Sleeping in the fields of gold

小麦畑で眠りたい

There is nothing either good or bad.

2015-02-13 | Arts

蜷川さんの『ハムレット』を観てきた。

主役の藤原竜也君がハムレットを演じるのは12年ぶりの2回目なのだそうだ。へぇっ。
案外、やっていなかったのだね。オフィーリアには満島ひかりちゃん。そして、オフィーリアのお兄さん、レアティーズ役にひかりちゃんの実弟の満島真之介君。

ハムレットの父王を殺した叔父/父王の亡霊の二役を平幹二郎。その叔父と再婚する母親役に鳳蘭さん。

実は、蜷川さんのシェイクスピア劇は結構好きで何度か観ているのだが、蜷川さんに限らず『ハムレット』を舞台で見たことがなかった。いやさ、今時シェイクスピアを真面目に演じる劇団なんてそうそうないでしょう。イギリスの劇団でもない限り。長いし、セリフ多くて大変だし(笑)。戯曲は読んでいるのだが、やはり戯曲って演じられてなんぼなんだよなぁ。印象が違うんだもの。戯曲だけを読んでいる時と、演じられたものを観る時とでは。

今回の舞台は決して悪くはなかったが、全体の印象としては消化不良気味かな。
チケットの売り切れが早かったので、2階席だったのだよ、今回。
したら、1幕目、藤原君のセリフが早口でしゃべりすぎて、2階席の後ろからだとよく分からないの(泣)。1階席だったら聞こえたのかな?分からないけど。たぶん、マイクは使っていないのだろうし。

でも、平さんの声は、ちゃんと聞こえるの(笑)。すげーっ。一言一句、全部綺麗に聞こえる。惚れるね。
とりあえずセリフが聞こえてくれないとね、こういう遠い席では表情なんて見えやしないから、セリフに頼るしかないのよね。
そのセリフがちゃんと聞こえないと、中身がいい悪い以前の問題になってしまう。

ハムレットはやたらに悩む青年なので、独白シーンが多い。
その独白のトーンが、1幕目、割と藤原君は激情度合いが同じトーンというか、ものすごく気合が入っている葛藤具合なんだけど、観ている方としてはそこまで空回りする感じがよく分からない。
まぁ、実の父である王が亡くなって、2ヶ月も経っていないのに母親が父の弟と再婚してしまう。そりゃね、確かにどうかとは思うよ。ただ、実はこの王妃がデンマークの王位継承権を持っている人らしい。ということは、国の安定を早期に図るためには、王妃と叔父が再婚するという手も、まぁ現実的な解決策として無きにしも非ずなんじゃないかとは思うんだが。まぁでも、2ヶ月は早いよね。

1幕はちょっと退屈かなと思っていたのだが、2幕の冒頭は良かった。
ハムレットが母の寝室で母をなじる場面。母の心変わりの早さを淫乱女としてなじる。要するにハムレットって「マザコン」なんだなということがこのシーンではよく分かった(笑)。母の不貞を許せないのは、恋心にも似た慕情を母に対して持っているから。この時の藤原君のテンションはとても良かったし、鳳蘭さんも素晴らしかった。父の亡霊を見て、発狂していると思われる息子が、近親相姦まがいのことを自分に対してしていながらも、やはり母としての愛情が勝っている部分。母の嘆きに心を動かされた。
女であって、母であるってこういうことなんだろうなぁと。バカでかわいい女なんですよ。セックス好きで。女としては可愛いけれど、確かに母親だったら嫌だろうね。

満島ひかりちゃんは、小さくて、細くて、顔が豆粒のようだった。
ちっこすぎて、舞台上ではほぼ見えない(笑)。声も一応出していたけれど、舞台で通る感じの声ではなかったな。高すぎる。

ハムレットとオフィーリアが別れるシーン。いわゆる「尼寺へ行け、尼寺へ」ってやつですけど。尼寺ってねぇ…(笑)。
このシーンも一つの見せ場だと思うし、藤原君は相変わらずのテンション高めなんだけど、あっちこっち、戸を通り過ぎては戻ってくるという演出は、あれはしつこくないかい?(笑)しかも、今回大道具が和風の長屋の造りになっていて、ドアが全部「引き戸」なわけ。西洋の物語に引き戸が出てくるって、ものすごく珍妙な印象を受けるのだけど、まぁ、これおそらく海外でも公演するのだろうから、そういう和風テイストを入れておかなきゃいけないのだろうよね。

