【消えゆく雪の中に】(4)
そして今
子供たちの声を聞きながら亜矢子は母の手紙の封を切った。
それはやはり予想通りの内容だった。
父の三回忌法要の知らせと「必ず帰って来て下さい」だった。
「どうしても休みが取れないなら仕方ないけれど、とにかくお願いします。到着時間を知らせて下さい。
文春に迎えに行ってもらいます」
そして「くれぐれもお体には気をつけて下さい」と結んであった。
彼女はいまだに母を理解しがたい部分があった。
母は彼女にとって、確かに一番の存在なのだけれど、なぜか寄りつきがたいものがある。
ゆえ、恋しい反面に逃れたい気持ちにかられることもあるのだった。
遊んでいた子供たちはどこかへ遊び場を変えたらしい。
はしゃぐ声が止んだ。
そして、誰もいなくなった白い雪だけの世界。
それを見ていると、無性に雪のなかを歩いてみたくなった。
彼女はそのまま、コートを着、マフラーをして外へ出た。
車の屋根、街灯、道、その中を歩く人、都会の雪景色。
何年に、いや何十年に一度かもしれないこの世界。
亜矢子が神社に近づいたとき再び雪がチラチラと降り始めてきた。
それは、神社に沿って流れる小さな川の水面に、吸い込まれるように消えていく…。
彼女は心の中にある父の面影を、その吸い込まれるように消えていく雪の中に見た。
「父も母も私も、何もかもがこの雪と同じなのだ。真っ直ぐ天から降ってきて、そのまま消える。
たとえ何日この地上にあろうといつかは消えてしまい、人生のほんのちっぽけな変化などもあっという間に消える。
でもそれは必要なもの…決して無意味なものではないのだろう」
そう思いながら、ひとつひとつ水面に消えてゆく雪を見つつ境内の階段を上って行った。
社は雪に包まれて荘厳さを増していた。
彼女はその社に向って、自分の再起を誓った。
かつて父のできなかった再起を・・・。
過去は、忘れることはできないし、忘れてもいけないかもしれない。
でも新しい一歩も踏み出さなくてはいけないと思った。
雪は止まず、亜矢子の肩につもり、体に降りかかっている。
心の中にあるすべての蟠りが、この雪と共に消えてくれればと思った。
恐怖で顔を強張らせた過去と共に…。
突然、下宿の男の子が近づいてきた。
「ああやっぱり、お姉ちゃんだ。一緒に帰ろう。雪がいっぱい降ってきたよ」
今まで、この雪の中で遊んでいたようだった。
「うん」
亜矢子は元気よく返事をすると、その子の手を取って、もと来た道を歩き始めた。
そして「今度こそほんとうに、新しい気持ちでわが家に帰ろう」そう思った。
そう思うと、とても嬉しかった。
「もうすぐ春が来る」
雪は幾筋も幾筋も、水面に吸い込まれるように消えていった・・・。
<完>
今回はユーチューブよりこの曲をお借りしました。
春よ、来い - 松任谷由実(フル)/high_note
松任谷由実さんも中島みゆきさんと並び称されるシンガーソングライターですね。
<足跡👣>
この文芸誌【すずかけ】を部費の足しにと(畏れ多くも)文化祭で販売した時、
突っ込みどころ満載のこの作品を、長々とツッコミ(批評)してくださった他校の男子・・・
・・・に辟易している私を、面白がった他の部員が写したものです。
この(文学青年さながら)を醸し出していた男子、その後どうしたの(今どうしているの)でしょうか?
多分、アポトキシン4869(☜コナンを見過ぎの私)でも飲んでいなければ、確実に、お爺さんになっていると思います!
時の流れは平等ですから~。
この写真の私は、困った顔をしているけれど髪のパッチン(ヘアーピン)が可愛い!
今見ると、まるで他人みたいです!
時の流れは速い(恐ろしい)です。
私の半世紀前の思い出に、長々とお付き合い下さりありがとうございました。