岩切天平の甍

親愛なる友へ

イタコ

2007年08月13日 | Weblog

お盆を前に、故郷に住む姉と電話で話していた。

「ホラ、イタコって言ったかしら、死んだ人と話が出来る人の事、そういう人に会ったのよ。」
「ふーん、それで?」
「母さんは、『娘には弟がいるんですけど、遠い所に住んでいて一人ぼっちだと思うから、私はいつも娘のそばに付いているんですよ。』って言ったんだって。で、父さんは『ただ黙って下を向いて泣いていらっしゃいます。』だって。」

父は僕が十六歳の秋に自殺した。二階で首を吊っているのを見つけた母が、僕に「おろしてやりなさい。」と命じた。ロープを切って、落ちて行く父から顔をそむけたその耳に、頭が床を激しく打つ音が突き刺さったまま今でも消えない。あれから二十六年も経ったというのに・・・。

 僕は死後の世界、霊界といったものを信じる者で無ければ、信じない者でもない。これまでいずれをも確信するに足りる根拠に出会わなかったからなのだけど、ただそういったことにあまり関心を持たないのには理由がある。

神とか霊を持ち出すのは現実と向き合って誠実に具体的に問題と取り組んで行こうとする態度と対立すると考える。だからあまりSFやホラーに夢中になれないのかもしれない。なんて言いながらET見て泣いたけど・・・。

チェーホフは「作家が神とか宇宙とか言い出したらおしまいだ。」というような事を言っていた。

 それにしてもその霊能者が姉の素性を言い当てたのは不思議。
考えてみると、おそらく両親の霊では無くて、何か“姉の意識の中にある両親”というものを話したのではないかとも思う。

話を聞いたカミさんは「イタコの話はともかく、何でお姉さんがそんな所へ行ったのかの方が問題だわね。」と言う。

姉は「じゃあ明日、お墓に迎えに言ってくるわね。」と言って電話を切った。




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