哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

映画、小説、芸術、その他いろいろ

庄司卓『グロリアスドーン8 少女は粉雪に踊る』

2009-03-14 | ライトノベル
グロリアスドーン8 少女は粉雪に踊る (HJ文庫)
庄司卓
ホビージャパン

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 今回は、お約束の雪山&温泉回。まあ、それはそれだけどどちらかというと新キャラ登場とその後の展開が意外なほど熱かった。bioクラフトに対抗するメリグナントクラフトにもホロン体が登場し、その「殿下」にも「ジャッジメンド・ソード」に対応する数天文体にわたる巨大化機能があり、銀河の中心近くで太陽系規模の剣と手甲が大ゲンカ。わけがわかりませんな。まあでも要するに、敵の大ボスが見えてきて、同時に敵組織の内情も明らかになり、しかも広大の父などシリーズ開始の当初からの伏線も回収され始めている。実は、よく考えられている! あとがきにTVアニメ化されたら、みたいな話をしているけど、それはそれで面白いかなあ。最近アニメ化されているのラノベは設定ばかりごてごてして、お話になってないからなあ。

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庄司卓『グロリアスドーン7 少女は剣を振るう』

2008-11-24 | ライトノベル
グロリアスドーン7 少女は剣を振るう (HJ文庫 し 1-1-8)
庄司 卓
ホビージャパン

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 今回は前回に続き、話が大きく動いた話。作者曰く、起承転結の「承」の部分が終わったところらしいけれど、これはまたかなり規模の大きい話でかつ、萌えっぽい外見の割に、陰謀をめぐらせたり、あるいはかなり真面目にSFやっているなあと感心せざるを得ない。

 ついに本格登場した四姉妹の長女ティラが誘拐され、彼女を助けるために不本意ながらティセ、ティル、ティオらが銀河の中心近くの星系に大遠征をし、そこで空前絶後の大バトルをするという話である。

 まあ、この大バトルが曲者で『トップをねらえ!』の1と2の両方を彷彿させながらも、さらに大きな規模のもので、銀河中心のブラックホールもなんのそのという傍若無人ぶりを見せる。何巻か前の星系レベルのbioクラフトの正体がほぼ明らかになり、同時にティセたちがbioクラフトのパトリシャンである理由も少なからずわかるという、これまでの伏線をある程度回収したエピソードでもある。ラブコメも、ちょっとは進んだのではないかなあと。

 いろいろとすごいエピソードではあるのだけど、巻末の登場人物たちのフリートークでの『駄目だ、こいつ。早く何とかしないと』が全てをもっていってしまうというw。作者、傍若無人過ぎだ。そのうち、『全力で見逃せ!』とかも出てくるんじゃないか。

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秋田禎信『閉鎖のシステム』

2008-11-18 | ライトノベル
閉鎖のシステム (富士見ミステリー文庫)
秋田 禎信,黒星 紅白
富士見書房

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「あらゆる文明人は殺人鬼なんだ。夢想の中にだけ生きる独裁者なんだよ」(P152)

 秋田禎信の『閉鎖のシステム』を読んだ。富士見ミステリー文庫からの刊行ということで、当然ながらミステリー風味である。
 
 話としては、ある地方経済のテコ入れとしてつくられた巨大なショッピングモールで、閉館時間を過ぎた後に、残業だのなんだかのでようやく帰ろうとした4人は、施設が停電してしまっていることに気付く。ケータイのディスプレイなどわずかな明かりを頼りに歩きまわり、出会う4人の男女だが、彼らが警備員室から施設の外に出ようとするのだが、彼らが見たのは警備員全員が皆殺しにされ、犯行声明と思われる怪文が壁に記されていること。不可視の闇の中、正体不明の殺人鬼から逃れるべく、彼らは闇の底をはいずりまわる。

 というわけで、ちょっとサスペンス風味でもある。だが、作者自身がポストモズムになぜかかぶれている人のためか、不条理さもある。しかし、この小説の何よりもすごいのは、主人公たち4人が出会うまでの、大した出来事もないシークエンスをうだうだと76ページまで引き延ばしていること。そこそこ面白いし。でも、そういう文章で読ませる部分を除けば、やっぱりオチは弱いかなあと。まさに、秋田氏ファンのためにだけあるライトノベルである。他の人には、全くお勧めしない。

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田中ロミオ『AURA~魔竜院光牙最後の闘い~』

2008-09-28 | ライトノベル
AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫 た 1-4)
田中 ロミオ
小学館

