哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

映画、小説、芸術、その他いろいろ

小津安二郎『東京物語』

2006-04-20 | 映画
 多分、一般的な評価として、最高の日本映画とされている小津安二郎『東京物語』を見た。
 …とは言うものの、レビューを書きづらいなあ。理由のひとつは、すごすぎるものというのは、往々にして、ここがいい、そこがいい、というような具体的な評価を無化してしまうということ。つまり、各部分が良いから全体が良く、全体が良いから部分が良いと。その連関のなかから一部を取り出して、良いということは、作品自体の良さを述べようとする意図を裏切り、作品自体を矮小化してしまう。もう一つは、映像の文法自体が違いすぎて、比較対象と持ち出しての評価がし難いということ。筆者は、基本的にカラー以後のエンターテインメント性の高い映画(『東京物語』にエンターテインメント性がないというのではない。エンターテインメント(娯楽)の志向性が違いすぎるのである)ばかり見ているので、映画に何らかのスペクタルを求める。が、『東京物語』にはそれがない。それがダメかというと、むしろスペクタルがないからこそすごい。しみじみせつせつとして、私小説風なんだけど、それがいい。ドキュメンタリー性(『少し前に取り上げた『殺人に関する短いフィルム』はこの傾向がある)ともまた違って、筆者はこういう映画をこれまでまったく観たことが無い(ちなみに、筆者の映画についての原風景は『インディ・ジョーンズ』シリーズだ)。
 結論としては、誰もが見たほうがいい映画。世界の映画十指に数えられる映画だし、きわめて現代的かつ普遍的(?)な問題意識ももっている。が、筆者は、この映画についてまともに語れない。完敗しました。(余談だが、デリダやルーマンは、「あることに決定を下せるのは、どこかに決定を下せないものがあるからだ」というようなことを言っていたような気がするが、そういうものなのかもしれない)

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