一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『愛なのに』 …河合優実、さとうほなみ、向里祐香が魅力的な傑作ラブコメ…

2022年03月13日 | 映画


『サマーフィルムにのって』(2021年8月6日公開)
で、河合優実に出逢い、


『由宇子の天秤』(2021年9月17日公開)
で、河合優実の演技に驚嘆し、


『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開)
で、河合優実の美しさに痺れた。


上記3作で、すっかり河合優実のファンになってしまった私は、


新作『愛なのに』(2022年2月25日公開)を楽しみにしていた。
なので、
『愛なのに』は、河合優実が出演しているというだけで鑑賞を決めた作品であった。


調べてみると、『愛なのに』は、
脚本は、『愛がなんだ』『街の上で』の今泉力哉で、


監督は、『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫。


城定秀夫と今泉力哉が、互いに脚本を提供しあった、
R15+指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」の1本目。
ちなみに、2本目は、『猫は逃げた』(2022年3月18日公開)で、
こちらは、立場が逆転して、脚本が城定秀夫で、監督が今泉力哉。


河合優実が出演している『愛なのに』の方は、
主演は瀬戸康史で、
共演者は、河合優実の他、
さとうほなみ、中島歩、向里祐香、丈太郎、毎熊克哉など。
2月25日に公開された作品であるが、
佐賀ではシアターシエマで、1週間遅れの3月4日から公開された。
で、先日、やっと見ることができたのだった。



古本屋の店主・多田(瀬戸康史)は、
店に通う女子高生・岬(河合優実)から求婚されるが、


多田には一花(さとうほなみ)という忘れられない存在の女性がいた。


一方、結婚式の準備に追われる一花は、
婚約相手の亮介(中島歩)と、


ウェディングプランナーの美樹(向里祐香)が、
男女の関係になっていることを知らずにいた……




基本、ラブコメなのだが、
(河合優実が絡んだ)“純愛”あり、
(R15+指定らしく)“エロス”ありで、
映画の楽しみがすべて詰まった傑作であった。


主人公の多田が、古本屋の店主というのが、
まさに今泉力哉ワールドであるのだが、
今泉力哉監督作品特有のホンワカとした映画にはなっておらず、
メリハリの利いた城定秀夫監督作品となっていた。
題材は、『愛がなんだ』『mellow メロウ』などにも通ずる、
片思いが連鎖していく恋模様であり、まさに今泉力哉ワールドなのだが、
演出の方は城定秀夫監督らしさがにじみ出ており、
実に面白く、楽しい107分であった。


購入したパンフレット(1200円)の中に、
城定秀夫監督と今泉力哉監督のトークが収められており、
その中で、今泉力哉監督が、

一番怖かったのは、できあがった映画を見たときに、お互いが「これなら(脚本を提供し合うのではなく)自分が撮ったほうが面白くなったな」って思っちゃうっていうのが一番地獄だと思ってて。「猫は逃げた」を城定さんがどう思っているかわかんないですけど、『愛なのに』は自分には撮れないし本当に面白かったので…ご一緒できて嬉しかったし、自分の長編脚本を他人が撮った事がないので、そこも初めての経験ですごく面白かったです。

と語っていたが、
私もすごく良い企画だと思ったし、
『愛なのに』は成功事例として語り継がれる作品になっていたように思う。
(ということは、『猫は逃げた』の方も必ず見ないとね)



本作を見るキッカケは「河合優実の出演作」ということだったので、
まずは、女子高生・岬を演じた河合優実について。


【河合優実】
2000年12月19日生まれ、21歳。(2022年3月現在)
女優デビューは2019年2月。18歳のとき。
短編映画『よどみなく、やまない』で主演デビューを飾り、
舞台「some day」では、初舞台にしてヒロインに抜擢される。
2020年には、
松尾スズキ作・演出の舞台「フリムンシスターズ」でミュージカルにも初挑戦し、
持ち前の歌唱力とダンスを生かして堂々たる演技を披露した。
映画では、
『喜劇 愛妻物語』(2020年9月11日公開)
『アンダードッグ』(2020年11月27日公開)
『佐々木、イン、マイマイン』(2020年11月27日公開)
『サマーフィルムにのって』(2021年8月6日公開)
『由宇子の天秤』(2021年9月17日公開)
『偽りのないhappy end』(2021年12月17日公開)
『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開)
など、数々の映画作品でバイプレーヤーとして存在感を発揮しながら、
多くの観客の記憶に焼き付く印象的な演技を見せている。