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 また田中ロミオがラノベを出していた。タイトルからして、ファンタジーものかと思いきや学園ラブコメ(と作者は言ってるが、ほんとにラブコメか?)である。モチーフとしては、作中では妄想戦士(ドリーム・ソルジャー)と呼ばれているが、いわゆる邪気眼を扱ったものである。といっても、邪気眼が何か分からない人は多いだろう、というか知らなくて普通だ。説明しにくいのだが、自分は伝説の戦士の生まれ変わりで体に呪いがかかっているんだけど暴走すると大変なことになるんだぜ魔法も使えるんだぜ、という妄想を日常的に演じているという中二病の深刻なものなのである。ま、オタク趣味にかなり悪い感じに当てられてしまった人である。だいたい、中学から高校時代にかかり、後の人生で思い出したくない思い出になるという。まあ、ネットなんかではよく転がっている話なのだが、実物は見たことはない。いや、中学の時にしょっちゅうキタキタ踊りを踊っている友達がいたか。

 あらすじとしては、元邪気眼バリバリの主人公が高校デビューを果たすものの、そこはクラスの半数が邪気眼の世界。各自が、勝手な妄想をふりまきふりまき暮らしている。既に邪気眼を嫌悪している主人公が出会ったのは、一人の魔法少女。出会ったシチュエーションもあり、一時は本物の魔法使いではないかと信じるのだが、実は念の入ったコスプレ。結局、邪気眼なのであった。先生から邪気眼たちの世話を任され、魔法少女との付き合いもはじまるのだが、彼らを心ならずもかばっていくうち、普通の人々と邪気眼たちの間に割って入ることになり、いじめの狭間に立ってしまう。さて、どうする、主人公?

 ネタはアレで単発ものだが、同氏がシリーズとしてやっている『人類は衰退しました』より雰囲気は好きではないが、単純に面白かった。というか、明らかにギャルゲー的な話であり、そういう意味では田中ロミオの本領が発揮されていたと思う。非常に熱いし、らしいと思う。それに、ペダントリーも発揮されていて、やはり、ロミオらしいと思う。中には、それ活字にしちゃっていいのか、と突っ込んだのもあるし。まあ、いい意味でも悪い意味でもあるのだけど。
 このラノベを読んでいて思い出したのは、同氏が原案だか監修だかのギャルゲー『ユメミルクスリ』。これにも、イジメネタの話があって、クライマックスが屋上で、ヒロインもよく似た感じだったと思う。
 でも、今回、ただのイジメネタじゃなくて、邪気眼をモチーフにもってきたのは、さすがといったところか。今までこれほど邪気眼をモチーフの中心にした物語は読んだことなかったなあと思う。でも、近代小説のはじまりの一つである、『ドン・キホーテ』が騎士道物語を現実に演じて狂人となった主人公の話、つまり今で言う邪気眼だから、ある意味このモチーフはかなりアリなのではないかと、一方で思ってしまってちょっと震撼。うぉう、さすが田中ロミオだぜ。

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庄司卓『グロリアスドーン5 少女は閃光をまとう』

2008-02-04 | ライトノベル
グロリアスドーン5 少女は閃光をまとう (HJ文庫 し 1-1-6)
庄司 卓,四季 童子
ホビージャパン

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 グロリアスドーンの5巻目…といいつつ6冊目になるのだが。
 今回も新キャラ登場。元ネタはレベッカ斉藤先生と杉浦碧先生あたりか。なんだかいつもにも増してパロディ度の高いエピソードだった。
 今回は、特撮ネタが分からない人にはツライかも。実際、僕もちょっとツラかった。読者の年齢と離れたネタが多すぎるような。でもなんだか『ヤマモトヨーコ』の雰囲気に近づいているような気もする。今回、乙-HiME戦隊ならぬ、bioクラフト戦隊なるものが結成されたし。登場人物間の距離も縮まってきている。そして一方、基本空気の主人公も美少女ゲームの主人公化。なんとなくだけど、ホビージャパンらしい巻かと。

 それはともかく、今回は結構誤字脱字が多め。まあ、こういうのはなかなか無くならないものだけど、最近のライトノベルの多さについては…。特に、静花の学年は中学一年ではなく、中学二年だというのは大きい。作中のあるイラストの意味するところが、より明確になるはず。

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庄司卓『グロリアスドーン・アイキャッチ1 「今日のティセ子さん」』

2008-01-03 | ライトノベル
グロリアスドーン アイキャッチ1(短編集) 今日のティセ子さん (HJ文庫 し 1-1-5) (HJ文庫 し 1-1-5)
庄司卓,四季童子
ホビージャパン

