一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

第8回「一日の王」映画賞・日本映画(2021年公開作品)ベストテン

2022年01月10日 | 「一日の王」映画賞


2015年(2014年公開作品を対象)に創設した「一日の王」映画賞も、
今回で第8回となった。
ブログ「一日の王」管理人・タクが、
たった一人で選出する日本でいちばん小さな映画賞で、
何のしがらみもなく極私的に選び、
勝手に表彰する。

作品賞は、1位から10位まで、ベストテンとして10作を選出。
監督賞、主演女優賞、主演男優賞、助演女優賞、助演男優賞は、
5名(~10名)ずつを選出し、
最優秀を、各部門1名ずつを決める。(赤字が最優秀)
この他、
新人賞(1名)と、外国映画の作品賞(1作)を選出する。

普段、レビューを書くときには点数はつけないし、
あまり映画や俳優に順位はつけたくはないのだが、
まあ、一年に一度のお祭りということで、
気軽に楽しんでもらえたら嬉しい。



【作品賞】
『ドライブ・マイ・カー』


②『すばらしき世界』


③『茜色に焼かれる』


④『偶然と想像』


⑤『ヤクザと家族 The Family』


⑥『由宇子の天秤』


⑦『猿楽町で会いましょう』


⑧『街の上で』


⑨『あのこは貴族』


⑩『まともじゃないのは君も一緒』


昨年(2021年)9月に『ドライブ・マイ・カー』(佐賀では8月27日公開)を見るまでは、
西川美和監督作品『すばらしき世界』が暫定1位であったが、
『ドライブ・マイ・カー』を見た後は、こちらが第1位となった。
それほど心動かされた作品であった。
……終わらないで欲しいと願った179分の傑作……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのだが、
その一部を引用してみる。

映画の楽しみがすべて詰まった傑作であった。
上映時間が5時間17分もあった『ハッピーアワー』ほどではないが、
本作の上映時間も約3時間(正確には179分)あり、
老人にはトイレの心配や寝落ちの危険性があったのだが、(笑)
時間を忘れるほど集中して見ることができたし、
〈終わらないで欲しい……〉
と願うほど幸福感に包まれた3時間であった。
『寝ても覚めても』のときは商業映画デビュー作ということで、
濱口竜介監督らしさが少し薄まっているようにも感じたが、
『ドライブ・マイ・カー』は、『ハッピーアワー』の良さを色濃く残しつつ、
濱口竜介監督作品として進化させていて秀逸であった。
「見事!」の一言。


三浦透子、霧島れいか、パク・ユリムなど、女優陣の好演もあって、
『ドライブ・マイ・カー』は私にとって忘れられない作品になっている。
極論すれば、2021年は『ドライブ・マイ・カー』に出逢った年と言えるかもしれない。
それほどの歓びを私に与えてくれたのだ。


上記ベスト10以外にも、
『花束みたいな恋をした』
『裏アカ』
『空白』
『浜の朝日の嘘つきどもと』
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
『護られなかった者たちへ』
『ひらいて』
『かそけきサンカヨウ』
『草の響き』
なども強く印象に残っており、
傑作、秀作の多い一年であったと思う。



【監督賞】
濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』
西川美和『すばらしき世界』
石井裕也『茜色に焼かれる』
藤井道人『ヤクザと家族 The Family』
春本雄二郎『由宇子の天秤』
今泉力哉『街の上で』『あの頃。』『かそけきサンカヨウ』
吉田恵輔『空白』

『ドライブ・マイ・カー』一作でも濱口竜介の【監督賞】受賞は揺るがなかったと思うが、
12月に公開された『偶然と想像』によってダメ押しされた感じがした。
濱口竜介監督作品は、文学で言うと、
純文学的でありながら大衆性をも兼ね備えた村上春樹作品のようでもある。
濱口竜介監督が今後どのような映画を撮るのか楽しみでならない。




【主演女優賞】
尾野真千子『茜色に焼かれる』
瀧内公美『由宇子の天秤』『裏アカ』
有村架純『花束みたいな恋をした』
門脇麦『あのこは貴族』
小松菜奈『恋する寄生虫』『ムーンライト・シャドウ』
石井杏奈『砕け散るところを見せてあげる』
清原果耶『まともじゃないのは君も一緒』

