百醜千拙草

何とかやっています

雑誌の選択

2021-10-12 | Weblog
ようやく二年越しの小さな論文を投稿できてホッとしました。アイデアはまずまずと思うのですけど、結果がパッとしない、最近、繰り返されるパターンで、とにかく出版することを優先し、このマイナー雑誌に初めて投稿しました。あるグループの「分子」の機能をある「組織」で調べる、という形の論文ですけど、その分子の研究をやっている人々と、その組織の研究をしている人々のオーバーラップが余りないのです。その「組織」の専門誌に行くと結果がパッとしないのが致命症なのが目に見えているので、やむを得ず、今回はその「分子」の専門誌にしました。この雑誌はロングアイランドのコールドスプリングハーバー研究所の出版部が出しているマイナー雑誌の一つで、投稿と同時に同出版部が運営するpre-printに発表するオプションがあります。これは便利なシステムだと思います。

次の論文ネタも同じような感じです。ある細胞内小器官のタンパク輸送を司る分子の異常でヒトの病気が起こるということをマウスモデルで証明したという報告になる予定ですけど、ヒト遺伝学の雑誌に行くには、症例数が足りず、生物学系に行くには知見のインパクトが低いということで、遺伝学雑誌に行っても、医学系雑誌にいっても、生物学系雑誌にいっても、いずれもちょっとずつ足りないという状況です。また、この遺伝子に関するこれまで出版されている論文すべてを検索しても100本もないマイナー遺伝子で、その点でもインパクトがいまひとつ。困って、身近にいるヒト遺伝学をやっている人に相談した結果、この遺伝子異常でおこる病気は過去に報告がないこともあり、とりあえずヒト遺伝学専門雑誌の最高峰をトライしようという話になりました。ちょっと難しいだろうとは思いますけど。しかし、ヒトの遺伝学専門雑誌というのはこの雑誌と二番手との間のギャップが大きいのです。だいたいどこの分野もそうなっていくようで、各分野でトップのジャーナルと二番手以降の間のギャップは開いていく一方に思えます。
 
逆にかつてはパッとしない雑誌だったのが、いつの間にか順位を上げていて驚く例も稀にあります。例えばNARという分子生物学雑誌ですけど、私が学生だった当時は分子生物学雑誌はMBC, MCB, Mol Cell, G&D, EMBOというあたりがトップ ジャーナルで、NARはセカンド ティアでさえなかったような感じでしたが、いまや"Cell"ブランドのMol Cellに次ぐインパクトファクターで、MCBやMBCはおろか、G&DやEMBOも抜いてしまいました。とくにブランド力があるというわけでもないし、不可解です。

インパクトファクターは組織的な相互引用や総説論文を増やすなどで操作が可能なので、必ずしも掲載論文の質を反映するものではないですけど、多くの人がインパクトファクターの高い雑誌に論文を載せたがりますから、ふつうはインパクトファクターと掲載論文の質は相関します。

昔、普段のインパクトファクターが1前後のとあるマイナー雑誌がある年だけ50近いインパクトファクターを記録したことがありました。調べてみると、その雑誌の原著論文のほとんどの引用回数は一桁前半未満なのに、一本だけ極端に多い引用回数を稼いだ論文があって、その一つの論文がその雑誌のインパクトファクターを最高位に押し上げたのでした。

私のやっているようなマイナーな研究分野のマイナーなネタではどうやってもインパクトは低いです。それでも折角の研究をそれなりの形にはしてやりたいという気持ちはあります。インパクトファクターの高い雑誌に掲載されれば、論文は読んでくれる人も多くなるわけですし。

ただの自己満足に過ぎないと言われればその通りですけど、しかし、研究においては、自己満足以上に重要なものはないと私は思っております。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Senior moment | トップ | 限りある楽しみ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事