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哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

映画、小説、芸術、その他いろいろ

東京都美術館『日本の美術館名品展』

2009-05-02 | 展覧会
 GW中に東京都美術館の『日本の美術館名品展』を見てきた。これは日本各地の公立美術館から目玉作品を選りすぐって一か所に展示するという大々的な展覧会である。……たぶん、地方の美術館に人が来てくれないから、一度に紹介し鑑賞者を集めるためのイベントなのだろうなと思うと、ちょっと涙ぐましくなってくる。
 だが、公立美術館の総力を集めたような展覧会だけあって、すごい美術展だった! ……休日にもかかわらず、そこまで人はいなかったけど。料理で言えばメインディッシュ級の作品がずらりと並ぶ。あるべき画家の絵はすべてあると言ってもいいくらい。しかも、こてこての料理が次から次へと運ばれてくるので、おなかいっぱいで、それでもまだメニューは続いていく、しかも洋風、和風、和洋風と。というわけで、この展覧会だけで、とりあえず近代美術とはこういうものだ、ということがだいたい分かり、これまであまり見なかったジャンルの作品(たとえば近代日本画)にも無理やり目を開かせてしまうすごい美術展だった。テーマ性がないから、面白いわけではないが、とにかくすごいので気になる人は観にいくべき。難点はと言えば、上記のような構成のため、美術史の流れを読んだりという「勉強」の要素が全くないこと、作品が雑多なため一人一人の画家の画風をじっくりと楽しむことができないことなどである。まあ、後者については今までコンテクストに載せて観ていた画家の作品を、純粋に鑑賞しやすいという副次的な効果もあるけれど。
 とにかく、濃い作品が膨大にあるので、観る者に体力と集中力を要する。理想的には、二回くらいにわけて、一回目は西洋画家、二回目は日本の画家という風に観た方がいいくらいだ。公立美術館の総力を挙げた力技を、是非受け止めてほしい。

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国立新美術館『ルーヴル美術館展 美の宮殿の子どもたち』

2009-04-28 | 展覧会
 国立新美術館の『ルーヴル美術館展 美の宮殿の子どもたち』を見てきた。膨大な作品を所蔵するルーヴル美術館から子供をモチーフにした作品を節操なく集めてきた肝心の美術展だが、正直あまり面白くなかった。古代エジプトやメソポタミアの彫刻から近代イギリスで少年を少女のような格好をさせて育てた習慣についての絵、またエジプトのミイラまでいろいろあったが、それらを「子ども」というモチーフだからといってまとめて扱うには無理があり、結局展覧会自体の構成として何がやりたかったの?、と「?」をつけざるを得ない。しいて言うなら、芸術鑑賞というより、「子ども」という観念についての比較文明論的な考察でもしなければなかなか楽しめないのではないかとすら思う。正直、「ルーヴル」という名前がつかなければどうしようにもない企画展ではないかと思ってしまう。辛口だが。

 さて、付け合わせに観た『アーティスト・ファイル2009—現代の作家たち』という現代美術の企画展だが、こちらは面白かった。現代美術と聞いただけで、ワケワカランものだろうと避けてしまう人も多いのだろうが、私は力強く断言できる。現代美術は面白い! ちゃんとした展覧会を見に行けば、目から鱗が落ち、度肝を抜かれること必至である。そして、この企画展もかなり面白かった。特に目を引いたのは、齋藤芽生という作家の作品。基本的には絵なのだが、風刺の利いた文章が付き、そのモチーフというのも昭和のどうしようにもない不潔な性の、揶揄なのである。団地妻とかスリップがなんやらとか新宿一匹狼とかあの辺である。それが、食虫植物の如く毒を持って描かれ書かれ、面白く、しかもかなりの点数があるので、夜の閉館ぎりぎりでも注目して観ている人が結構いた。他にも、いかにも現代的な視覚効果を使った作品や、素朴な回帰主義的な作品など、現代美術っておもしろい、というかこんなことやっていいのか!という印象なのである。どうせなら「ルーヴル美術館展」のオーセンティックな展示を観た後に、今の芸術家はこんなことをやっているのかと比較してみるのが良いかもしれない。

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ブリヂストン美術館『マティスの時代-フランスの野生と洗練』