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 『トゥインクル☆スターシップ』の完結の感動と興奮も冷めやらぬ庄司卓先生だが、『グロリアスドーン』の雑誌連載の短編分をまとめたシリーズが新しく登場。今回は、本編の穴埋めみたいなエピソードが多いが、最後の話で新キャラが登場し、「アイキャッチ」シリーズはこのキャラのエピソードを中心に展開していくみたい。今のところ大事件が起きているというふうではないけど、のんべんだらりといい味を出していると思う。キャラ的には、まんま水銀燈様なティオがツボだ(あまり活躍はないけど)。

 どうも『グロリアスドーン』は長くのんべんだらりとやっていくみたいで、ポスト『トゥインクル☆スターシップ』的な作品にもなりそうな予感。たぶん、最終回のオチもすでに決めて演繹的に書いていると思うし。僕も、文体とかにはちょっと難を感じるところもあるけど、庄司先生のSF風味は本物だと思うからなあ。あとがきで、『グロリアスドーン』の3シリーズ(本編「○○は○○に○○」、日常編「擬音語」、短編「アイキャッチ」)はあとで一つにまとまっていくと作者は大風呂敷を広げているけど、どうなるものやら。それにしてもこの作者ノリノリである。温かく見守っていきたい。

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庄司卓『トゥインクル☆スターシップ15 Twinkle Twinkle Little Star……』

2008-01-02 | ライトノベル
トゥインクル☆スターシップ15 Twinkle Twinkle Little Star…… (ファミ通文庫 し 1-1-15)
庄司 卓,まりも
エンターブレイン

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「何もないなんて……。そんな情けない人と一緒にしないでください。何もないのは貴方です。貴方は自分に何もないから、他の人間にも何もないと思っていた。だけど……」(P242-243)

 女の子5000人に対し、指揮官の男が1人という超絶設定(最終巻までにある程度以上の扱いで登場した女の子は40人以上)の「らぶスペ」『トゥインクル☆スターシップ』も感動の最終巻。いやほんとに良かった。『トップをねらえ!』的な感動もありつつ。思えば、庄司先生のシリーズでちゃんと最終回を読めたのって、これが初めてか? 『ヤマモト・ヨーコ』はまだだし、『エイティエリート』は打ち切り……(涙)。

 最終巻というだけあって、1巻からまき散らされていた伏線は見事に回収(そういえばイェシァーダのイラストが今まで無かった(確か)のは、最終巻までのタメだったのか。深い)。実を言えば、これだけうまくまとまるとは思っていなかった。しかも、最後までSF的マインドに溢れていて、文句の付けようもない。まあ、ちょっとあれっと思わせるところはあったけど。

 しかし、最終巻にして急に目立って登場してきたミズホが強敵、というかラスボス。明らかにメインヒロインのミズキよりも活躍しているし、人気投票でもあまり上位にこないミズキより人気が出てしまうのでは。

 また最初から読んで、伏線の張り方とか見直していくのもおもしろそうだけど、さすがに時間がなあ。オチが分かってから読み直すと面白そうなシーンとか結構あるのだけど。

 なかなか良い世界観だし、番外編とか出してくれないかなあと希望。セーラあたりが外宇宙に探検にいく話とか。
 あとファミ通文庫のWebページで完結記念サイトが。キャラクターの簡単なプロフィールと『ディジーの部屋』の特別編など。なお、誰かは分からないけれど、wikipediaで『トゥインクル☆スターシップ』の項を結構な詳しさで書いてくれた人がいるので、そちらを見てみるといいかも。中には僕も忘れていた設定もあるし。大・団・円!

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野村美月『“文学少女”と月花を孕く水妖(ウンディーネ)』

2007-12-29 | ライトノベル
“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫 の 2-6-6)
野村 美月,竹岡 美穂
エンターブレイン

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「美しい夢は、目覚めたあと、心の中に物語を残すのよ」(P270)

 はい、“文学少女”シリーズの6冊目で、番外編です。この巻の話は時系列としては2巻の後の話で、最終刊である次巻の予告編ということです。
 正直に言えば、3巻や4巻ほどの感動はない。けれど、負けた。完敗した。
 何この超絶壮絶伏線張りと回収は!? ちょっとでも怪しいところは、ほぼ全て伏線。しかも、それが巧妙に張り巡らされていて、伏線だと気づかないところも多い。そして、僕が推測した解答は、全部ではないものの、ほとんど外されている…。これほど、ぐうの音も出ないほど「負けた」感のする小説も珍しい。

