今更ながら、であるが、黒澤明監督の「七人の侍」を見た。今まで見てなかったの?という突っ込みもあろうが、見てなかったんです(笑)。NHKBSでここ数ヶ月、ずっと黒澤特集をしていて、全30作くらい放映していたのだが、なんせ長い、七人の侍。4時間近くあるもん(笑)。
録画はしたものの放置していたのだが、昨夜から二日に分けて見終わった。
うん。いいです。
おい。あっさりだな(笑)。
いや、文句つけようがない(笑)
良い作品である。ま、これだけお金と月日を使ったら、これくらいの作品は作らないと、とは思う(笑)。
白黒だけれど、光と影の使い方がとても綺麗であるし、最後の雨の中での泥にまみれての合戦シーンも素晴らしい。冬の寒い時期に褌一丁でこれを撮ったのだから、良くやったと思う、三船敏郎。三船敏郎は決して上手い俳優ではないと思うけれど、独特の荒くれた存在感があって、それだけで充分。若い時の彼の美しい身体も賞賛に値するものだと思う。
黒澤作品に良く出てくる志村喬も本当にいいねぇ。ワタクシはこの人が好きである。味のある良い俳優さんだ。舞台俳優さんだと思うが、台詞を言っている時に、ちゃんと腹式で台詞を言っているから腹が激しく上下する。声高に台詞を言っているわけではないのに、深く渋い声で通るのだね。じぃんと染み入る。
若い侍が農村の娘と恋をするシーンでは、一面の花畑が用意される。モノクロのフィルムの中で、白い花が一面に咲き誇る。これがまたとても綺麗なのだが、これをスタッフが確か手植えで全て用意したのではなかったか。大変な労苦であったろうと思う。
騎馬の美しさ、村人の衣装、その汚れ方、侍たちのそれぞれの個性、しっかりと描いている。
表題は、七人の侍たちが集まって、合戦の時に掲げる旗指物に描かれる印であるが、○は正当な侍、△が三船演じる農民上がりのなんちゃって侍を表わしている。そして、た、が農民。
野武士に襲われる農村が、村を守る為に、ご飯だけを無償で提供するから七人の侍に村を守ってくれるように頼む。報奨金もなく、飯を喰わせるだけで?命をかけるか?と西洋の人々にしてみたら納得できないところらしいのだが、これらの侍は「食」のためだけに命を捧げるのではない。「義」のためである。
白米を身を粉にして作っている農民が、自分達は白米を食べられず稗や粟を食っている。志村喬はその一膳の白米を手にとって、農民たちに一礼する。
「この飯、おろそかには食わんぞ!」
飯があって人は生きる。
その一膳の飯を作るために、農民のどれだけの努力があるか。
この年の瀬はリーマン・ショックから世界的な大不況に陥った。
日本各地で自動車産業を中心に非正規職員の解雇も続いている。身を粉にして企業のために働いてきた人々を、使い捨てで切り捨てる風潮が続いている。
人は、食わねばならない。
食わねば、死ぬしかない。
七人の侍のような義侠心に富んだ侍は、この平成のご時世には期待できないのだから。我々も、この映画の農民のように無知で、不幸に泣いているばかりではなく、強かに自分の身を守る為に知恵をつけ、敢然と立ち向かう必要があるのだ。
誰も、守ってなど、くれない。
生き延びたければ、戦え。