2009-04-26 | 展覧会
 ブリヂストン美術館の『マティスの時代-フランスの野生と洗練』も面白かった。Bunkamuraの『忘れえぬロシア』が驚きと発見に満ちた展覧会だったのに対し、こちらは西洋近代画家の作品を一通り見られる落ち着きと安心に満ちた展覧会だったと思う。「マティスの時代」と言っても(あるいは言うからか)マティス自身の作品はそれほど多くなく、彼と同時代の交流のあった画家たちの作品が並べられ、それらを比較することができるのが良い。
 マティスも野獣派の出身ということだが、晩年の切り絵のイメージが大きいから、僕自身はあまりマティスを野獣派と思ったことはないのだけれど、まあそういうことらしい。野獣派的な色彩への興味から画家歴を始めたマティスだが、色彩を軸に輪郭のあいまいな印象派に拘泥するのではなく、またキュビズムのように空間の解明に心血を注いでやはり色彩への興味を薄れさせてしまうのでもなく、線と色を両立させるための手法として、晩年に切り絵を作り始めた、というのは面白い。同じ形のものを描いても、その色が違えば人間には印象どころか大きさまで違って見えてくるが、その単純な事実も画家の一生の研究に値するものなんだろうなあと考えた。画家たちがどんなことを考えながら絵を描いているのかに思いを馳せさせる良い美術展だった。

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Bunkamura『国立トレチェコフ美術館展 忘れえぬロシア』

2009-04-22 | 展覧会
 だいぶ更新に間が空いてしまった。いろいろあるのだ。

 Bukamuraで『国立トレチェコフ美術館展 忘れえぬロシア』を見てきた。と言っても、ロシア出身の画家なんて、どれだけ思い浮かぶだろうか。私はカンディンスキーしか思い浮かばない。というわけで、名前を知らない画家の作品ばかりの美術展だったが、ここしばらくの美術展の中では抜群におもしろかった。久しぶりに、美術っていいなあと心から思わせられるくらいに。画風としては、写実的な絵画から印象派的な絵画へという流れのままだが、この流れが凄い。少し離れてみれば、精密絵画のような精緻なタッチの絵に見えるのだが、近寄って見ると印象派のわざとタッチを残す、大胆なタッチの絵でもあるのだ。近くから見たときと離れて見たときの印象のギャップが大きく、何度見ても不思議で、どんなロシアンマジックかと思うような絵がいくつかあった。他にも、肖像画もなかなか良いものがちらほらと。名前だけ見れば大したことのない美術展だが、騙されたと思ってぜひ観てほしい。目から鱗が落ちるとはまさにこのことである。

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国立西洋美術館『ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画』

2009-03-17 | 展覧会
 国立西洋美術館に『ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画』を観にいってきた。おそらく、3~4月では本命の展覧会だろう。ということで、平日の今日、開館の9時半直前に美術館に来たのだが、すでに入口では鑑賞者が長蛇の列をなし、入場制限を行っているという。幸い、僕は事前にインターネットで前売り券を買っていたので、入館の列にそのまま並ぶことが出来たが、前売り券などを持っていない人は、まず券を買う列に並ばなければならない。
 そういうちょっとした混雑を経ながら美術展へと入っていったのだが、いざ見始めてみると、そこまで混雑のせいで観にくいということはなかった。2番目の部屋に移ったときにはもう気にならない程度だ。
 というのも、おそらくはたぶんみんなあまり面白い美術展じゃないと思ったのだと。17世紀って、市民社会が始まったか始まらないかくらいで、まだ貴族文化みたいなのを悪い意味で引きずっていたころではあるし、絶対王制ほど豪華でもない。目玉と言えばフェルメールの「織物をする女」くらいで、これもかなり小さい絵だった。あとは、割と美術展を見に行っている僕も知らない名前の画家ばかりで(まあ、近代以降の絵画しか基本的に興味ないせいもあるんだけど)、色彩も暗いし、主題も地味と来ている。そんなわけで、どんどん鑑賞者は流して見ていくので、混雑という混雑は結局なかったのである。
 では、行くだけ無駄な美術展だろうか? さにあらず。僕にとっては「受胎告知(天使)」という絵が久々にツボに入った絵だった。天使の顔が大きく描かれた絵なのだが、その天使の表情がなんとも良いのである。まあ、趣味の問題も入ってくるのだけど。そんなわけで、かならずしもお勧めの美術展ではないけれど、話題にはなるので、気になれば午前中に時間をとって観にいくのも良いと思います。

 ところで、明後日からパリに行くので、本物のルーヴル美術館を観てきます。二度美味しい?