 そんなわけで、この巻をレビューする気にはあまりなれず。表面的なところで言ったら、そらあれだ。館もののどろどろした恋愛がらみのミステリー。まあ、今「ミステリー」と言って思い浮かぶ小説群と本作は大分違うテイストではあるが。まあ、ラノベも6巻まで行ったら、すでに前巻までを買った人しか手に取らないだろうから、わざわざこの巻を勧めることはしないけれど、ファンの方は安心して手に取れる一冊だ。3巻みたいな感動ものとはちょっと違うけど、野村美月大・爆・発。

 あ、どうでもいいけど、心葉くんたちが通っている「聖条学園」て、まんま成城学園だなあと。名門だし、オーケストラが有名だし、閑静な住宅街にあるし。ブルジョアめー。

 さらにどうでも良いけど、今作登場の魚谷さんは、勝手に『怪物王女』のフランドルに脳内変換。「うがー」とか言ってます。というか、またツンデレが増えた…。この話でやたらと心葉くんがツンデレぽく見えるのを含めたら、ツンデレ4人追加…。このツンデレ、ヤンデレ率の高さは、異常!

 今巻で最終刊に向けて、「そもそも遠子先輩とは何者だ?」という問いへの伏線がやはり張られまくっているが、こうまで読みを外されてしまうと、オチの予想に自信が無くなってくるな。まあ、強いて考えるなら、遠子先輩は心葉くんが美羽に出会う前に出会っていた幼なじみで、なんか良い感じのエピソードがある(テキトー)。でも、何か事件があって二人は離ればなれ(まあ遠子先輩の両親がらみで)。そのショックで、心葉くんは遠子先輩を忘れてしまう。高校生になって、遠子先輩は心葉くんの街に帰ってくるが、心葉くんが記憶を失い、さらに美羽のことで精神的引きこもりになっているのを見かねて、救いの手を差し出す(ただし、昔の事件のことを思い出させないために、自分の正体は隠して)。
 こんなとこかなあ。なんだか、恐ろしく周到にやられているから、またもや外されてしまう気がするけど。

 なお“文学少女”シリーズは『このライトノベルがすごい』の2008年版で総合三位を取ったそうな。それくらいもらって良いよこのシリーズは。少女向けっぽいから人を選びはするだろうけど、本当に巧いと思う。むしろ、新ロボが出たとはいえ刊行ペースの遅い『フルメタルパニック』が1位なのが分からん、スパロボ効果か?(というか、ラノベ界でガチで天才な冲方丁は? 「シュピーゲル」シリーズは評価されてしかるべきだろう)。ここ何冊かは読んでいないので、あまり詳しくは知らないのだけど。
 果たして、ライトノベルはどこにいくのかしらん? まさに気の遠くなるような問題だ。

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田中ロミオ『人類は衰退しました2』

2007-12-21 | ライトノベル
人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫 た 1-2)
田中 ロミオ,山崎 透
小学館

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「らめー!」(P248)

 田中ロミオのラノベ参入第二巻である。今回は、前回よりもロミオ度がアップ!………なのだが、あれ! イマイチかも……。

 『人衰』は遥かな未来(?)人類が衰退して旧人類となり、新人類であるところの妖精さんたちと交流を図るというお話である。粗忽者でときどきちらりと腹の黒さが見える、おそらくは菓子作りだけが取り柄であるところの「わたし」が主人公。

 今回は、その「わたし」が妖精さんのイタズラに巻き込まれる二編。しかし、ロミオらしい軽妙な文体や精妙な構成・トリック、そして科学に載っけたロマンチシズムは光りまくっているものの、なんかこう読んでいて駆り立てるものがないというか。よくわからんけれど、なんだか面白かった第一巻と比べるとちょっと残念な気が。思うに、妖精さんとのやりとりが案外少なかったからではないかと。うーむ。

 正直、この小説が、すでにロミオの作品を知っているという人以外にどう読まれるかって、よくわからんなあと。いかにもな設定があるわけでもなし、分かりやすい萌えがあるでもなし、とりあえずロミオ的なものを期待している人以外には、タッチしにくいのではないかと。まあ『CROSS†CHANNEL』とか『最果てのイマ』級のを作ってくれ、と言われてもおいそれと出来るわけはないだろうし。レビューはたくさん立っているから、それなりには売れているのだろうとは思うけど、逆に言えば、GAGAGAはまだ出来て間もないだけあって、アニメ化とかもしてないし、他のが売れてなさ過ぎなのだろうとも思う。しばらくは角川グループのラノベ寡占状態は安泰か。本当にありがとうございました。

