哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

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『シュヴァリエ』

2008-06-30 | アニメ
シュヴァリエ Vol.1

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「主よ、私の不幸を喜ぶ者、私に逆らい誇った者に辱めと不名誉を下したまえ。私の正義に歓喜を与えたまえ。主よ、どうか彼らの上に恐怖を投げ、彼らが人間に過ぎぬことを思い知らせたまえ。私の敵、私を責める者をことごとく打ち砕く、その真実と忠誠の名において、私はお前に報復する」

 冲方丁原作のアニメ『シュヴァリエ』を見た。ちょっと前の話だが。
 時は18世紀、フランスはルイ15世の治世。革命の予兆。宮廷に仕える騎士であるデオンは、姉のリアの怪死を目の当たりにしたことをきっかけに、王直属の機密局局員となる。しかし、デオンが所属した後すぐに行われた作戦で、機密局は壊滅。窮地に陥る彼だが、新たな機密局の仲間を得、王の詩と姉の死の謎に満ちた各国への旅を始める。

 まず、第1話がいかにも冲方的な圧縮された物語展開ですごい。正直圧倒された。その後2話3話と第1話に準じた展開で進み期待が高まるが、デオンたちが旅に出、いよいよ物語が動く段になると、良くも悪くも落ち着いた感じになっていく。それでも、キャラクターデザインや小道具、時代考証に至るまでリアルに作られた非常にできのよいアニメである。かなりのオカルト趣味がありちょっとグロもあるところとかを除けば、普通に歴史もののアニメにさえ見えてくる。おかげで、ちょっと歴史の勉強になることも。
 設定として独特なのは、詩人と呼ばれるいわゆる魔法使いと、詩人たちが聖書(?)の詩篇を読むことで、魔法を発動させるという設定。これはちょっと良かった。それに、「はじめに言葉ありき」という言葉で始まり終わることからも、言葉というものがよく考察され、うまく使われている。なんというか、非常に冲方的。それに、『マルドゥック・ヴェロシティ』における人格の共有というモチーフも形を変えて取り入れられてやはり冲方的。あと、終盤の人の死にっぷりもやはり冲方的。というわけで、非常に冲方度の高いアニメだと思う。
 あとは、ほぼヒロインがいないようなアニメなのに、結構キャラクターが魅力的。作中ではダメ君主呼ばわりされ続けているルイ15世なんか、僕は結構好きだな。テラゴリー先生もめちゃくちゃかっこよかった。さらに、作中の架空の歴史と実際の歴史がある人物を軸に結びつく点も秀逸。

 ただまあ、ちょっと疑問に思ったのは、この物語が何を主張しているかということ。引用したくだりなど、この物語は「報復NQM」というのが大きなモチーフになっているが、この概念の物語上の位置づけがいまいち腑に落ちないのである。「復讐はいけない」的な単純なものだけではないのは確かなのだが。作中では「報復」は壊れた秩序を元に戻す的な意味だと解説されていたはずだが、この時代は近代に差し掛かり社会構造が劇的に変わり、フランスでも後に革命が起き、大きな破壊が起こるという変わり目である。あまり似つかわしくない。あるいは逆に、作中の何人かの人物がそうだが、「高貴なる義務」的な世襲制による秩序の維持が不可能になったときに、王侯貴族たちの回顧が、「報復」という形でロマン的に投射されたものかなあとも思うのだが、作中のイメージからは直接抽出できない気もする。もっとちゃんと見ればよかったかなあ。さらに一方ではフランス国旗のトリコロールに象徴される、「自由」「平等」「博愛」の理念もかなり憧憬の対象になっていたが、こちらはさらに弱かったかな。

 まあでも一言言うなら、良いアニメだった。見ごたえあり。オチはちょっと弱し。

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