百醜千拙草

何とかやっています

iPS、翼の下、河原の石

2012-10-09 | Weblog
IPSのノーベル賞、素晴らしいです。細胞分化の可塑性がほんの数個の遺伝子を操作するだけで得られることが示された驚異の2006年の論文は発表直後から直ちににステムセル研究者を中心に大きな研究手法の変化と新たな研究課題を提供することになりました。iPSの発見の意義そのものに加え、この技術が与えた非常に大きい生命科学研究への影響が受賞の決め手となったのだろうと思います。興味深いのは、山中さんは、このプロジェクトを始めるまで、ステムセル研究者というわけではなかったというこでしょう。多分、iPSのアイデアはステムセル研究者にとってはそれほどまでに常識はずれなアイデアであったのだろうと思います。そうでなければ、多くの天才ステムセル研究者がとっくの昔に発見していたでしょう。科学のブレークスルーというものはしばしばこのようにして生まれます。思えば、現在、生物学研究の主流となっている分子生物学の基礎を築いたのは生物学者ではなく、物理学者でした。専門家が最初から除外してしまうような「悪手」に賭けられるのが門外漢の強みでしょうか。いずれにしても、この発見が素晴らしいことは違いありません。論文から6年というのも(これはRNAiやPCRの時よりも早いのではないでしょうか)それだけ、この発見のインパクトは大きいということだと思います。

さて、私と言えば、冴えないですね。グラントの予備結果が出ましたが、期待していたよりも評価はよくありませんでした。ちょっとがっかりです。が、論文のリジェクト同様、あまり落込むことはなくなりなりました。とはいうもののこのグラントだけのために複雑なコンストラクトを組むのに半年以上かけていますし、マウスも手に入れ、共同研究者も二人引き入れています。ここであきらめるわけにはいきません。また来年再チャレンジです。それまでにデータをださないといけません。アイデアを出したぐらいで研究費を貰おうと思う方が甘いのです。しっかりしたデータを出して、税金を投じるに価するプロジェクトであることをアピールしないといけません。

Natureの記事、「Honour the helpful」は大変興味深いですね。表立って論文には出ないが、有用な助言をしてくれる同僚研究者の貢献度を調べています。そういう人がいなくなると、突然、研究の生産性が落ちるのだそうです。"Wind beneath my wing"という昔の曲を思い出しますね。「鷲よりも空高く飛べるのは、(翼の下で支えてくれる)風のようなあなたがいるから」いい曲ですね。数多くの歌手がカバーしていますが、Gladys Knight and Pipsのバージョンで私はこの曲を知ったので、ちょっとリンク。


最後に、どうでもいい話ですが、大阪維新の会が失速、週末は次のようなニュース

新党「日本維新の会」代表の橋下徹大阪市長は6日、大阪市内で開いた初の同党全体会議で、臨時国会での対応について、「パフォーマンスはしない。解散の『か』の字も言わない」と述べ、年内の衆院解散・総選挙を迫る自民、公明に同調しない考えを示した。
 維新の会は衆院選の準備が整っていないうえ、他の野党との差別化を図る狙いがあるとみられる。
 終了後の記者会見では、「我々の今の実力、政治的パワーを見れば、解散だとか不信任だとかいう話をする実力が伴っていない。政策を淡々と積み上げていきたい」と語った。


これを聞いて有権者はどう思いますかね。つまり、自分の党は「実力がなくて、選挙に勝てない」と言っているのです。そして「政策を淡々と積み上げていきたい」とは「は?」と思いますね。私の業界で言えば、「私の研究は、人に認めてもらえるようなレベルではなく、研究費を貰えるようなものではありません、でも、淡々と実験計画ねっています」と言っているのと同じようなものです。研究計画だけでは絵に描いた餅。人を説得できるだけの実力をつけ、実績を積んで、研究費を得、実験データを出して、論文書いて、そしてそれを出版できて、初めてナンボでしょう。「研究計画を淡々と練っている」だけの人に研究資金を回したり、研究者としてのポジションを与えようとする奇特な人はいません。ビジネスの世界だともっとシビアでしょう。そもそも選挙に勝って多数をとって与党にならずにどうやってその淡々と積み上げた政策を実現するつもりなのでしょう?要するに、政策はありますが、それが実現する可能性はありません、と自ら言っているわけでしょう。与党になる気がないのなら、政策など積み上げるだけムダでではないでしょうか。賽の河原の石ではあるまいし。
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