アパッチ蹴球団-高校サッカー篇:project“N”- 

しばらく自分のサッカー観や指導を見つめなおしていきたいと思っています。

フィジカルコンタクトというスキル

2008年10月12日 14時34分00秒 | 技術の謎
サッカーにおいて、
【アーリーヒット】という言葉がある。
プレーしている方や指導者の方にはなじみの言葉。



現役を引退した中田英寿選手のプレーを取り上げて、
『中田選手はアーリーヒットが上手い』という解説者の言葉を
記憶している方も少なくないと思う。
他にも、アントラーズやヴェルディにいたビスマルク選手は
【アーリーヒット】や身体の使い方が上手い選手として
印象に残っている。



【アーリーヒット】とは
「出されたパスに対して、
 まずボールを触りに行かず、
 自らボールに寄りながらも、
 相手選手にパスコースに対して身体を入れさせず、
 相手を自分の身体でブロックしつつ、
 ファーストタッチをする」
そんなイメージ。



いきなり相手の存在を意識せずにファーストタッチすると
ファーストタッチしたする直前の不安定な状態でチャージされ、
バランスを崩して、ファーストタッチがぶれてしまう。
なんとか相手のチャージを堪えたとしても、
ファーストタッチの瞬間を相手は狙ってくる。
少しでも、ファーストタッチがぶれたら、
そこに身体を入れてくる。



そうさせない為にも、
ボールに触る前にも、注意深く相手の存在を意識し、
相手に自分の身体を当ててから、
ファーストタッチする。



もちろん、タイミングを間違えると
オブストラクションになってしまうので、
ある程度、練習が必要になってくる。



今、指導しているチームでは
FWやMFの選手達は
正直なところ、
【アーリーヒット】ができていない。



それどころか、
「相手に身体を当てる」という意識そのものが
まだまだ低いよう印象を持っている。



具体的には
攻撃における【アーリーヒット】が出来ていないだけでなく、
守備の場面で身体を当てる意識の低さが目に付くことが
その根拠になっている。



相手が前を向いて、
利き足でボールを持っていたり、
利き足側のいい場所にボールを置いている状態で
相手にしっかりとヘッドアップされていては
足を出しにくかったり、
身体を当てられないということもあるかもしれない。



しかし、
それ以外の悪い持ち方をしている時や後を向いている時など、
身体を当てることが出来る時や身体を当てるべき時などに
身体を当てにいかないことが多い。



相手と接触せずに足だけをボールに伸ばし、
身体を当てることはほとんどない。



もちろん、それでボール奪取できれば問題ないが、
悲しいかな相手が都大会クラスのチームだと
ほとんどボールは奪えない。
もちろん、スライディングするわけでもない。
これでは、相手のイージーミス以外ではボール奪取できるはずもない。



実際、今まで大会でもリーグ戦でも、練習試合でも
相手がある程度のレベルだと
ボール奪取回数は極端に下がってしまう。
高い位置でのボール奪取となると、
片手で十分カウントできる回数になってしまう。



サッカーというスポーツは様々な要素を持つが
格闘技というか接触プレーを前提とする部分は確実に存在する。
表現を変えると
接触プレーがないのはサッカーではない。



今、フットサルのワールドカップが行われているが、
フットサルでさえ、レベルが高くなると
激しい接触プレーは多い。
直接的なタックルやショルダーチャージはなくとも
球際での攻防は激しい身体のぶつけ合いになっている。



フィジカルコンタクトがサッカーの本質的な要素だとしても
守備における身体の当て方は
フィジカル云々の問題ではなく、
あくまでも技術や意識の問題だと捉えている。



身体的な強さが
【アーリーヒット】という技術や球際の強さを
裏付けることはあるかもしれないが、
接触プレーはファールでない限り、
本質的に技術の問題であり、
意識の問題だと解釈している。
そうでないとサッカーは完全にプロレスになってしまう。



過去に守備におけるフィジカルコンタクトで
強く記憶に残っている選手がいる。
Jリーグがが始まった頃のヴェルディ川崎に所属していた
カピトン選手(本名:オレウデ・ホセ・リベイロ)。



優勝を決めるサンフレッチェ広島との試合で
広島のハシェック選手やノ・ジュンユン選手が
前を向いていいボールの持ち方をしていても、
スーと身体を寄せて、
相手のスピードを減速させて、
横を向かせる。
相手が横を向いた瞬間に腰を中心とした身体の軸を
相手に絡ませるようにしながら、
ボールを奪う。
ボールを奪えなくても、
相手の足から悪い形でボールを出させる。
いいパスの出させ方をしない。



カピトン選手は決してフィジカルに優れた選手ではなかったが
その身体の寄せ方の上手さ、
フィジカルコンタクトにおける身体の使い方の上手さは
本当に玄人好みな選手だった。
守備における身体の入れ方のお手本となるような選手だった。