『恋は雨上がりのように』の小松菜奈のように、
本作『愛なのに』でも、河合優実の疾走シーンから始まる。


古本屋から万引きして逃げる疾走シーンではあるのだが、
この走る姿が(小松菜奈と同様に)カッコイイ。
意外に背も高く(166cm)、(ちなみに小松菜奈は168cm)
足もすらりと長い。
この万引きは、悪意の万引きではなく、
古本屋の店主・多田(瀬戸康史)の気を引くためのものであり、
捕まるための万引きであるのだが、
息を切らして止まってしまった多田を、
立ち止まって待っている岬が可愛い。
おまけに、自販機から水を買って、多田に差し出すのだが、
「ありがとう」
と言って、多田が受け取るのも可笑しい。
この水を買ってやるシーンは、
今泉力哉の脚本にはなかったそうで、
城定秀夫監督が付け加えたアクションであるらしい。
会話劇が多い今泉力哉作品にはない城定秀夫監督らしい演出で、
河合優実の魅力が一段と引きだされ、
河合優実ファンの私としては、もうこのファーストシーンで心を鷲掴みにされた。
その後も、河合優実の魅力満載で、
河合優実を見ているだけで、私は幸せであった。(コラコラ)


河合優実の今後の出演作としては、
『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日予定、城定秀夫監督)


『PLAN75』(2022年6月公開予定、早川千絵監督)


『ある男』(2022年秋公開予定、石川慶監督)
が控えているが、
佐賀で見ることができる(上映館がある)ことを願いつつ、期待して待ちたいと思う。



多田の忘れられない存在の女性・一花を演じた、さとうほなみ。


【さとうほなみ】
1989年8月22日生まれ、32歳。(2022年3月現在)
「ほな・いこか」という芸名で活躍している「ゲスの極み乙女。」のドラマー。


2017年より女優活動をスタート。
女優としての活動名義は「さとうほなみ」で、「佐藤穂奈美」名義での活動もある。
映画の出演作は、
『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)
『彼女』(2021年)(水原希子とのダブル主演)
などがあり、
今年(2022年)は、『愛なのに』の他、
『恋い焦れ歌え』(5月27日公開予定)も控えている。


「ゲスの極み乙女。」のドラマーとして知られてはいるが、
正直、女優としてここまで本気で活動するとは思っていなかった。
本作『愛なのに』では、エロスの部分を担っており、
惜しげもなく裸体を晒している。
幸か不幸か、(笑)
城定秀夫監督は過去に多くのピンク映画を撮った経験があり、
多田(瀬戸康史)との濡れ場は、いろんな意味で「さすが」の一言。


彼女は時々、柴咲コウに似ている瞬間があり、こちらもいろんな意味でドキッとさせられた。
映画での出演作はまだ少ないが、
限りない可能性を秘めた女優であることを感じさせられた本作であった。



ウェディングプランナーの美樹を演じた向里祐香。


【向里祐香】
1990年9月24日生まれ、31歳。(2022年3月現在)
『ストロボ・エッジ』(2015年)
『花束 feat. LITHIUM FEMME』(2015年)
『恋妻家宮本』(2017年)
『トイレのはなこさん』(2020年)
『原発をみにいくよ』(2020年)
『そして、バトンは渡された』(2021年)
などの映画出演の他、
PARM、アサヒビール、ちふれ、資生堂、カネボウなどのCMでも活躍。
江戸時代の日本を描くハリウッドドラマ「SHOGUN(原題)」の出演も決定している。

私の鑑賞していない映画が多いこともあって、
(恥ずかしながら)本作『愛なのに』を見るまで向里祐香という女優は知らなかった。
本作では、
一花(さとうほなみ)と亮介(中島歩)の結婚式のウェディングプランナーであるのだが、
亮介と男女の関係になっており、
亮介と関係を続けながら一花の相談にも乗るという、複雑な役どころ。
こう書くと、なんだかドロドロした愛憎劇を想像されると思うが、
本作はそうなっていないから面白い。
むしろ、笑いの方が多いのだ。
特に、美樹と亮介の会話は爆笑ものだ。
「亮介さん、○○ですよね」
「えっ、俺って○○なの?」
が、延々と繰り返され、
会話劇の名手・今泉力哉の面目躍如のシーンであるのだが、
〈もしかしてアドリブ?〉
と思わされるほどに面白い。
私は(極私的に)日本映画史に残る名シーンだと思ったし、
向里祐香も演技が上手い(巧い)女優として(私の中で)認知された。