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冲方丁『オイレンシュピーゲル3 Blue Murder』

2007-12-20 | ライトノベル
オイレンシュピーゲル 3 (3) (角川スニーカー文庫 200-3)
冲方 丁
角川書店

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 同作者の『スプライトシュピーゲル』にリンクするライトノベルシリーズの3巻。ただし、今回はリンクというよりも、『オイレン』を先に読んでしまうと『スプライト』のネタバレっぽくなってしまうので、『スプライト』を先に読むことをおすすめ。
 今回の話は、それぞれの短編がゆるやかに繋がった短編集といったところ。で、なんといっても2巻が面白い。『マルドゥック』シリーズでしか味わえなかった、冲方丁の一番評価している部分が凝縮された短編。思うに、冲方丁の最大の適性って、テロもののサスペンスでもファンタジーでもロボットものでもなくて、古き良きってついてしまいそうな探偵小説なんではないかと思う。小さな手掛かりを頼りに、次から次へ目標を追っていく興奮とか、ハードボイルドな価値観とかもう最高である。文体はアレだが、冲方先生がもっと売れるフィールドとかないのかなあ。それとも、ラノベだからこそ、隠れた超人として評価されているのか? どうもイマイチ評価されているのか見過ごされているのか分からんお人である。
 『スプライト』もそうだったけど『オイレン』も折り返し地点な予感。長いシリーズかと思ったけど、6,7巻くらいで完結するのかな。とりあえずはプロージット(乾杯)。

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冲方丁『スプライトシュピーゲル3 いかづちの日と自由の朝』

2007-12-18 | ライトノベル
スプライトシュピーゲル 3 (3) (富士見ファンタジア文庫 136-10)
冲方 丁
富士見書房

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 冲方丁の近未来サイバーパンクテロものの三巻。今回もいつもに増して、どんどん事態が推移していくカオスな構成。僕は見たことが無いけれど、作者も言及しているからには『24』に近い感じなのではないかと。
 3巻は国家に裏切られた特殊部隊が国家に報復する話なんだけど、なんと言っても超絶構成がすごい。これだけ複雑な流れが圧縮された小説は、他に思いつかない。それに、いかにも冲方的な人間主義+ロマンチシズムがあって、燃える人は燃えるかも。僕はイマイチ乗り切れなかったが。それ以前に、文体見た瞬間にパスしてしまう人も多いだろうが。
 しかし、冲方は文体も構成も語彙も知識も主張もすごいなと思う。呆れるように関心してしまう。そういう意味では、限りなく最強に近い小説家ではあると思うんだけど、最高の小説家ではないんだよなあ。あえて欠点を挙げるとすれば、人間関係を描くときに、いかにも、なものを描きすぎて、感傷など微細なものを描かない点だろうか。何か、構成が巧すぎるだけに損をしている部分があると思うのだけど…。

 まあそれでも『スプライトシュピーゲル』のシリーズのなかでは文句なく今までで一番面白い巻だったと思う。でも、どうなんだろ。あんまり売れてないのかな。実力の割に知られていない作家だし(大学院のそれなりにラノベ読む友だちも知らなかった)。もったいないと思うのだが…。
 今回の話で、展開があったとともに一区切りついて、果たしてどこへゆくのやら。

 最後に、この巻は例によって『オイレンシュピーゲル』の3巻と話がリンクしているのだけど、『スプライト』の3巻を先に読むのがおすすめ。

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庄司卓『サーバンツログ 英雄は泣かない』

2007-12-11 | ライトノベル
サーバンツログ 英雄は泣かない (ソノラマノベルス)
庄司 卓,久織 ちまき
朝日新聞社

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 大佐殿は………×美少女 ○キモオタ

 今月はなんと三冊も小説を上梓される庄司先生の新刊。一巻読み切り。いつもながらちょっとひっかかる文体であるけれど、その文体が固まってきて、庄司節とでも呼べそうなちょっと独特の雰囲気を作っているような気がする。

 『英雄は泣かない』は、庄司氏自身は厳密には違うと言っているけれど、まあスペースオペラな感じの星間戦争ものである。『銀河英雄伝説』や『星界』シリーズなんかを思い浮かべるとイメージが湧きやすいと思う。あるいは、イラストの久織ちまき氏のイラストを思えば『野望円舞曲』なんかを思い出すのだけど、あれは打ち切りだったんだよなあ。面白かったのに。

