを、非常にいわば「文学的に」質問するのである。うわーーーっ。秀雄、なんてぇことを聞くんだ、数学者に向かって!(内心冷や汗ものである)

しかし、岡さんはその一つひとつに丁寧に答えてくださる。そして、分かりやすい。この数学音痴のワタクシが読んでも、岡さんが何を言わんとしているか、大抵の場合分かる。もう、感心。岡さん、すごい。だってワタクシがついていける。難しい数学の理念について、分かりやすく教えてくださる。そして、なにより凄いのは、岡さんが専門分野のことしか分からない「数学バカ」ではなく、非常に広い視野と知識を持っている人だということだ。この人は、ほんとうに天才だなぁ。こんな人に教わったら、ワタクシも数学好きになれたかもしれないと無茶な錯覚を起すほど。

勢いこんでいろいろ質問し、しかも、自分の得意な文芸分野に大抵話を引っ張っていきがちな秀雄を、岡さんが「ほほぅ、ほほぅ」と優しく見守ってくださる図がなんだか想像できるようであった。子供のように「知」への欲望に向かってひたはしる秀雄がまた、かわいいのである。小さな子供のように、この人は好奇心旺盛な。欲しい欲しいと思っていた、ある骨董商の徳利を、ある日秘かに盗んでしまったりするぐらい、おこちゃまな秀雄なのである(笑)。(この人、たぶん血液型B型じゃないかと思うんだけど(笑))

話の内容も数学の話であったり、哲学の話であったり、教育の話であったりと面白い。

しかし、一番面白いのは、この行間に見え隠れする、二人の「人柄」である。
二人の「息づかい」である。

奥さん、いや、新潮社の回し者じゃないんですが。
この内容で380円はお買い得ですよ♪





小林 秀雄,岡 潔
新潮社
発売日:2010-02-26
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