恵比寿に出向く。映画を見ようと思って。
若干早く着いてしまったので、いつもの写真美術館によって「新花論」という小さな展覧会を見てきた。
花の写真なのかと思っていたが、花の写真を題材にしたモダンアートであった。今ひとつ。
ただ、入った瞬間巨大な薔薇の写真があり、辺り一帯薔薇の香りに包まれていた。香りの演出というのはなかなか良い。その作家はロンドンに留学していた事のある人で、クラシックローズに囲まれたイギリスの生活から着想を得たようである。
そう、イギリスでは古き良きクラシックなイギリス調度かもしくは明るい色目のモダンな部屋が好まれる事が多いがいずれにしても、おそらく天候に深く関わっているに違いない。ほんの2-3年ロンドンに滞在しただけであるが、イギリスの冬は長い。冬場は晴れ間がのぞく事はほとんどなく、午後3時には北緯が高いため辺りは暗くなる。それが半年近く続くのだから、せめて調度品には華やかな「花柄」や明るい色のモダンアートで飾り付けたい気持ちは分かる。
そうでもしないと気が滅入って仕方がないのだ。(笑)
作品の紹介は日英両方で書かれていたので、英語の紹介の方も何気なく読んでみた。
同じ事を書いているのに、やはり印象が変わってくるのは面白い。
会場の外には「花」というテーマで自分の撮った写真を貼れるスペースがあった。
ぐるり一周見てみたが、あまり印象に残るモノはない。
家族の花、ということで自分の「子ども」の写真があったりもする。脱力である。
可愛くない子どもほど、親は目にいても痛くないほどにかわいがるものである。
親はそれでもいい。でも周りにまでその感覚を強制するなよ(苦笑)。ブサイクなガキは嫌いだ(笑)。
(ちなみに姪のHanaはとても可愛い顔をしているが、最近の写真では我の強さが現れてきてずいぶんと意地悪そうな顔をしている。生まれたての時の方がかわいかった。申し訳ないが、今は「かわいい」とはとても思えない。造作は整っているけれど。(笑))
別の階で開催されていた「HEIAN」という展示もなかなか良さそうだった。時間がなかったので今回は見逃したが。和風とモダンアートの融合という感じ。モダンの妙に白くてスペース間がある、ありすぎる空間はとても苦手なのだが(例えばコジャレタお洋服やさんみたいな。)「和」の感覚でまとめると、不思議と苦痛にならない。侘び寂びの基本が削ぎ落とす、シンプルさゆえだろうか。
ショップで荒木経惟の写真集を少し見た。奥さんの「死」の前後を写したとても私的な写真集。
奥さんの亡くなった日の朝咲いたというこぶしの花をとったモノクローム写真がある。それがとても気にいっていたので欲しかったのだが、無駄遣いはイカン、と思い諦めた。若かりし頃の奥さんといかにも「旅館」然とした場所でおそらくはセックスの最中の彼女の顔を撮ったものもある。
本来表に出ないような写真だろうが、それがとてもいい。愛する相手が撮っている写真だからきっと彼女はこれほどに隠微で美しく写っているのだろう。
知らなかったのだが荒木はうちの実にご近所の大学出身であった。工学部出身なんだね、あの人。
それで電通→写真家。不思議なキャリアだな。
***
さて、当初の目的の映画館へ。
あれ?分かんないよ。どこにあるか。
しばらくウロウロして探してしまった。
ここの作りはすごく不親切かもしれない。
「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」
正しく、いい時期にいい映画に出逢ったという感じだ。
Omar Sharifがいい。ドクトルジバゴとか、アラビアのロレンスなんかに出ている髭面の濃い兄さんだが、なんとまぁ老けたものだ。しかし、その老け方がいい。実に味があっていい。ドクトルジバゴの時などはうっとおしかったくらいだが、いい具合に枯れてきてたまらなくOmarが魅力的だ。この人何人だ?ところで。
Momoという母からも、やがて父からも捨てられるユダヤ人の少年とトルコ人商人のイブラヒム。
イブラヒムの愛情でMomoは自分の居場所を見つけていく。
厳格で自分のやり方しか通さない父とMomoの間の心の溝が、私には手に取るように分かった。あの息苦しさは堪らないだろう。
むしゃくしゃしているMomoにイブラヒムはコーランの教えに基づいた生きる知恵を授ける。コーランの厳格な戒律ではない所がいい。せっかく仲良くなった恋人にMomoが裏切られた時でも、自分の愛を裏切るなとイブラヒムは教える。不覚にも涙。
だから、時期的に痛いんだって(笑)。
こうやって書いてしまうとどうってことない映画なのだが、オマー・シャリフとモモ役の少年が実にいい。少年はとてもハンサムなのだが、ハンサムなだけではなくこの役にあった「空気」がある。
その分ラストで現れる成長した「モモ」にげんなりしてしまった。
少年時と繋がらない。(笑)いっそのこと、成長したモモの姿は映さなくても良かったのではないか。
「成長した」モモだと言葉で説明しなければ、見ているものに分からないのではいささか・・。
カメラをモモの視点として撮っても良かったかも、と少し思う。体の一部が見えるだけで成長した事は分かったろうし、イブラヒムの商店を継いだことも店内を映せば分かったと思う。
ラストがやや残念だが、それ以外は実に堪能できた。懐かしいトルコの景色も、ヨーロッパに多い中近東系、インド系の人々が経営する小さな雑貨屋の様子も、匂いまで漂ってくるような気にさせられた。
モモをとりまく娼婦達も魅力的でいい。
彼女達の「母性」にも似た愛情も小気味良かった。
なかなかの良作。
***
蛇足にて。
次回公開のBefore Sunset。
これもちょっと見てみたい。
10年前に撮られた映画、そのままのキャストでのある一夜の恋の「その後」の話なのだ。
老けたイーサンホークがどう成長しているのか(笑)。
機会があったら見てみたい。