 話としては、ある有名ではあるがマスコミに顔をさらしていない英雄的な指揮官のもとに、士官学校を出たばかりの若者が見習い兼秘書くらいの立場のアドミラルズサーバントとして配属される。しかし、当の大佐殿はなんとキモオタ。そのキモオタ大佐に配属された青年はそのもとで戦争を見ることになるのだが…。

 一巻読み切りということもあって、よくまとまっておりオチの付け方も巧い。庄司氏と言えば、スペースオペラもので、いかにもな感じのヒロインをたくさん出してラブコメをやる一方で、裏で結構どろどろとした政略や計略が動いているというタイプのラノベを良く書いていて、そのバランスが僕は好きなのだけど、今回はキャラ成分はやや薄めで、計略度が高め。まあ、それこそ『銀英伝』みたいな戦略が展開されるわけである。逆に言えば、作者が言う意味での「スペオペでなさ」を除けば、かなり直球なスペオペなのである。そういう意味では、『星界』シリーズって相変わらず刊行ペース遅いよね、と思っている人にはとりあえず勧めてみたい一品である。普通に面白いし。あと、大佐殿は明らかに『デスノート』の”L”の影響を受けて描いている感じ。思えば、『コードギアス』のルルーシュとか、『デスノ』の”キラ(月)”の影響を受けたキャラは結構出てきたけれど”L”の影響を受けたキャラってちょっと思いつかないなあ。ひょっとして(二番煎じとは言え)画期的? 思えばありそうでなかったキャラだけに、大佐殿の設定だけで、庄司氏に勝ちをあげたい。あとは、最近のアニメとかでは両陣営互いに殲滅戦、絶滅戦を仕掛けているという設定ばかりだけど、本作はちゃんと「捕虜交換」などの制度が置かれているのが良識的で、地味に好感。

 作者はよほど売れたりしない限りは続編は出さないと言っているけれど、ドーレムの設定とか、キャラの過去とか、読み切りの割には過剰に設定してあって、なかなか広げられそうな感じはする。残念ながら、こういうシリーズって今はやんないよねとは思うが。僕は好きなんだけどなあ。

 ところで、さっそく作者のブログで訂正が出ている。最初のページの「ドーラム」の意味は、「遺産」ではなく「贈り物」だそうな。あと普通に読んでいて2個所誤字脱字を発見片方はどこか忘れたけれど「むろん」か「もちろん」でなければならないところが「もろん」となっていたの。もう一つはP152の下段の後ろから5~4行目の「いじりながら」とならなければならないところが「いじりなら」になっている。こういうライトノベルの誤字脱字の多さには残念感が漂う。まあ、そんなに気にしないけどね。

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西尾維新『不気味で素朴な囲われた世界』

2007-11-05 | ライトノベル
不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス ニJ- 20)
西尾 維新
講談社

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 西尾維新の『不気味で素朴な囲われた世界』を読んだ。「戯れ言」シリーズを読み終えた一時は、これで一生西尾維新を読むことはないかなあとも思っていたけど、西尾作品の中では好きだった『きみとぼくの壊れてた世界』と同じシリーズということで読んでみた。このシリーズであともう一冊出るらしいのと、西尾作品としては傑作らしい『化物語』で、それ以上西尾作品を読む必要も無くなれば良いのだけど。なんか、作風がマッチポンプ式なんだよなあ。

 『きみとぼくの壊れた世界』は犯行の動機というか、犯人がどうしてそのトリックを使ったというのが面白く、読後感が悪くなかったけど、『不気味で素朴な囲われた世界』は『きみぼく』のリバースな感じ。しょーもないと言えばしょーもないのかもしれないが、まあアリと言えばアリなのだろう。殺人のトリックとかは、まあ西尾維新がこれぞというトリックを考えたことはなかったにしても、あっさりめ。むしろ、容疑者たちとの心理戦(?)に重点が置かれている。舞台がUFO研究会だとか、主人公が日常を壊そうとしている辺りは『ハルヒ』への皮肉かとも思ったけれど、最後まで読んでみるとそうでもなかった。

