我が家には大き目のレーザープリンターがある。旧ブログで購入したことをネタにもした(http://blog.goo.ne.jp/takerun85/e/8e42fb98bf2b377d1ee4aa40abc1f8cb)。
あだ名は『先生』。なぜ先生なのかというと、まずなんといっても印刷のスピードが速い。そして仕事は確実、こちらが宛名書きソフトで誤入力しないかぎり、間違えるということはない。こんなに便利なプリンターがあるのだから、もう手書きには戻れないだろう。まあ、あと一つ『先生』と呼ばれる理由はあるのだが……。
毎年、年賀状を書く季節になると私は『先生』のご機嫌伺いをはじめる。『先生』の電源を入れ、USBケーブルでパソコンにつないでみる。『先生』が起動を始めた。今年も無事にパソコンにつながったようで一安心。
「先生、今年も宜しくお願いいたします」
私は手揉みをしながら愛想笑いを浮かべてみせた。ここで私はしまったと焦る。軽薄な愛想笑いと態度で『先生』の御不興を買ってしまったのではないか、と不安になったからだ。しかし『先生』は何も仰らない。プロは寡黙というのは『ゴルゴ13』を読んでいるので理解している。どうやら『先生』はお怒りではないようだ。
「今年も家族分合わせて130枚ほどお願いしたいのですが。いえ、もちろん宛名などはこちらで済ませていますので、あとは先生の……玉稿を頂くだけで!」
「玉稿」のところに力を籠める。『先生』の自尊心をくすぐりながら、気持ちよく仕事をして頂くのも私の務めなのだ。そしてパソコンの宛名ソフトの印刷ボタンをクリックする。『先生』が執筆に入られた。お邪魔をしてはいけない。すぐに一枚目の年賀状が排出トレイに吐き出された。見事に宛名が印刷をされている。
「いつもながら先生の字は……私、あまりの美しさに涙が出そうに……」
会話の間に感嘆の「……」を含めながら、感動を『先生』に伝える私。しかし『先生』は私の言葉を意に介することなく、執筆をつづけていく。10枚から15枚ほど印刷されるたびに私は『先生』の作品を賞賛していく。印刷中はやることがなく、暇だからだ。
だが、ここで『先生』が『先生』と呼ばれるもう一つの理由が現れる。まだ仕事を終えていないのに、突然『先生』の筆が止まったのだ。私は慌てて『先生』からのメッセージを読む。「トナー ガ キレテイマス コウカンシテクダサイ シアン(C)」という内容だった。
「モノクロ印刷と思っていたのに、先生はシアン(青系のインク)もお使いになられていたのですか!」
私は思わず、驚きと敬服の混ざった声をあげてしまった。さすがは『先生』だ。綺麗な印字を出すために、黒のみならず青色も混ぜ込んでいたなんて。『先生』が口を開くことができたら「これだから素人は困るよ、キミィ」と私をお叱りになったことだろう。現在、22時。すでにトナーを購入できる店は閉まっている。
「どうでしょうか。今年は黒のみで印字をなさるというのは……先生の美麗な書体ならシアンがなくても」
そんな私の提案に耳も貸さず『先生』はメッセージを出し続ける。たとえ夜遅くだろうが真夜中だろうが、『先生』は絶対に妥協を許さない。この徹底したプロフェッショナルさと、わがままぶりがまるで巨匠のようなので、我が家ではこのプリンターを『先生』と呼んでいるのである。仕方がないのですぐにヨドバシの深夜受け取りでトナーを購入し、『先生』に気持ちよく仕事をしてもらった私なのである。
あだ名は『先生』。なぜ先生なのかというと、まずなんといっても印刷のスピードが速い。そして仕事は確実、こちらが宛名書きソフトで誤入力しないかぎり、間違えるということはない。こんなに便利なプリンターがあるのだから、もう手書きには戻れないだろう。まあ、あと一つ『先生』と呼ばれる理由はあるのだが……。
毎年、年賀状を書く季節になると私は『先生』のご機嫌伺いをはじめる。『先生』の電源を入れ、USBケーブルでパソコンにつないでみる。『先生』が起動を始めた。今年も無事にパソコンにつながったようで一安心。
「先生、今年も宜しくお願いいたします」
私は手揉みをしながら愛想笑いを浮かべてみせた。ここで私はしまったと焦る。軽薄な愛想笑いと態度で『先生』の御不興を買ってしまったのではないか、と不安になったからだ。しかし『先生』は何も仰らない。プロは寡黙というのは『ゴルゴ13』を読んでいるので理解している。どうやら『先生』はお怒りではないようだ。
「今年も家族分合わせて130枚ほどお願いしたいのですが。いえ、もちろん宛名などはこちらで済ませていますので、あとは先生の……玉稿を頂くだけで!」
「玉稿」のところに力を籠める。『先生』の自尊心をくすぐりながら、気持ちよく仕事をして頂くのも私の務めなのだ。そしてパソコンの宛名ソフトの印刷ボタンをクリックする。『先生』が執筆に入られた。お邪魔をしてはいけない。すぐに一枚目の年賀状が排出トレイに吐き出された。見事に宛名が印刷をされている。
「いつもながら先生の字は……私、あまりの美しさに涙が出そうに……」
会話の間に感嘆の「……」を含めながら、感動を『先生』に伝える私。しかし『先生』は私の言葉を意に介することなく、執筆をつづけていく。10枚から15枚ほど印刷されるたびに私は『先生』の作品を賞賛していく。印刷中はやることがなく、暇だからだ。
だが、ここで『先生』が『先生』と呼ばれるもう一つの理由が現れる。まだ仕事を終えていないのに、突然『先生』の筆が止まったのだ。私は慌てて『先生』からのメッセージを読む。「トナー ガ キレテイマス コウカンシテクダサイ シアン(C)」という内容だった。
「モノクロ印刷と思っていたのに、先生はシアン(青系のインク)もお使いになられていたのですか!」
私は思わず、驚きと敬服の混ざった声をあげてしまった。さすがは『先生』だ。綺麗な印字を出すために、黒のみならず青色も混ぜ込んでいたなんて。『先生』が口を開くことができたら「これだから素人は困るよ、キミィ」と私をお叱りになったことだろう。現在、22時。すでにトナーを購入できる店は閉まっている。
「どうでしょうか。今年は黒のみで印字をなさるというのは……先生の美麗な書体ならシアンがなくても」
そんな私の提案に耳も貸さず『先生』はメッセージを出し続ける。たとえ夜遅くだろうが真夜中だろうが、『先生』は絶対に妥協を許さない。この徹底したプロフェッショナルさと、わがままぶりがまるで巨匠のようなので、我が家ではこのプリンターを『先生』と呼んでいるのである。仕方がないのですぐにヨドバシの深夜受け取りでトナーを購入し、『先生』に気持ちよく仕事をしてもらった私なのである。