百醜千拙草

何とかやっています

進化するシークエンサー(3)

2009-02-24 | 研究
2月号のNature Biotechnologyと2月12日号のNatureで第三世代のDNAシークエンサー(一分子シークエンシンサー)の近況についてカバーされています。第二世代シークエンサー、454/Roche、Solexa/Illumina、ABI(SOLiD)の競争は、現時点ではSolexa/Illuminaが、どうもトップを走っているように思います。その主な理由は、これらの大量平行シークエンシングが、当初の目的であったゲノムの解読には、現在、余り使われていないというユーザー側の事情があると思われます。ゲノムの解読にはシークエンスデータを繋ぎ合わせるAssemblyが最も困難なステップとなります。これには、かなりの能力のコンピュータやその操作が必要で、誰にでもできるというものではないからです。現在の大量シークエンシングは主にDeep sequencingに使われていることが多いと思います。これまで、マイクロアレイなどで遺伝子発現解析などをやっていた人が、サンプル量が少なくて済み、アレイ実験に比べて「ぶれ」が低いシークエンシングに切り替えたという感じなのではないかと思います。そういう目的ではアセンブリは必要ありませんから、シークエンスのannotationとその発現頻度を計算さえできればよいので、大したコンピュータ操作は必要ありません。値段的にも、2つのサンプルを比べるのにマイクロアレイで、duplicateで4枚のDNAチップを使ってやるのと、各々1ランずつシークエンスするのと大差ありませんし。そうなってくると、1ランあたりのリード数が多い方法が有利なわけで、第二世代シークエンサー3者の中では、SolexaとABIが、1ランあたり、約20ギガベース読め、1ベースあたりのコストも同様で最も優れているようです。Solexaの方がABIよりも多少、リード長さが長く、ABIより先行して市場に出たので、Solexaが好まれているのではないかと思います。一方、大量平行シークエンシングの先駆けの454/Rocheでは、現行のマシンでリード長が500ベース近いという長所はあるにせよ、Solexaに比べて、リード数が一桁以上少ないという欠点があります。Deep sequencing目的には30ベースも読めれば十分なので、その目的ではリード長が長いことは、ほとんど長所にはならない一方で、リード数が少ないというのは大きな短所となっています。現在のシークエンサーの使用状況を考えると、これからの数年間はおそらく、Solexaの一人勝ちとなるのではないかと思われます。一方、以前にもお伝えした第三世代一分子シークエンシングを世界で初めて商業化したヘリコスですが(進化するシークエンサー)、苦戦しています。これまでの第二世代と比べて、性能的にそう優れているようには見えません。シークエンスのリード数はどうもSolexaの二倍ほどありそうで、コストも多少安いようですが、リード長は短く、意外な事にシークエンスエラーがかなり多いという欠点があるようです。しかも機械の値段はSolexaの二倍するということです。NatureのNewsでは、(これまでヘリコスマシーンは5-6台売れたらしいですが)そのうちの最初に買った施設が最近、返品したということを伝えています。一方、Nature Biotechnologyでは、第3世代の期待のシークエンサー、Pacific Bioscience社のテクノロジーについて、カバーしています。まだ市場には出ていませんが、前回、私が噂に聞いたときには、リード長1キロベース以上という話だったのですが、今回のこれらの記事では、どうも600 – 800ベースぐらいが実情のようです。DNAポリメラーゼで蛍光ラベルした核酸の取り込みをリアルタイムで測定して読むわけですが、普通のDNA合成反応よりもスピードは遅いようで、一秒あたり3-5塩基が読めるとのこと。しかし、それでも従来のシークエンサーとは比べものにならない早さですので、Pacific Bioscience社では、ゲノム塩基全てを3分でシークエンスできる(実際にはもちろん、無理ですが)と言っています。ただ、このテクノロジーでも、ヘリコス同様にどうもエラーが多いようで、これがネックとなりそうです。ただしPacific Bioscience側は、このテクノロジーで使用されるϕ29というDNAポリメラーゼは、塩基置換能が高いので、同一テンプレートを何度もシークエンスすることが可能で、それによって、最終的な正確さは99%以上に上がるとは言っています。  というわけで、余り意味のない予想ですが、今後5年の大量平行シークエンサーの市場予想は、1位がSolexa/Illumina (65%)、2位がABI(SOLiD) (15%)、3位が454/Roche (10%)、4位がPacific Bioscience (10% もし売り出されれば)という感じでしょうか。(数字は私の当てずっぽうです)ヘリコスは、現在のテクノロジーでは、生き残れないでしょうから、近々、3大メーカーに吸収されるのではと想像しています。この動向は、現在の大量シークエンスがDeep sequencingを目的とするのではなく、ゲノム配列解読が主目的となったときに変わるかも知れません。遺伝子発現解析などがマイクロアレイではなく、qPCRやシークエンシングによって行われることがそのうち主流になると予想されますから、どう転んでも、Solexaは生き残るでしょう。そう考えると、ちょっとゲノム解読にもDeep sequencingにも中途半端に見える454/Rocheが、間もなく市場に現れるPacific Bioscience社のシークエンサーとどれだけ渡り合えるかが、その生き残りにおいて重要であろうと思われます。今回のレポートを読む限りでは、Pacific Biosciece社のテクノロジーも期待したほど、劇的に優れているという感じはありません。454と比べると、スピードでは優るでしょうが、このレベルであればスピードの持つメリットは限られているように思いますので、もし454が正確性とリード数とコストで優るなら、人は454を選ぶのではないかと思います。しかし、技術は日進月歩なので、ひょっとしたら、もっとすごいシークエンサーが彗星のように現れて、独走するようになるかも知れません。いずれにせよ、消費者にとって、これらの技術の進歩は喜ばしいことです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 卵の側に立つ | トップ | 冗談返し »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

研究」カテゴリの最新記事