『茜色に焼かれる』の尾野真千子と、
『由宇子の天秤』『裏アカ』の瀧内公美との、
一騎打ちであったが、
最終的に尾野真千子を選んだ。


『彼女の人生は間違いじゃない』(2017年)
『火口のふたり』(2019年)
『由宇子の天秤』(2021年)
と、代表作を次々に更新し続けている女優・瀧内公美も凄いが、
今回の主演としての比重が、
(『由宇子の天秤』『裏アカ』の)瀧内公美よりも、
(『茜色に焼かれる』の)尾野真千子の方が重い気がしたし、
『茜色に焼かれる』という尾野真千子の新たな代表作は、
今後、しばらくは更新されないであろうという凄みを感じた。
尾野真千子を最優秀主演女優賞に選んだ所以である。




【主演男優賞】
役所広司『すばらしき世界』
綾野剛『ヤクザと家族 The Family』
東出昌大『草の響き』
古田新太『空白』
西島秀俊『ドライブ・マイ・カー』
成田凌『まともじゃないのは君も一緒』
佐藤健『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』『護られなかった者たちへ』


役所広司は、1956年1月1日生まれの66歳。(2022年1月現在)
学年でいえば私より一つ下なので、
役所広司という男優は若い頃から見ているが、
デビューして40数年経った今も、俳優として進化し続けている。
大御所的存在となると、大仰な、いかにもな演技に陥りがちなものだが、
役所広司の演技はいつも新鮮であるし、そこに驚きがある。

役所さんって、言葉では言い表せない部分への解釈が深いんですよね。クランクイン前に言い回しみたいなことはすり合わせましたが、現場では、それ以外に補足することがなにもない。キャメラから表情が見えづらいからちょっと向き変えて下さいとか、そのくらい。よくありがちな「本番では段取りと違うことして驚かそう」みたいなこともされない、駆け引きなしに私達が求めていたところに連れて行ってくれる。あとはそれを撮るだけ。初めてご一緒した若いスタッフたちもすごく喜んでいましたね。「これがお芝居を撮るってことなんだなって思いました」って。私もいい思いをさせていただきました。どの場面もどの場面も「さすが……!」というシーンの繰り返しで……(「ミモレ」インタビューより)

『すばらしき世界』の西川美和監督はこう語っていたが、


私も映画を鑑賞中、役所広司の演技を見ながら、
〈さすが!〉
と、心の中で何度も叫んでいたものだ。




【助演女優賞】
片山友希『茜色に焼かれる』
パク・ユリム『ドライブ・マイ・カー』

倍賞美津子『護られなかった者たちへ』
三浦透子『ドライブ・マイ・カー』
芋生悠『ひらいて』
河合優実『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』
奈緒『草の響き』『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
大久保佳代子『浜の朝日と嘘つきどもと』
平手友梨奈『さんかく窓の外側は夜』『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』
清原果耶『護られなかった者たちへ』『夏への扉 キミのいる未来へ』『砕け散るところを見せてあげる』『花束みたいな恋をした』

「鑑賞する映画は出演している女優で決める主義」の私としては、
主演女優はもちろんのこと、共演女優の方にも興味をそそられる。
出演シーンは少なくても、鮮烈な印象を残す女優も多く、
候補者は20数人に及んだ。
それを、無理矢理絞って、上記の10人を選出した。
ここから一人を選ぶとなると、困難を極めた。
どうしても一人に絞ることができず、
最終的に、
『茜色に焼かれる』の片山友希と、


『ドライブ・マイ・カー』のパク・ユリムの2名を、


最優秀助演女優賞に選出した。
片山友希とパク・ユリムの演技には深く感動させられたし、
他の女優の演技にも感動させられたが、
私が受けた感動の深さにおいて、
片山友希とパク・ユリムの2名がより勝っていたように感じた。






【助演男優賞】
北村有起哉『ヤクザと家族 The Family』『すばらしき世界』
仲野太賀『すばらしき世界』『あの頃。』
永瀬正敏『茜色に焼かれる』
光石研『浜の朝日の嘘つきどもと』『由宇子の天秤』
鈴木亮平『孤狼の血 LEVEL2』『土竜の唄 FINAL』

昨年(2021年)の始め、
『ヤクザと家族 The Family』(2021年1月29日、藤井道人監督)
『すばらしき世界』(2021年2月11日、西川美和監督)
の2作を立て続けに見て、
北村有起哉が最優秀助演男優賞の候補筆頭になったと思った。
『すばらしき世界』のレビューで、私は次のように記している。

福祉事務所のケースワーカー・井口を演じた北村有起哉。
一癖も二癖もある人間を演じさせたらこの人の右に出る人はいないくらいの演技派である。
『ヤクザと家族 The Family』では、ヤクザの若頭・中村を演じていた北村有起哉であるが、