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Bunkamura美術館『20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代』

2009-01-10 | 展覧会
 Bunkamuraに『20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代』を観てきた。ピカソとクレーと言うと、変な取り合わせだが、これは改装中のドイツの州立美術館からコレクションを借りてきたからだということらしい。特に、この美術館がクレーを集めていた理由が面白くて、もともとドイツで絵を教えていたクレーだが、ユダヤ人だったせいでナチス政権下で外国に追い出されてしまい、戦後になってドイツが自らの過ちを挽回するためにクレーの作品を集めたということらしい。

 というわけでピカソも良かったが、やはりこの展覧会の目玉はクレー。クレーは不思議な絵を描く画家だということは知っていたが、これだけバラエティに富んだユニークな絵を描くということは知らなかった。絵本に載せられそうな絵や、部屋に飾ればそれだけで空気が明るくなりそうな絵など、なかなか良い感じである。そしてまた、あまり見る機会のないドイツ系の画家の絵なんかもあってこれはこれで面白い。先月大きなピカソ展が終わり、なんとなくピカソ熱の高まっている今だからこそ見たい展覧会。でも観客は少なめ。

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12月の美術展

2008-12-06 | 展覧会
<上野>
・国立博物館(特別展)
 特になし(?)

・国立西洋美術館
 特になし(?)

・東京都美術館
『フェルメール展 光と天才画家とデルフトの巨匠たち』
 ~12月14日(日)

・東京藝術大学大学美術館
『東京芸術大学 大学院美術研究科博士審査展』
 12月6日(土)~18日(木)

・上野の森美術館
『没後40年 レオナール・フジタ展』
 ~2009年1月18日(日)


<東京>
・ブリヂストン美術館
『都市の表象と心象 ―近代画家・版画家たちが描いたパリ』
 ~2009年1月18日

・出光美術館
『やきものに親しむⅥ 陶磁の東西交流』
 ~12月23日(火・祝)


<竹橋・九段下>
・東京国立近代美術館(美術館)
『沖縄・プリズム 1872-2008』
 ~12月21日(日)
所蔵作品展『近代日本の美術』
 ~2009年1月12日
『小松誠―デザイン+ユーモア―』
 ~12月21日(日)


<六本木>
・国立新美術館
『巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡』
 ~12月14日(日)
『未来を担う美術家たち DOMANI・明日展2008 文化庁芸術家在外研修の成果』
 12月13日(土)~2009年1月26日(月)

・森美術館
『チャロー! インディア:インド美術の新時代』
 ~2009年3月15日(日)

・サントリー美術館
『巨匠ピカソ 魂のポートレート』
 ~12月14日(日)
 『japan蒔絵―宮殿を飾る 東洋の燦めき―』
 12月23日(火・祝)~2009年1月26日(月)


<渋谷・青山・恵比寿>
・Bunkamura ザ・ミュージアム
『アンドリュー・ワイエス-創造への道程(みち)』
 ~12月23(火)

・青山ユニマット美術館
『シャガールとエコール・ド・パリの常設拡大』
 ~1月13日(火)


<清澄白川>
・東京都現代美術館
『ネオ・トロピカリア:ブラジルの想像力』
『森山大道 ミゲル・リオ=ブランコ 写真展』
 ~2009年1月12日(月)

<世田谷・用賀>
世田谷美術館
『山口薫展 都市と田園のはざまで』
 ~12月23日(火・祝)
『難波田史男 第三期収蔵品展』
 12月12日(金)~2009年2月27日(金)

<横浜>
・横浜美術館
『セザンヌ主義 父と呼ばれる画家への礼賛 ピカソ・ゴーギャン・マティス・もディリアーニ』
 ~2009年1月25日(日)
『横浜美術館コレクション展 第3期』
 ~2009年3月1日

※できるだけ正確に作っていますが、間違いがある可能性もあり、また美術館には休館日があるので、このリストは参考程度に、美術館のHPを見て確認してください。

 ちょっと掲載する美術館のリストを改めました。12月は秋の名残の美術展以外はぱっとしない感じですが、逆にいえば、行き残した大展覧会を観にいく最後のチャンス。

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国立新美術館『巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡』×サントリー美術館『巨匠ピカソ 魂のポートレート』

