私が晴れて広島市民になったのは昭和62(1987)年4月初頭のことである。大学生の身分となり県東部の田舎町から脱出して政令指定都市で暮らす喜びは非常に大きかった。
昭和末期の広島駅はやぼったい外観で南口を出ると「小汚い陸橋」があり、その右手近くでレトロな「広島百貨店」が細々と営業していた。陸橋はそれから数年して撤去され見通しが良くなったが、駅前は決して繁華街と言えるものでは無かった。
大学入学から既に22年の月日が流れ、「広島百貨店」跡地に巨大な「福屋」が出来て「地下道」も整備され、徐々に「駅前再開発」は進んでいる。それでも「愛友市場」周辺だけは「昭和の雰囲気」をそのまま残しているのだ。
敗戦後の闇市の流れを汲み、狭い敷地には惣菜を売る店、鮮魚店、精肉店、韓国食材を扱う店などがひしめき合い、見る者を飽きさせない。
南区南蟹屋町の新球場(マツダスタジアム)へ向かう道に市場は隣接しているので、観戦客向けに「おつまみ」を売る店が増えた。
市場の入口が「I you ロード」になっているのに気づいた私は久しぶりに中に入ってみることにした。