一花の婚約相手の亮介を演じた中島歩。


濱口竜介監督作品『偶然と想像』(2021年)でもクズ男を演じていたが、
クズ男を演じさせたら右に出る者はいない……ってほどの男優。(コラコラ)
『偶然と想像』での古川琴音との会話劇も面白かったが、
本作『愛なのに』での、美樹(向里祐香)や一花(さとうほなみ)との会話は、
それに輪をかけて面白い。
どこがどう面白いかは、実際に映画を見てもらうしかないが、
明治時代の小説家・国木田独歩の玄孫にあたり、
両親が付けた名前の「歩」は独歩に由来するとのことで、
端正な顔立ちの彼から放たれる可笑しみは、比類がなく、
中島歩という俳優が今後、飛躍的に活躍の場を広げるだろうことは想像できた。



古本屋の店主・多田を演じた瀬戸康史。


主演の瀬戸康史を最後に論じるのは「ど~よ」って思われるかもしれないが、
女優偏重主義の私なので、お許し願いたい。
今泉力哉が脚本を担当した城定秀夫監督作品に、
『劇場版 ルパンの娘』(2021年)
『コンフィデンスマンJP -英雄編-』(2022年)
などに出演している超メジャーな瀬戸康史が主演する意外性があったのだが、
市井の地味な人間に成りきっていて、素晴らしかった。


岬(河合優実)や、一花(さとうほなみ)との絡みも自然で、
「さすが」と思わされた。
ただ、濃厚なベッドシーンは初体験だったらしく、
ピンク映画出身の城定秀夫監督が、自ら裸になって助監督と模範演技をしてくれ、(爆)
事なきを得たとのこと。
マイナー気味な感じの映画『愛なのに』が、
田舎でも鑑賞できるのは瀬戸康史が主演しているからであろうし、
瀬戸康史が果たした役割は、殊の外大きかったと思われる。



河合優実を目的に見に行った映画であったが、
河合優実をたっぷり見ることができた満足感もさることながら、
素晴らしい女優(さとうほなみ、向里祐香)との新たな出逢いもあり、
会話劇に大いに笑わされ、楽しめた一作であった。
この数年に見た映画では抜群に面白い映画であったし、
(極私的に)最も好きな作品であった。
何度でも見たいと思ったし、
Blu-rayディスクが発売されたら必ず買おうと思った。(特典映像が楽しみ)


※河合優実関連・ブログ「一日の王」掲載記事
映画『サマーフィルムにのって』……本作の欠点を葬り去るほどの伊藤万理華の魅力……
映画『由宇子の天秤』 ……代表作を次々と更新していく瀧内公美の新たな代表作……
第8回「一日の王」映画賞・日本映画(2021年公開作品)ベストテン(新人賞選出)
映画『ちょっと思い出しただけ』 ……路地裏に咲く名も知らぬ花のような恋……
映画『愛なのに』 ……河合優実、さとうほなみ、向里祐香が魅力的な傑作ラブコメ……
映画『女子高生に殺されたい』 ……河合優実の凄みを感じた城定秀夫監督の傑作……
映画『PLAN 75』 ……河合優実を見に行ったら、とんでもない傑作に出逢った……
NHK土曜ドラマ「17才の帝国」 ……河合優実、山田杏奈と、ロケ地の佐世保……
最近、驚いたこと⑭ ……山下達郎「LOVE'S ON FIRE」のMVに河合優実が……
映画『冬薔薇』 ……河合優実、和田光沙、余貴美子に逢いたくて……
最近、驚いたこと⑮ ……私の好きな女優・河合優実の映画初主演作が公開決定……
映画『百花』……菅田将暉と原田美枝子の演技が素晴らしい川村元気監督の秀作……
映画『線は、僕を描く』 ……清原果耶、河合優実、富田靖子に逢いたくて……
映画『ある男』……脚本(向井康介)と映像(近藤龍人)が秀逸な石川慶監督の傑作……
人生の一日(2023年1月13日)「批判する頭のよさより……」
第9回「一日の王」映画賞・日本映画(2022年公開作品)ベストテン(最優秀助演女優賞)
映画『少女は卒業しない』 ……河合優実の初主演作にして青春恋愛映画の傑作……
映画『ひとりぼっちじゃない』 ……河合優実の出演作だから見たのであるが……
最近、驚いたこと⑳ ……河合優実を知らな過ぎるにもほどがある!……
(タイトルをクリックするとレビューが読めます)

この記事についてブログを書く
« 天山 ……ホソバナコバイモや... | トップ | 鬼ノ鼻山 ……裏山散歩で、咲... »