2008-11-30 | 展覧会
 写真はかなりぶれているが、国立新美術館『巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡』のサントリー美術館『巨匠ピカソ 魂のポートレート』を観てきた。六本木の美術館2館が連携してパブロ・ピカソの展覧会をやっているのである。国立新美術館は若いころから死ぬまでのピカソの美術の遍歴を、サントリー美術館はやはり若いころから死ぬまでのさまざまな意味でのセルフ・ポートレートを並べている。そうそうたるコレクションである。訪れたのは、平日の午前、新美術館には開館後すぐ、サントリー美術館にはそのあと11時くらい。そんな時間なのに、結構混んでいた。それとは別に、学校のちょっとした行事なのか、小学生から高校生くらいの子がまとめて学生服を着てさわいでいたのでちょっと困った。

 私自身は、特にピカソは好きではないのだが、やはりこうしてピカソの作品を並べて見ているとその偉大さには感じ入ってしまう。まあ、女性関係とか問題の多い人物ではあったものの、それも含めて偉大なのだ。本当に、一人でよくあれだけの業績を挙げたものだと改めて驚く。他の巨匠と呼ばれる画家の3人前くらいの業績を上げているのではないだろうか。「青の時代」「分析的キュビズム」「総合的キュビズム」「シュールレアリスム」彫刻、晩年の闘牛やミノタウロスをモチーフとした絵画などなど。
 ピカソの業績の中でも、私が特に興味を引かれるのは、そのモチーフの選び方である。若いころから多く描いた道化師のモチーフや、晩年に多く描かれた闘牛やミノタウロスのモチーフである。これらは皆、ピカソが自分自身を描くために用いられたモチーフだが、暴力と性欲そのものの存在であるミノタウロスをセルフ・ポートレートとして描く画家の妄念には震撼せざるを得ない。まあ、絵自体が凄すぎてなかなか理解できないせいもあるのだが。
 そんなわけでというのか、ピカソの芸術を理解する一助になればと、今回は珍しく図録を買ってみた。二つの展覧会の作品が一冊でまとまってて、2800円。お得、かな。

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横浜美術館『セザンヌ主義 父と呼ばれる画家への礼賛』

2008-11-26 | 展覧会
 横浜美術館に『セザンヌ主義 父と呼ばれる画家への礼賛 ピカソ・ゴーギャン・マティス・モディリアーニ』を観にいってきた。恥ずかしながら横浜美術館に行ったのはこれが初めて。のみならず、横浜美術館がある桜木町にまともに行ったのもこれが、初めてではないかな。なんとなく山崎まさよしの歌で、踏切とかがある商店街のイメージだったが、どっこい。かなり綺麗で、いかにも再開発地区という感じだった。時代が違ったのかな。

 横浜美術館は桜木町駅から徒歩約10分。みなとみらい駅からなら3分程。見た瞬間驚いてしまった。なんと立派な。これまで見た国内の美術館では一番綺麗なのではないかと思ったくらいだ。サイズと美しさで今のところ勝負になるのは、国立新美術館くらいではないかな。たぶん、横浜美術館は、日本画の方が得意なのだと思うのだが、そのせいで今まで来なかったのは我ながら手落ちと言わざるを得ない。

 肝心のセザンヌ主義だが、これまた量質ともに立派なものだった。タイトルにもある、ポスト印象派の作品が次々に並び、解説も充実している。さらにやはりセザンヌから影響を受けた日本人画家の作品も多く、そもそもセザンヌ自身の作品は、自画像、人物画、風景画、静物画、水浴画などバリエーションを網羅している。残念ながら、画家のマスターピースとされるような作品はなかったようだが、それでもおなかいっぱいの内容だった。美術展を見て、これだけ疲れたのも久しぶりではなかろうか。ただ、延々とセザンヌを囲むように見てきた美術展のオチが、みんながあこがれていたセザンヌ自身は「ドラクロワ最高!」と言っていたというもので、さすがにずっこけざるを得なかった。

 そんなおなかいっぱいの状況ではあるが、常設展がまだあるのである。今回あったのは、ダリなどのシュールレアリスムの画家の作品と日本人画家の作品、写真展、さらにデザイン家具まで。もうどうにでもしてという感じである。