尼寺へ行け、のオフィーリアは、もうちょっとなんかできなかったかなぁという気が。恋人同士で好き合っていて、いつかは結婚もと思っていた男性から、突然罵声を浴びせられ別れを告げられるわけですよ。あれだけ苛烈な憎しみをぶつけられたら(でもその憎しみは実際は「母」に対してのものなんだよね。だけど母を通じて女性全般に対して八つ当たりして、しかも一番愛している、可憐で清楚なオフィーリアに対して「お前も同じだろう」と。)もっと哀しみとか憎しみとか、通り一遍の演技でなく、見せてほしかったな。狂うほどの哀しみであれば、もっともっと深いところからの魂の叫びであってほしかった気がした。

ハムレットに(アクシデントで)父親も殺され、オフィーリアはついに狂ってしまう。
満島ひかりちゃんは元々歌手としてデビューしていた人だから、歌は結構お上手なのね。この狂ったオフィーリアの奏でる歌声は、とても綺麗だった。セリフはあんまり通らないんだけど、歌は2階席でもちゃんと聞こえた。とても透き通った歌声で、この歌でほろりとさせられた。

予想外に良かったのが、じつはひかりちゃんの弟、満島真之介君。実はこの子を見たくて行ったようなものだな。最近、TVにもちょこちょこ出ているけれど、なかなかいいんですよ。いろんな役をできる子。彼はガタイもでかいので舞台映えする。そして、思った以上に声が出ている。声量がある。この子は、将来的には舞台俳優としてもいけるんじゃないかと思った。実の姉弟だから、兄妹の役も非常に自然で見ていて微笑ましい。きゃっきゃっ遊んでいるところなんて、かわいい。しかし、ひかりちゃん真之介君の半分くらいの身長しかなくて、同じ親から産まれてどうしてこういうことになるんだろうと思った(笑)。

今回実は、観終わった後に驚きの事実を知った。ハムレットって青年だと思っていた。10代後半かせいぜい22-3歳くらいか?と。ちげーんですよ。30歳なんだって(笑)。セリフで述べられている事実から計算すると、この人30歳。で、オフィーリアは16-7歳くらいかと。ほぼ、犯罪者だね(笑)。

なんかねー、ハムレットが30歳って聞くと、いろんなことが音を立てて崩れていくのよ。
えぇ~~~っ?って。
20才くらいだと思うからこうした葛藤も許せるし、女性に対する潔癖性も理解していたのだけど、30歳?となると話は別だぁな。
え、30歳にもなって、あんたこんな事で悩んでいるのか?と(笑)。びっくりするゎ!

そして、なににもまして惜しまれるのが、エンディング。
最後、ノルウェーの王子にデンマークが攻め込まれる。出番は少ないのだが、このノルウェーの王子、フォーティンブラスという役は結構おいしい役どころ。ハムレットが死んだ後の、〆のセリフを吐くのでね。
ところがですねー、この新人君の声が、少なくとも2階には「一切」セリフが聞こえないの。
何を言っているのか、分からない。
ハムレットの遺体を胸に抱いたホレイショが返答してくれるから、どうにか流れが分かるものの、この新人君の声量のなさはちょっと酷い…。いっそマイクつけてやれよと思う。叫ばなくてもいいよ?静かに語るのでもいい。でも舞台俳優は、やはりセリフが劇場の端まで届かなければ、舞台俳優とは言えまいよ。

3時間を超える熱の入った舞台で。
〆の場面で、セリフのほとんどが聞こえないのでは、後味が悪い。

蜷川さん、これはないゎ。
若い子を挑戦させるのもいいけれど、最低限のラインは守ってほしい。

最後でダメになったら、それまでどれほど頑張っても、芝居はダメだよ。
この新人君が、最後を台無しにしたなと思う。