 というわけで、あんまり面白くもなかったような。いつもの西尾維新の中でも弾け切れていないと言ったところ。特におすすめするわけでもなく。

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秋田禎信『エンジェル・ハウリング9 握る小指』

2007-11-03 | ライトノベル
エンジェル・ハウリング(9) 握る小指――from the aspect of MIZU
秋田 禎信
富士見書

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「ただひとつだけ。ここで学べなかった距離はただひとつだけだった。触れ合う距離。ほんの弱い力でいい。相手の存在を確かめるために肌と肌を摺り合わせる距離だけが、ここにはなかった。
 いや、かつてはあったはずなのに忘れてしまった。
 ほんの弱い力。近い距離。
 そこにある手を握るだけの力と距離。
(そうか。それは……人を好きになる距離だ)
 それを失っていた」(P55)

「イムァシア人は完全なる武器が実在すると信じた。問いかけには常に完璧な答えがあると信じてしまった。自分の英知が万能だと信じた。答えのでない問いが何故この世界にあるのか、それを忘れてしまった……支配できないものとともに生きることが怖かったから。彼らは恐怖に耐えられなかった」
「ならばミズー・ビアンカ。君は疑問を恐れないのか?」
「いいえ、でも今なら受け入れることはできる。疑問と恐怖をもたらすのは他人の存在。自分だけであれば世界は安堵できる。でもその世界は――」
「その世界は?」
「きっと、硝化しているんでしょうね。他人事じゃあない。まさに私の中に、その硝化が巣くってる」
「それで、どうする?」
「中のものは吐き出す。離されたものは取りに行く。シンプルにね」(P234)

 『エンジェル・ハウリング』ミズー編の最終巻。やっぱり良いですな。私的には、ライトノベルっぽくないところを除けば、最高のライトノベルだと思う。まあ、かなりマニアックだけど。

 『エンジェル・ハウリング』のミズー編のあらすじ。
 かつて双子の姉とともに「絶対殺人武器」という最強の暗殺者として育てられたミズー・ビアンカだが、ある日姉のアストラは連れ去られ、その3年後にミズーは彼女を閉じこめていたイムァシアという街を滅ぼして脱出。その後、暗殺者として生きていたが、ある日アマワという謎の精霊に、彼女が姉の「契約」を相続したことを知らされる。アマワと契約について知るために、彼女は答えを知っていそうな、退役軍人のベスポルド・シックルドに会いに行くが、彼のいる地で帝国の暗殺執行部隊黒衣の一団とアストラの夫だと名乗るウルペンという男と接触。戦闘にはかろうじて勝利するが、ベスポルドは連れ去られてしまう。ベスポルドを追おうとするミズーだが、そのもとにジュディアと名乗るミズーたちより前にイムァシアで暗殺者として育てられた女が、事態を影から操ろうとする神秘調査会のアイネスト・マッジオの差し金で現れる。もともとミズーをイムァシアに引き渡したのも、アイネストだという。ジュディアのおかげでベスポルドに会い、アマワと契約について訊ねる彼女だが、明確な答えは得られぬまま別れる。次に、ミズーとジュディアは、組織の力を借りるために、ペインというギャングが仕切る街に入るが、そこで再び黒衣とウルペンと戦闘。アストラの生存を知ったミズーは、帝都にアストラを救い出しに行くことを誓う。度重なる戦闘やジュディアとの交流を通して、殺人者としての自分に疑問を感じはじめるミズー。ペイン・ギャングのファニクの力を借りて帝都に入り、遂にアストラを見つける彼女だが、アストラは心を失い、精霊になっていた! アストラとの衝突を切り抜けるミズーだが、不死者の棺と呼ばれた帝都は崩壊。殺人精霊として全ての人を殺し続けようとするアストラを追跡する旅にでるミズーだが、ウルペンの誘導にして襲撃にあう。遂にアストラを追ってイムァシアにたどり着いた彼女はウルペンを退け、アストラに再び会い、殺す。戦いを終えた彼女は、ジュディアとともに、再び旅に出るのだった。

 ……という話である。「獣の瞬間」とか「精霊」とか「距離」の設定のおもしろさやフリウやマリオといった登場人物のことは抜かれているけど、説明し出したらきりがないので仕方ないか。

 最初はハードボイルドな暮らしをしていた(実は泣き虫な)女職業殺人者が、様々な人に出会うことで、殺人者としての自分に疑問を持ち、かといってただ剣を捨てるのではなく、剣をもつ他の理由を見つけ、かつ別たれてしまった双子の姉に愛を伝える、という超ロマンチックな話なのである。けっこう恥ずかしがりながらも、物語の力を素朴に信じている秋田先生らしい小説である。
 いやー、しかし「愛」という凡庸ったら凡庸なテーマをこれだけ真正面から、深く書けた小説ってないんじゃないかなあ。恋愛小説とかだと「恋愛ステキ☆」ってだけで上滑りしているし、古今東西の文学でも「愛」というのをそのままテーマにしたのは咄嗟には『嵐が丘』くらいしか思い浮かばない。
 「愛」ってなんだ? この問いにこれだけ答えている小説も、ないんじゃないかと思うのである。