 ミュージアムショップも展望台もカフェテリアも充実して、文句なしの美術館なのだが残念なのは一点。『セザンヌ主義』にあった絵の絵ハガキのラインナップが貧弱で、僕が絵ハガキを買おうと思った三枚の絵の絵ハガキが三枚ともなかったこと。お土産というよりも思い出に近い感じだが、僕は毎回美術展で気に入った作品の絵ハガキを買って帰ることにしているので、ここはやはり残念。まあそれも最終的には気にならないほど、おなかいっぱいな美術館だった。上野や六本木などの美術館の中心地からは遠いが、まだ訪れたことのない方は、騙されたと思って一度足を運ばれることをお勧めしたい。その機会にも今回の『セザンヌ主義』は良いものだと思います。

「自然を円筒形と球形と円錐形によって扱い、すべてを遠近法の中に入れなさい」ポール・セザンヌ

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Bunkamura『アンドリュー・ワイエス 創造への道程』

2008-11-19 | 展覧会
「できることなら私は自分の存在を消してしまって絵を描きたい。―あるのは私の手だけ、という具合に」アンドリュー・ワイエス

 Bunkamuraザ・ミュジアムの『アンドリュー・ワイエス 創造への道程』を観てきた。知ってる人には言うまでもないことだが、ワイエスはアメリカの画家である。が、現在91歳で存命で、今も旺盛な創作活動を行っているとか。画家は、短命な人が多いので生きていること自体に驚き、また同時代に大好きな画家がいることをうれしく思った。私は、アンドリュー・ワイエスが古今の画家で三本の指に入る位に好きなのである。

 展覧会に入ったのは10時過ぎの開館すぐ。人の入りの具合は、観覧にさし障るほどではなく、かといってさびしいほどではないという絶妙な具合だった。絵のラインナップは習作が多かったのは残念だが、素晴らしい絵がいくつもあった。一枚の完成した絵に対し、2~4枚くらいの習作があって、展覧会のタイトル通りの創作の筋道が分かって面白い。ただ、やはり習作が多いということで、展覧会自体の濃度は薄かったかな。それに、ワイエスの代名詞みたいになっている、テンペラ画の絵も少なかったし。
 ワイエスの絵について、胸を突くような感情的な要素よりも、つつまれるような精神性の高さを感じる。それに西洋画の写実性と東洋の余白の美を合わせたような風格も感じるのである。この画風は、日本や中国の水墨画の墨のかすれや白の美にも通じるのではないかと思う。まあひょっとしたらだけど。さらに、ワイエスの絵には物語性を描くことにも長けていて、ヘルメットや斧、義手、家など、ある人物の人生を象徴する道具や、あるいは自然の年月を感じさせる風景を、ずばりと描くのも上手い。

 最後に、ワイエスの絵に何度も描かれたオルソン姉弟と彼らのオルソン・ハウスについて。ワイエスはオルソン姉弟という友人を何度も自分の絵の中に登場させているのだが、生まれながらに手足に障害をもち、移動するときにも這わねばならなかったのに力強い人生を送った、アンナ・クリスティーナ・オルソンの存在は特に、ワイエスの絵の精神性を象徴しているかのようである。この人が描かれた絵を見ていると、良い意味でのアメリカらしさというのは残っているんだなあと感心させられる。一言でいえば、フロンティア・スピリットというやつだ。素晴らしい。

「この日、もやの中で太陽が白々と輝き、その光に満たされた室内で、色彩感覚は失われていた」
「私は季節の中でも冬や空きが好きだ。風景の中にある骨組みが孤独感、死に絶えたような雰囲気を感じさせる。何かがその下に隠れていて、物語の全ては明らかにされていない。そんな気がするのだ。

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国立西洋美術館『ヴィルヘルム・ハンマースホイ~静かなる詩情~』

2008-11-17 | 展覧会
「私は、常にこの部屋のような美を思っていた。たとえ、人がいないとしても、いや、正確に言えば、誰もこの部屋にいないからなのだろう」ヴィルヘルム・ハンマースホイ

 国立西洋美術館の『ヴィルヘルム・ハンマースホイ~静かなる詩情』(~12月7日)を見てきた。といってもちょっと前の話なのだが。行ったのは金曜の19時頃で、夜間の観覧。そのせいか、昼間よりも観客の年齢層が低く、かつ落ち着いたい雰囲気だった。

 ヴィルヘルム・ハンマースホイはデンマークの画家で、最近見直され評価が高まっているとのこと。僕自身、ポスターなどで告知を見て、かなり良さそうな感じだなと思った。それに、今まで聞いたこともない名前の画家に、面白そうな作品があれば良いなと単純に感じるのである。

