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安倍政権の「ネギ鴨外交」がトランプ政権との交渉を不利に導く  (抄) Plus

2017-01-31 | いろいろ

ジャーナリスト田中良紹氏のヤフーニュースのコラムより

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安倍政権の「ネギ鴨外交」がトランプ政権との交渉を不利に導く

 米国のトランプ大統領は、オバマケアの見直し、TPP離脱、メキシコとの「壁」の建設、移民の制限強化など次々に大統領令に署名して選挙公約の実行を国民にアピールしている。オバマ時代の記憶を1日も早く消し去りたいようだ。

 「ケミストリーが合わない(相性が悪い)」とみられたオバマ前大統領に安倍総理は「ネギ背負った鴨が這いつくばる」ように取り入り、日米同盟の復活強化を大々的に宣伝したが、トランプ大統領への交代によって再び「ネギ鴨」を演じなければならなくなった。

 安倍総理にとってトランプ大統領とは「反リベラル」という共通項があり、オバマ前大統領よりケミストリーは合うはずだが、しかしオバマ時代に築いた日米関係をすべてゼロにしなければ許してもらえない。今度の「ネギ鴨」はこれまでより厳しくなることが予想される。

 第一次政権時代の安倍総理にとって最大の敵は実は小泉純一郎元総理であったというのがフーテンの見方である。小泉元総理は安倍総理を後継指名して育て上げるつもりでいたが、安倍総理は就任するや否や、小泉総理が自民党から追放した郵政民営化反対議員たちを自民党に復党させた。

 飼い犬に手を噛まれた思いの小泉元総理は中川秀直幹事長を通じて安倍政権をコントロールしようとし、安倍総理と中川幹事長の間には終始隙間風が吹き続けた。また小泉元総理の靖国参拝が日中関係を悪化させたことで安倍総理は自らの靖国参拝を封印せざるを得ず、それが支持者を裏切ることにもなった。

 しかも誰もが認めるブッシュ・小泉の盟友関係に安倍総理は立ち入ることができない。米国の信頼を得たい安倍総理はインド洋で海上自衛隊が米軍に給油活動することを国際公約したが、2007年の参議院選挙で自民党が惨敗し国際公約を果たすことが難しくなった。

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別Webより

 それでも安倍総理は続投を宣言し、当時の小沢一郎民主党代表に話し合いを申し入れるなど打開の道を探ったが断られ、一方で小泉氏の側近である小池百合子防衛大臣が訪米してチェイニー副大統領に自らを売り込むなど、自民党の中にも辞任させようとする包囲網のあることを知り、臨時国会冒頭での無様な退陣劇を演ずることになる。

 その教訓から第二次政権で安倍総理はまず米国に取り入ることを至上命題とした。

 しかし相手はリベラルのオバマ大統領である。オバマ大統領は我々が見ても分かるほど露骨に「安倍嫌い」を見せつけた。

 第二次政権が始まってすぐの2013年2月に安倍総理は訪米しオバマ大統領と初の首脳会談を行うが、夕食会も出迎えもない冷遇ぶりだった。その会談で安倍総理はオバマ大統領にTPP参加を表明する。

 直前の総選挙で自民党はTPP賛成の民主党政権に対抗し「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない」という選挙ポスターを全国に張り巡らしたが、国民に対する選挙公約より米国に取り入ることを優先した。

 そして4月にオバマ大統領を国賓として日本に招待する。オバマ大統領はこれも嫌がった。

 国賓は夫人同伴で迎賓館に宿泊するのが普通だが、渋々訪日したオバマ大統領は夫人を同伴せず、ホテルに宿泊し、しかも大統領の日程を直前まで日本側に知らせなかった。

 さらにオバマ政権の国務長官と国防長官は来日すると千鳥ヶ淵墓苑を参拝して安倍総理の靖国参拝をけん制し、その後、安倍総理が靖国神社を参拝するとオバマ政権は「失望」を表明して不信感を露わにした。

 この靖国参拝を境に安倍総理は自身の考えを封印し米国の「調教」を受け入れるようになる。そしてジャパン・ハンドラーズが主張してきた安全保障政策を全面的に受け入れ、解釈改憲の道を突き進む一方、米国のパートナーとしてTPP推進の先頭に立ったのである。安保法改正とTPPの強行採決ほどオバマ政権を喜ばせたものはない。

 米国から見れば日本は自国より米国の利益を優先する「ネギ背負った鴨」に見えたはずだ。

 2015年に安倍総理は「安保法成立」を日本の国会で説明するより先に米国議会に約束したが、その姿勢は米国から大歓迎された。こうして安倍総理は米国から信頼される日本の総理として胸を張るが、オバマ政権を喜ばせた強行採決の数々は、トランプ政権に代われば裏目に出る可能性がある。

 なぜならそのことが日本の交渉カードの数を減らしてしまったからである。

 外国と交渉事を行う時の政権は反対者を蹴散らしてはならない。国内に反対者がいるからこそ他国との交渉を有利にすることが出来る。米国の大統領は連邦議会の反対の声を利用して相手国に更なる要求を突きつける。それが政治の常とう手段である。

 日本でもかつての自民党と社会党はその役割分担で米国の要求を撥ねつけてきた。従って自民党は「一強」であっても国会では社会党の顔を立て、修正協議を行うことを常に心がけてきた。どちらにでも転べる政治にしておく方が国益につながるからである。

 トランプ大統領はTPPからの永久離脱と2国間貿易交渉の促進を掲げている。その貿易で米国から利益を吸い上げていると名指しされたのが中国と日本だ。中国が名指しされるのは分かるが、日本が名指しされるのはどういう訳か。押せば引っ込む国であることを示してきたからではないか。

 トランプの狙いはTPPより米国に有利になる結論を導くために2国間交渉を行うと宣言している。米国に取り入ることだけを考え「調教」されてきた安倍政権はTPPを強行採決した後で何をテコに2国間交渉に臨むつもりだろうか。

 「2国間交渉を行わないためにTPPを採決する」とか「トランプ政権にTPPを説得する」とか言ってきたが、すでに2国間交渉やむなしの姿勢に転じている。これではズルズルと言いなりになるだけだ。

 またトランプ政権はこれまで以上の軍事負担を日本に求めてくることが明らかだ。

 かつての「テロ特措法」や「イラク特措法」のように期限付きの法律であれば、法律の期限がきたことを理由に抵抗することも可能だが、安倍政権が一昨年に強行採決した安保法は恒久法であるからトランプ政権の要求に抵抗することは以前より難しい。

 オバマ政権に気に入られるために作り上げた日米関係が、トランプ政権への交代で予想もしない方向に引きずられていくことがありうる。

 だから昔の日本政治のようにどちらにでも転べる状態にしておく知恵が政治の世界には必要なのである。
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