 それと、私論をつけ加えておくと、ファンタジーって、世界や社会の「野蛮さ」がデフォルト設定だから、ファンタジーほど「倫理」を描けるジャンルはないんじゃないかと思っている。SFは「世界」で、純文学は「人格(自意識)」、恋愛小説は「コミュニケーション(の不確実性)」、ミステリーは「反省(問い直すこと)」。この分類でいくと、最近の萌え&ノージャンル化したラノベは「(非)日常」かなあ。まあ、私論にして試論です。

 というわけで『エンジェル・ハウリング』は最高。しかし、こういうラノベだと、最近の緊張感のない垂れ流し的なラノベが売れている風潮では、売れないわなあ。というか、『オーフェン』があれだけ売れたのも今となっては不思議といえば不思議だし、……もう忘れられてるし。秋田先生はまたこういう小説書いてくれないかしらん。

「精霊アマワ……お前にくれてやるのは、この一瞬だけ」「ほかはわたしのものだ!」(P244)

「あなたはなにもかも奪おうとする。でもあなたには奪えないものがある。だからなにも手に入らないのと同じ。あなたは哀れよ。気をつけることね。わたしはもうあなたを恐れない……わたしの前に現れたなら、負けるのはあなたよ」(P247)

「暗闇の中、誰にも声がとどかないとしても、失望せずとも良い。
 言葉は語るためのものではなく、伝えるためのものだ。
 語らずとも、生きて伝えることはできる。彼女の言葉を必要としていて、探している者ならば、彼女が語って聞かせなくともいつか必ず見つけてくれるだろう。それで良い」(P254)

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秋田禎信『エンジェル・ハウリング7 帝都崩壊①』

2007-10-27 | ライトノベル
エンジェル・ハウリング〈7〉帝都崩壊1―from the aspect of MIZU
秋田 禎信
富士見書房

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「崩壊する中で、ミズーは剣を投げ捨て、金切りをあげた。
殺意も衝動もない純粋な瞬間へと。
生と死に挟撃される獣の生涯へと。
……何故。
どうして獣の時間の住人がふたりいなければならないのか。
ただひとり、絶対の殺人者が孤独でのみ存在できるはずのその時間に、どうしてふたりで存在できたのか。
その理由が分かった。
それが同じ世界で同時に存在するならば。
なにもかもすべてを殺し尽くすうちに、いずれ互いをも殺し消滅する。
最初から存在しないのと同じことになる。
最後まで存在しながら、最初から存在しない。その空隙に一瞬にならば、絶対殺人武器は存在できる」(P325)

 最近、忙しい合間を見つけて読み直している『エンジェル・ハウリング』のミズー編である。……やっぱりいいなあ。次の9巻がラストでそのときにまとめた長めの感想を載せようと思うので、詳細は割愛させてもらうけど、好きな小説を三つ挙げろと言われれば、たぶん一つはこれを挙げるんじゃないかと思う。今風に言えば「魂の作品」といったところか。僕は「愛」とか観念的なものは信じない質だけど、こういう観念的なものを信じさせるような小説や音楽などの芸術や娯楽を読むと、くらっと信じたくなってしまうし、信じちゃう。それくらい好きな小説だ、ライトノベルだけど。なんか最近読み応えのあるライトノベルを読みたいなという人には、おすすめ。
 しかし、惜しむらくはライトノベルの商品としてのあまりの賞味期限(?)の短さだ。『ブギーポップ』にしても『イリヤの空』にせよ(まあもっと古ければ『ロードス島』でもいいが)、名作と呼ばれるライトノベルも、最近ラノベの読者になった人は読まないんだろうなあ。『ハルヒ』が流行っている現状では、もう「古く」なっているのかもしれないけれど、今読んでもすごい小説なのに。まあ、毎月あれだけラノベが量産されて、本屋の棚に収まらないほどだし。廃刊も多くて、庄司卓先生の(だいぶ前に出たのだけど)『ヤマモト・ヨーコ』の最新刊をアマゾンに注文しようとしたら、無かったし…。名作マンガの文庫版じゃないけれど、良いラノベはちゃんと次代に残せるような愛蔵版みたいのがあればいいと思うんだけど、誰も買わんだろうなあ。

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