 ハンマースホイはフェルメールの影響を受けた画家ということだが、その画面の表面から受ける印象は、室内画としての静謐さの他は全く違うと言っていい。フェルメールの絵が肉感的なのに対し、ハンマースホイの絵は影の薄い印象である。たとえれば、フェルメールが装飾的なアンティーク家具だとしたら、ハンマースホイの絵は北欧家具だと思った。実際に、ハンマースホイの絵の舞台となった、自宅のアパートの様子も(最近の)北欧的な印象があるのである。
 そのハンマースホイの絵の特徴は、まず、人物が描かれることが比較的少ないことと、しかもその人物が画面に対して背後を見ていて、さらに風景そのものに溶け込むようなことろがあって、総じて人物の存在感が薄いこと。さらに、影の向きや家具の構造がありえないものだったり、モデルがある室内画から家具を省いたりと、違和感のような奇妙さとがらんとした空虚さをたたえている絵が多い。半びらきに開いた扉が連なる絵を描いたりと、家の中にいながら霧の中に迷い込むような戸惑いさえ覚える。
 だからと言って、ハンマースホイの絵に動きがないというわけではない。むしろ、白い壁を背景としても、その色には微妙な色が加えられて、モネの描く水面のようにゆらめいている。僕は、ハンマースホイの絵については、その平面の揺らぎが一番好きだ。むしろ、壁やドアなど、本来室内画において背景となっているものこそ、ハンマースホイの絵の主役になっているのではないかと感じるほどに。一言でいえば、世界の最後の日の光景のように、揺らぎ続ける静謐さ、とでもいうものがハンマースホイの絵の本質と感じた。
 展覧会自体は、面白いものだったが、正直なところ僕自身はハンマースホイの絵はそれほど好きというわけではない。画面の色彩のアンドリュー・ワイエスとも似ているかなと思ったけど、どちらかを選べと言われれば、僕は迷わずワイエスを選ぶ。ただ、再評価されている画家の絵を見るというのも楽しみなので、絵画に興味のある人にはためらわずお勧めする。そして、夜の少し疲れた雰囲気にも合うので、金曜の夜に行くのはなお良いかも。人も比較的少ない。

 ところで、国立西洋美術館を文化遺産にという運動が今行われているけど、どうなのかなあとは、少し思う。確か、有名な建築家が設計していたはずだけど、そこまで、そこまでなのか。どうせ文化遺産登録をしたいなら、上野公園全体を対象にした方が良いのではないかと思うのだが、うーむ。

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東京都美術館『フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち』

2008-11-03 | 展覧会
 今日も特番で紹介されていた東京都美術館の『フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち』を見てきた。知られている通り、フェルメールは寡作で世界に30数点しか現存していない上、それらも世界各地の美術館に点在していてなかなかまとまって作品を観ることができない画家である。そのフェルメールの絵が7点もまとまって観られる貴重な機会がこの『フェルメール展』である。
 美術展自体は第一生命が出資しているせいか、いつもよりも金がかかっている印象もある。並んでいるフェルメール以外の絵は当たり前だが、いかにもオランダらしく、市民の生活を描いた風俗画ばかりであまり面白いわけでもない。
 一方で、フェルメールの絵は、さすがに良かった。他の絵と比べると、艶や色気といったものが明らかに違う。ただ、私がフェルメールの絵について感じるのは、不吉な印象がするということだ。そういう様式だと言えばそうなのかもしれないが、画面の左から光が差し込み、描かれる人々はそれぞれ別な関係のないように見える動作をし、しかも意味ありげに振り返る女性が多く描かれている。さらに、地図や手紙や窓など、絵画に描かれる外の世界につながるモチーフが多く登場し、それが私には不吉に思えるのだ。まあ、不吉とまで言わなくとも、意味ありげな、隠喩めいた絵画だというのは誰でも感じるところではないだろうか。正直に言えば、私はこの美術展を見てもあまりフェルメールの作品を好きだとは思わないが、せっかくの機会なので好みに関わらず観にいくと良いのではと思う。個人的には、『小径』という素朴な印象の風景画が一番好きだ。上記のような絵の他にも、宗教画などもあるので、一つくらいは好きな絵が見つかるのでは。

 ところで、今日の特番は、ひどい出来だったなあ。どちらかと言えば、フェルメールよりもヒトラーの方が面白いくらいだったし。

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11月の美術展

2008-11-03 | 展覧会
<上野>
・国立博物館
『スリランカ―輝く島の美に出会う』
 ~11月30日(日)
『大琳派展―継承と変奏―』
 ~11月16日(日)