本作『すばらしき世界』では、弾かれる側ではなく、“社会”側の人間として登場する。


前作とは真逆とも言える役柄であったが、
一度道を外してしまった男を受け入れない“社会”において、
そうした“社会”に属しながらも、はみ出てしまった男を受け入れようとするケースワーカーを、わざとらしさのない自然体で演じていて感心させられた。
北村有起哉を見て、今では、
北村の父であり、文学座の看板俳優であった故北村和夫(1927年~2007年)を思い起こす人は少なくなったと思うが、年齢と共に、段々と父・北村和夫に似てきたし、



北村和夫と同様に、どのような役でも、北村有起哉が出演していたら、「見る価値あり」と思わせる俳優になってきたように思う。


このときの印象が、一年経っても薄まることがなかった。
北村有起哉さん、おめでとう。



【新人賞】
伊藤万理華『サマーフィルムにのって』
河合優実『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』

『サマーフィルムにのって』を見て、
〈新人賞は伊藤万理華しかいない!〉
と思ったのだが、


後に『由宇子の天秤』を見て、
〈河合優実も凄い!〉
と思った。


甲乙つけがたく、両名受賞となった。
『サマーフィルムにのって』は(私にとっては)瑕疵の多い作品であったが、
伊藤万理華が主演し、河合優実が共演しているというそのことにおいて、
数十年後に伝説の映画になっているかもしれないと思った。




【作品賞・海外】
『わたしの叔父さん』


2021年は、
『ノマドランド』や『アンモナイトの目覚め』や『少年の君』など、
世間の評判の高い作品もあったが、
私は、昨年見た中で、最も地味な『わたしの叔父さん』を選出した。

ピーダセン監督は、小津安二郎に影響を受けており、


小津は本当にたくさんの監督に大きな影響を与えた人です。ギャグもそうですが、私はストーリーを語るスタイルに、ものすごく影響を受けています。マスターショットの使い方ひとつを取ってもそうで、ワイドで撮って、映るすべてのものを使って表現するのが本来あるべき映画であることを、小津作品から学びました。
ちなみにローアングルのショットを、デンマークでは「オヅ・ショット」と言うのですよ(笑)。『東京物語』とか、家族の感情の移り変わりを描いている面でも、非常に影響を受けています。
(「東京国際映画祭」公式インタビューより)

と語っていたが、
主人公のクリスと叔父さんの関係は、
『東京物語』の周吉(笠智衆)と紀子(原節子)の関係性にも似て、
鑑賞者の胸にグッと迫り、人生経験を経た人ほど感動させられる。
舞台となっているデンマーク・ユトランド地方の素朴な美しい風景も素晴らしく、
私にとって、いつまでも心に残る作品となった。
愛おしくて抱きしめたくなる傑作であった。




新型コロナウイルスの第3波が来襲していた一昨年(2020年)末、
私はひとつの決断をした。
「来年(2021年)一年間は県外には出ない」と。
新型コロナウイルスとの闘いは長期戦になることが予想されたので、
第4波、第5波、第6波と、
感染者の数は、増えたり減ったりを繰り返しながら推移するだろうが、
それらに一喜一憂することなく、
(他人はどうであれ)自分のやれることをやり、成すべきことを成そう……
と思ったのだ。
もし、私が天涯孤独の身であれば、そんな風には思わなかっただろうし、
新型コロナウイルス自体にも無関心であったかもしれない。
「県外には出ない」
と決意したのには、子供たちや孫たちの存在が大きかった。
私が感染することで、子供たちや孫たちにも感染させてしまう恐れがあったからだ。
特に私の二女は3人目の子供を妊娠していたこともあり、(2021年5月に無事出産した)
大切な人たちを護りたいという一心で、私は「県外へは出ない」という決断をした。
なので、2021年は、私は佐賀県内でのみ行動していたし、
佐賀県内の映画館で上映された映画しか見ていない。
当然のことながら、佐賀県で上映されない作品も多く、
特に今回の第8回「一日の王」映画賞は、佐賀県で見た映画のみに限定されている。
まあ、(極私的な)小さな映画賞であるので、
その辺は理解して頂ける事であろう。
一昨年(2020年)に続いて昨年(2021年)も新型コロナウイルスに苦しめられ、
公開延期になった作品も多かったが、
終わってみると、2021年も傑作、秀作の多い充実した一年であった。
すべての映画関係者に感謝したい。

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