ノ・ジュンユン選手のようなスピードのある選手も
ステップワークで相手のスピードを吸収し、
まるで蛇が自身の身体を獲物に絡めて捕らえるように、
相手がスピードを緩めた瞬間に
腰や腕を相手に絡めてボールと相手の間に身体を入れてしまう。
こんなボールの奪い方もあるのか?
とある意味、衝撃を受けた選手だった。



それまでの自分は
しっかりと寄せて、
いいアプローチで相手よりも先に止まり、
相手のコントロールミスを狙ったり、
または、
極端にインターセプトを狙う、
というイメージでのボール奪取が多かった。



もちろん、接触プレーは嫌いどころか、
どちらかというと好きだったし、
抵抗など全くなかった。
相手が後向きでボールを持とうものなら、
絶対に前を向かせないように
思いっきり身体を当てていくのが好きだった。



ただ、相手に前を向かれた時には
テクニックのある選手には苦労していた。
フィジカル勝負で相手からボールを奪いたいのに
相手がそうさせてくれない、
飛び込めない、
そんな選手は本当にやりにくかった。



当時のカピトン選手のプレーから
前を向いている選手からボールを奪うのは
フィジカルが足りないからではなく、
技術が足りないからなのだ、
ということを間接的に教えてもらった気がする。



同じようなことを
自分が今、指導している選手に
直接的に伝えていきたいと思う。



接触プレーがないのはサッカーではない。
接触プレーを怖がらず、
接触プレーのあるのが大前提なのだ。
ということを。



その中で、何ができるのか?
また、局面局面で何をすべきなのか?
どのようなフィジカルコンタクトをすべきなのか?



「無駄な接触プレーをすべきではない」という人もいるが、
それは、接触プレーをすることが当たり前になって
初めて言うべきことであって、
フィジカルコンタクトそのものが
習慣化されていない選手に言うべきことではない。



理想はフィジカルコンタクトなしに
ボールを奪い、攻撃することなのかもしれないが、
たぶん、サッカーでその理想は存在しない。
フィジカルコンタクトのないサッカーは手の届かない理想であって、
現実ではない。



理想と現実との妥協点として
「守備ではフィジカルコンタクトを厭わず、
 反対に攻撃の時には相手にフィジカルコンタクトさせない」
というのはありうるのかもしれない。



ただ、今は指導しているチームで
選手達がフィジカルコンタクトを厭わなくなること、
フィジカルコンタクトは技術であること、
フィジカルコンタクトがある中で
相手と駆け引きをしていくことを伝えていきたい。



もちろん、インターセプトが守備の最優先であることは否定しないし、
そういったプレーは積極的に褒めたいと思う。



ただ、
「プレーが軽い・・・」
「優しい(緩い)プレーが多い・・・」
「球際がぬるい・・・」
といった評価を試合後にされることが多いチームの現状においては
球際の厳しさを強化することをまず考えていきたい。



そのために、しっかりとしたマークをすることや
予測を前提にいいアプローチをすることも大切だが、
大切なのは相手からボールを奪うことであって、
そのためには相手が上手くなればなるほど
フィジカルコンタクトという技術が絶対に必要になる、
ということを伝え続けたい。



また、フィジカルコンタクトだけでも
見ている人や応援してくれている人、
試合に出れない選手にも
何かが伝わる試合が
これから始まる新人戦(兼関東大会予選)においても
できればと思う。


2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ふつ)
2019-05-01 04:47:59
フィジカルが強いと日本代表もいいのにと思います。

マラドーナの晩年の試合映像ありました。随所に見どころがありますよ。
https://www.youtube.com/watch?v=sGoqdqhlq4k
ふつさん、コメントありがとうございます (新出康一)
2019-05-01 17:13:34
ふつさん、コメントありがとうございます。
映像、拝見させていただきました。
マラドーナというか、アルゼンチンサッカーのレベルの高さを改めて思い起こさせてくれたような気がしています。
フィジカルは武器であり、道具であるとも思いますが、その道具が強いにこしたことはありません。
ただ、その道具をどう使うか、という判断の部分において、南米のサッカーというか、アルゼンチンサッカーにおけるこだわり、特に1対1の部分におけるこだわりみたいなものを映像を通じて感じました。
バスケットなどでは、スクリーンアウトという部分が完全に技術として、存在していますが、サッカーにおいては、そのような認識になっていないように感じます。
フィジカルという武器を「どう使うか」その判断とセットになって初めて、アーリーヒットや球際の技術が「スキル」というレベルになっていくのだと思っています。
たしかに、ふつさんのおっしゃるように、日本サッカーも、フィジカルそれ自体も含めて、球際のスキルも、伸びしろが、まだまだたくさんありそうですね。
ブログを見ていただき、そしてコメントまでいただき、本当にありがとうございました。
失礼します。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。