・国立西洋美術館
『ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情』
 ~12月7日(日)

・東京都美術館
『フェルメール展 光と天才画家とデルフトの巨匠たち』
 ~12月14日(日)

・東京藝術大学大学美術館
『線の巨匠たち―アムステルダム歴史博物館所蔵 素描・版画展』
 ~11月24日(月・祝)
『増村紀一郎漆芸展 漆の美と技』
 ~11月9日(日)
『櫃田伸也:通り過ぎた風景展』
 11月11日(火)~11月24日(月)
『片山和俊建築展 まちみちすまい』
 11月21日(金)~12月7日(日)


<東京>
・ブリヂストン美術館
『都市の表象と心象 ―近代画家・版画家たちが描いたパリ』
 ~2009年1月18日

・出光美術館
『やきものに親しむⅥ 陶磁の東西交流』
 ~12月23日(火・祝)


<竹橋・九段下>
・東京国立近代美術館(美術館)
『沖縄・プリズム 1872-2008』
 ~12月21日(日)
所蔵作品展『近代日本の美術』
 ~2009年1月12日


<六本木>
・国立新美術館
『巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡』
 ~12月14日(日)

・森美術館
『チャロー! インディア:インド美術の新時代』
 11月22日(土)~3月15日(日)

・サントリー美術館
『巨匠ピカソ 魂のポートレート』
 ~12月14日(日)


<渋谷・青山・恵比寿>
・Bunkamura ザ・ミュージアム
『アンドリュー・ワイエス-創造への道程(みち)』
 ~12月23(火)

・青山ユニマット美術館
『シャガールとエコール・ド・パリの常設拡大』
 ~1月13日(火)

・東京都写真美術館
『日本の新進作家展vol.7「オン・ユア・ボディ」』
 ~12月7日(日)
『ビジョンズ オブ アメリカ 第3部 アメリカン・メガミックス1957-1987』
 ~12月7日(日)
『写真新世紀東京展2008』
 11月8日(土)~11月30日(日)


<清澄白川>
・東京都現代美術館
『ネオ・トロピカリア:ブラジルの想像力』
『森山大道 ミゲル・リオ=ブランコ 写真展』
 ~2009年1月12日(月)

<世田谷・用賀>
世田谷美術館
『アウトサイダー・アートの作家たち』
『大地の歌を描く人々~ベルギー・クレアムの画家たち』
 ~11月30日(日)

※できるだけ正確に作っていますが、間違いがある可能性もあり、また美術館には休館日があるので、このリストは参考程度に、美術館のHPを見て確認してください。

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10月の美術展

2008-10-05 | 展覧会
<上野>
・国立博物館
『スリランカ―輝く島の美に出会う』
 9月17日(水)~11月30日(日)
『中国書画精華』(後期)
 10月7日(火)~11月3日(月・祝)
『大琳派展―継承と変奏―』
 10月7日(火)~11月16日(日)

・国立西洋美術館
『ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情』
 ~12月7日(日)

・東京都美術館
『フェルメール展 光と天才画家とデルフトの巨匠たち』
 ~12月14日(日)

・東京藝術大学大学美術館
『線の巨匠たち―アムステルダム歴史博物館所蔵 素描・版画展』
 10月11日(土)~11月24日(月・祝)
『米林雄一展~微空からの波動~』
 10月17日(金)~11月3日(月・祝)
『増村紀一郎漆芸展 漆の美と技』
 10月23日(木)~11月9日(日)


<東京>
・ブリヂストン美術館
『美術散歩 印象派から抽象絵画まで』
 ~10月19日(日)
『都市の表象と心象 ―近代画家・版画家たちが描いたパリ』
 10月25日(土)~2009年1月18日

・出光美術館
『近代日本の巨匠たち』
 ~10月26(日)


<竹橋・九段下>
・東京国立近代美術館(美術館)
『壁と大地の際で』
『近代日本の美術』
『現代美術への視点6 エモーショナル・ドローイング』
 ~10月13日
『沖縄・プリズム 1872-2008』
 10月31日(金)~12月21日(日)
所蔵作品展『近代日本の美術』
 10月18日(土)~2009年1月12日


<六本木>
・国立新美術館
『アヴァンギャルド・チャイナ―〈中国当代美術〉二十年―』
 ~10月20日(月)
『巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡』
 ~12月14日(日)

・森美術館
『アネット・メサジェ:聖と俗の使者たち』
『MAM PROJECT 008:荒木珠奈』
 ~11月3日(月)

・サントリー美術館
『巨匠ピカソ 魂のポートレート』
 ~12月14日(日)


<渋谷・青山・恵比寿>
・Bunkamura ザ・ミュージアム
『英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠 ジョン・エヴァレット・ミレイ展』
 ~10月26日(日)

・青山ユニマット美術館
『シャガールとエコール・ド・パリの常設拡大』
 ~1月13日(火)

・東京都写真美術館
『液晶絵画 STILL/MOTION』
 ~10月13日(月)
『ビジョンズ・オブ・アメリカ 第二部 わが祖国 1918-1961』
 ~10月19日(日)
『日本の新進作家展vol.7「オン・ユア・ボディ」』
 10月18日(土)~12月7日(日)
『第19回日本写真作家協会展 第6回JPA公募展』
 10月18日(土)~11月3日(月・祝)


<清澄白川>
・東京都現代美術館
『ネオ・トロピカリア:ブラジルの想像力』
『森山大道 ミゲル・リオ=ブランコ 写真展』
 10月22日(水)~2009年1月12日(月)

<世田谷・用賀>
世田谷美術館
『ダニ・カラヴァン展』
 ~10月21日
『アウトサイダー・アートの作家たち』
『大地の歌を描く人々~ベルギー・クレアムの画家たち』
 ~11月30日(日)

※できるだけ正確に作っていますが、間違いがある可能性もあり、また美術館には休館日があるので、このリストは参考程度に、美術館のHPを見て確認してください。

 10月で特に面白そうなのは、何といっても六本木の2館で連動して企画されるピカソ展。あとは、国立西洋美術館のハンマースホイ展も面白そう。芸術の秋だけあって、気になるのを回るだけでも大変なラインナップ。

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Bunkamuraザ・ミュージアム『英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠 ジョン・エヴァレット・ミレイ展』

2008-09-12 | 展覧会
 Bunkamuraザ・ミュージアムの『英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠 ジョン・エヴァレット・ミレイ展』を見てきた。平日の昼間に行ってきたのだが、Bunkamuraザ・ミュージアムとしては珍しいほど人の入った美術展だった。正直、ペアのどちらかは絵画に興味があるが、もう片方は明らかに引きずられてきたような観客が多かったような。

 正直なところ、英国絵画というのはよく知らない。有名なのはターナーだが、結構展覧会は見に行っているつもりなのだが、ターナーの絵ってどんなのだっけ?というくらいの素人である。まあ、絵画なら、フランス、オランダ、アメリカ・ロシア…という順で有名なのかなあと思うのだが。色んな出身がいたエコール・ド・パリは別だけど。というわけで、英国絵画とはなんぞや、という感じでみてきたのである。
 
 ミレイだが、人物画と風景画を主に描いていたらしい。ミレイの代表作であり、この展覧会の目玉となっている『オフィーリア』は、まさに人物画と風景画を合わせた感じである。オフィーリアといえば、シェイクスピアの『ハムレット』の登場人物で、確か婚約者のハムレットに父を殺されて(「尼寺へ行け、尼寺へ」の人)、狂死するのだが、それが花を摘んでいるところで小川に落ちて水死ということで、詩的なイメージを喚起するちょっとした定番のモチーフだそうだ。なるほど、良い絵だ。物語のバックグラウンドがあって、はじめて成立する絵だと思うが、美女が水に包まれ、花に囲まれて散っていく様子が哀感をもって迫ってくる。なかなかないタイプの絵だと思う。
 『オフィーリア』の絵だけ見に来ても、それなりに面白い展覧会だが、ミレイの絵は物語性や心理的描写が巧みで、英国らしい(というのか)なかなか理知的な絵だなあと思う。ただ、花やつぼみはともかく、植物の葉や茎については、ちょっとみずみずしさが足りないのではないかと、不遜にも思ったりする。
 最後に感想を一言言えば、絵画といえばやっぱりフランスだが、イギリスの絵もなかなか面白いことがわかった。ターナーの絵も観たいなと思った。

 ところで、Bunkamuraの次の展覧会はアンドリュー・ワイエスだそうな。ワイエスは青山ユニマット美術館で一目見て気に入った画家だから、嫌が応にも期待は高まるというもの。前売り券も買ったし、11月が待ち遠しい。

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